番外編 *着せ替えお人形*
発売日に合わせての改題を忘れておりました……(汗)
遅れてしまいましたが、こちらの番外編もお楽しみ頂けたらと思います(*^^*)
その日、聖女エヴァリーナのお目付け役であるアレクシスは、一日中難しい顔をしていた。
「隊長、どうしたんですかね? いつも温和な隊長のあんな顔、初めて見ました」
「話しかければ普通だし、怒ってる感じでもないけどな。なにかあったのかな?」
騎士たちもそんなアレクシスの様子に気付いており、そこかしこでそんな会話が聞こえてくる。
「ねえねえ、最近のウィング騎士隊長、いつもと違うよね?」
「私も思った! なにか悩みごとでもあるのかしら?」
王宮の侍女たちの間でも、そんな噂話が囁かれていた。
そしてその者たちは皆、同じようなことを考えていた。
(((((まぁ悩んでいるとしたらきっと、エヴァリーナ様関係のことなんだろうなぁ)))))
そんな風に思われてしまうほど、アレクシスのエヴァリーナに対する過保護ぶりは、本人が思っている以上に周知の事実となっているのだった。
「――で? おまえは一体なにに悩んでいるんだ?」
「どうせエヴァリーナ様関係のことだとは思いますが、あまりにも鬱陶しいのであえて聞きましょう」
執務室でも難しい顔を変えないアレクシスに、エルネスティとリクハルドは呆れたような顔でそう尋ねた。
「え? お、おふたりとも、なぜ私がエヴァリーナ様のことで悩んでいると気付いたのですか? いつも通りに振る舞っているつもりだったのですが……」
いやいや、長年の付き合いじゃなくても分かるくらい分かりやすかったが?とエルネスティとリクハルドは心の中で突っ込んだ。
本気で驚いた様子のアレクシスに、ふたりは頬をひくりとさせながらも、とりあえずどうしたのかと再度尋ねることにした。
「いえ、大したことではないのですが……」
「そうでしょうね、大したことではないことは分かっています。ですがあなたのエヴァリーナ様への過保護ぶりが大したものであるから、めんど……こほん、念のためこうして聞いているのです」
イライラしながらも一応繕ったリクハルドの言葉に、面倒臭いことをさっさと解決したかったんだなとエルネスティは苦笑いした。
「……すみません。私の力不足なだけなのです。実は……」
しゅんとしながら事情を話すアレクシスに、エルネスティとリクハルドは、やっぱり大したことじゃなかったなと思いながらも、仕方なく最後まで話を聞くことにしたのだった。
「聖女殿の服、ねぇ」
「なんでもお似合いになるとは思いますが、まぁ好みというものもありますからね」
アレクシスの悩み、それはエヴァリーナが着用する服やドレスのデザインのことだった。
少し前の視察のような、市民の生活を見に行くようなものだけならばともかく、近頃はパーティーなどにも呼ばれるようになったため、急いで用意することになったのだ。
たしかに必要なことだが、専門外の自分たちに聞くのは間違いだろうと思いながらも、とりあえずエルネスティとリクハルドは、一緒に考えてやることにした。
曰く、今招待されているものだけでなく、今後外に出る機会も多くなるだろうからと、服やドレスを大量に作ろうということになったのだが、エヴァリーナはそれをやんわりと断ろうとするのだという。
謙虚な性格だから、多くはいらないと思っているのでは?とも考えたのだが、ならば数着だけでもと様々なデザインのものを見せても、首を振るのだ。
「色、形、リボンにレースに刺繍にと様々なタイプのものをご用意したのですが……。最終的に『うーん。……絶対に必要な分だけ、なんでもいいです』と言われてしまいまして……」
しおしおと項垂れるアレクシスに、エルネスティとリクハルドは、娘の誕生日プレゼントに悩む父親のようだと同じことを考えた。
「……では、あの方に意見を聞いてみてはどうですか?」
「「あの方?」」
ふとリクハルドが思いついた人物の名前を告げると、アレクシスは目を見開いたのだった。
「わ、私ごときにリーナ様のお召し物の意見を聞きたいなんて! め、めっそうもないです!」
