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第27話

 私にとっての兄ちゃんのように、ジェラールにとっての特別な存在は私だ。

 その想いは時に私を戸惑わせるほどだ。

 実年齢は三歳であるのに、体の方はすでに姉のディアナに追い付いてしまいそうだ。

 その急激とも言える体の変化が私には不思議で、リオに一度聞いてみたことがあるが、

「不思議ですね」

 と、にっこり微笑んでいたがその瞳は何かを隠していた。リオは、というより王はまだ何かを隠しているのだ。それ以上何かを聞ける雰囲気ではなかったので、深入りはしなかった。

 不思議に満ちたジェラールの体と私への執着は成長していくばかりだ。

 近頃のジェラールは、私の隙をついてはキスをする。頬やおでこではない、唇にだ。

 私のこの世界でのファーストキスはジェラールなのだ。そもそも、いまだにリオと唇を交わしたことはない。それもどうかと思うが、照れ屋なリオなら仕方ないのかと、ゆっくり構えることにしている。

 そんなことより、ジェラールだ。いくら子供だといえ、キスし過ぎなのではないか。というか、私の隙が有りすぎ?

 今日も今日とて、公衆の面前でぶちゅっとされました。というのも、兄ちゃんや兵士の皆さんへ差し入れしにジェラールと共に訓練所に来たわけだが、兵士の一人が余計なことを口走ったのが原因だと思われる。

 私をお嫁にしたい、なんていう見え見えの社交辞令なのだが、まだまだ幼いジェラールにはそれが分からなかったのだ。

「ダメよ。あかりはジェラのおよめさんなのっ」

 そう公言したあと、ぶちゅっとされたわけだ。

 兵士たちは面白がってやんややんやするは(表向き仲良し兄弟と思われている)、それをバカにされたと思ったジェラールは怒りだすわで大変な騒ぎになった。ジェラール、兵士さんに噛み付いちゃうし。大人な兵士さんは快く許してくれたけど、ジェラールは憮然としていて、反省の色は窺えないし、散々な結果となった。


「ねぇ、メイヤ。ジェラのあれ、どう思う?」

 ジェラールが昼寝をしている間に、メイヤに相談するつもりでいた。

「あれってあれですか?」

「あれよ、あれ」

 もちろん、この場の『あれ』というのはジェラールがキス魔だということなのだが。

「この国では、キスは挨拶みたいなものだったりする?」

「いいえ。挨拶でキスなどしません。キスは、想い合った男女がするものです」

 日本人だから、人前でチュッチュすることには抵抗がある。その考え方にこの国は類似しているようだ。

「じゃあさ、なんでジェラはキスするんだろ。そもそもキスの意味を知っているのかな? 私、教えてないよ?」

「私も教えていないですよ。男性陣が面白半分に教えたんじゃないですよね?」

 兄ちゃんが面白半分にジェラールに教えたという可能性は高いように思えた。それで言ったら、エロイだってその可能性を持っている。恐らくリオではないと思う。

 どちらにせよ問題は……、

「注意して止めさせるべき?」

 ということだ。

 決して悪いことではないはずだ。問題なのは、それを普通に受け入れてしまう、目に入れても痛くないと思っている相手にキスをされて悪い気がしていない私なのかもしれない。

 ジェラールの唇の感触を覚えてしまった私は、変態なんだろうか。

 私の教育上良くないのかも。

「可愛らしい悪戯の一種だと思いますけど。これが本気であかりに襲い掛かるようになったら問題ですけどね」

「そんなぁ、あるわけないよぉ。えぇっ、その目は何っ」

 残念なものを見るように、頭を左右に振り、さらに大きなため息を吐いた。

「私はいつも第三者として見ていますから分かります。ジェラール様の目は、恋をしています」

「えぇっ、恋っ。それって……」

「相手はもちろんあかりですよ」

 相手は私じゃないよね。という言葉をかっさらうようにメイヤが追い打ちをかける。

「でも、ジェラはまだ三歳なんだよ?」

「恋をすることに年齢制限がありますか?」

 何も言えなくなった私は、口をつぐんだ。

 メイヤが言うことは正しいのかもしれない。幼稚園児だって、園児なりの恋をしているのだ。○○君と結婚する、と豪語した子供たちが実際に結婚する可能性は極めて低いし、その頃の気持ちを覚えていることも少ないだろう。それでも、それが不誠実だとどうして言えるだろう。子供なんだから、と言うのは簡単だ。

「メイヤ。こういう場合、私はどうしたらいいの?」

「きちんと答えてあげればいいんじゃないですか? 子供だから分からないだろうじゃなくて、分からないなら分かるように話してあげればいいんです」

 一瞬、メイヤが教師に見えた。

 子供だからうやむやにしていいわけじゃない。寧ろ子供だから理解させてあげなきゃならないのかもしれない。

「難しいかもしれないけど、やってみる」


 ジェラールを散歩に誘い出した。毎日のように散歩をしているので、別段変わったところはない。いつもと違うのは、私の心構えだろうか。

 とにかく今日は、ジェラールと腹を割って話してみようと考えていた。ジェラールの私への気持ちが憧れなんかじゃなく、恋というものに分類されるものであるのなら、自分の気持ちをきちんと話すべきだ。

 もしかしたらそれで結果としてジェラールを傷つけてしまうかもしれない。そう考えると、まだ時期が早いんじゃないかと思わざるを得ないのだ。

 いつもの庭園に来ていた。肩に乗っていたチェスは、ぴゅんっという音がしそうなほどのスピードでどこかに消えていった。チェスが向かう先は森だ。仲間がいるのかもしれない。一度入ると暫く戻って来ない。そして、道をしったチェスはふらりと帰ってくるのだ。最近では、森にいる方が多い。

「ねぇ、ジェラ。ジェラは私のこと好きなの?」

 どうやって切り出そうと思い悩むばかりに、ド直球な質問を投げかけてしまい、口にした後相当慌てた。だが、言ってしまったからにはあとには引けない。

「すきだよ」

 にっこりと微笑むジェラールはなんて可愛いんだろう。「うん、私もジェラ大好きだよ」と、危うく言わされるところだった。

「その好きはどんな好き?」

「だいすきっ。だいだいだいだいだいすき」

「例えば、兄ちゃんやリオやエロイ、メイヤも好きでしょう? 私を好きだという気持ちと同じ好きなのかな?」

「ぜんぜんちがう。あかりはぼくのとくべつだから」

 これは本当に恋なのか?

 特別って言ったって、必ずしも特別が好きとイコールで繋がっているわけではないと思うのだ。

「じゃあ、ジェラは私とどうなりたいと思ってるの?」

「もうすこしおおきくなったら、あかりをおよめにする。ほんとうはぼく、あかりのすべてがほしい。いますぐにでも」

 ちょっと待ってくれっ。

 これはっ、これは本当にジェラールが言った言葉なのか? 私の全てが欲しいってどういうこと? 大人の私にはいかがわしい響きを感じるのだけれど?

 イヤっ、待て待て。相手はまだ三歳の子供なのだ。そんな大それた意味があるとは思えない。

「私の全てが欲しいってどういうことかな?」

「わからない? そのままのいみだけど。ぼく、あかりといろんなことしたいんだ。きすもそうだけど、ぼく、あかりとセックスしたい」

 聞かなきゃよかった……。こんなにダメージがあるなんて思いもよらなかった。私、ここで意識手放してもいいですか? 現実逃避したいです。

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