「驕らない姿勢は好ましいですが、今はそういった謙遜は結構ですよ、料理長殿」
アレクシスが向かった先、それはなんと王宮の厨房だった。
そう、時々エヴァリーナが料理を指南する際に着用するエプロンを用意している、料理長に意見を求めたのである。
「ええと、リーナ様が好むデザイン、ですよね? わ、私なんぞが意見してもよろしいので……?」
おどおどと様子を窺ってくる料理長に、アレクシスは若干苛立った。
なにを隠そう、アレクシスは意外と短気なところがある。
エヴァリーナを相手にすると全くそのような素振りは見せないが、あまり待つのは得意でないし、はっきりしない返事をされるのも嫌いだ。
相手の発言の裏を読んだりはできないし、嫌味に気付かないこともよくある。
ストレートに言ってくれた方が分かりやすくて好ましいと思っているし、ストレートに言うことしかできない、そんな獣人らしい男だった。
「最近、あなたの用意するエプロンが気に入っているとリーナ様が発言しているようでして。料理長殿なら、リーナ様の好みをご存知なのではと思ったのです。ですから、そう固くならないで下さい」
ふぅとひとつ息を吐き、アレクシスが苛立つ気持ちを落ち着けて穏やかな声を出すと、料理長も少しだけほっとした様子で口を開いた。
「そ、そうですか、リーナ様が! それはよかったです! あ、ええと、好みのデザインについて、ですよね?」
そうして料理長がいくつかヒントをくれたことを、アレクシスは必死にメモを取るのだった。
* * *
いつもの一日を終え、夕食を前に自室でのんびりしていると、扉がノックされた。
「リーナ様、少しよろしいでしょうか?」
アレクさんだ。
きっと用件は、ドレスや視察用の服のことだろうなぁ……。
普段なら嬉しいアレクさんの訪問も、最近は少し申し訳なさの方が勝る。
なぜってそれは、私の衣装の準備に力を入れ過ぎな気がするからだ。
前世は庶民だし、クロヴァーラ王国にいた時も慎ましく暮らしていたから、簡素なもの数着だけで良いのに。
いや、むしろそうやって過ごしてきたことを知っているからか、必要以上にたくさん用意しようとしたり、かわいらしいものを選ぼうとするのだ。
仕立て屋を呼んで、サンプル品をいくつか見たり着たりさせてもらったが、あれもこれもかわいい!お似合いです!と褒め立てる店の人とアレクさんに、私は内心苦笑いだった。
ここしばらく、私は着せ替え人形よろしく、相当な量のドレスを試着してきた。
でも、そのほとんどは購入には至っていない。
気持ちは嬉しいのだが、やはりお金のことは気になってしまうし、それに……。
そっとため息をついて、こちら側から扉を開ける。
するとやはりそこにはアレクさんが立っていて、いつものように穏やかな笑みを浮かべていた。
あれ?でも、普段とちょっと違う?
「リーナ様、今日はほんの数着ですが、試しに作らせてみたものをお持ちしました。よろしければご試着してみませんか?」
「あ、ありがとうございましゅ」
やっぱり衣装のことかぁと思いながらも、アレクさんに部屋の中に入ってもらう。
「アレクシス様、私もお手伝いいたしますね!」
ミリアも張り切っているし、し、仕方ないわね……。
厚意を無碍に扱うことはできないと、立ち上がる。
そしていつもよりは少なめな、運び込まれてきた衣装たちを見て、私は目を見開いた。
「まぁ、これは……」
衣装を広げたミリアもまた、そう声を上げた。
「その、やはり実際に着るリーナ様の好みが最優先だと思い直しまして。かわいらしい色合いやデザインのものがお似合いになるとはいえ、中身は私と変わらないお年の立派な淑女だということに、ようやく思い至りました」
反省したのだと頭を下げるアレクさんが持ってきてくれたのは、どれもシンプルな形で、レースや刺繍も控えめな、落ち着いたデザインのドレスや普段使いできるワンピースだった。
「ですが、素材にはこだわっておりますし、とても上品なデザインのものばかりです。これらはとてもリーナ様の清廉なイメージに合っていると、個人的には思っております!その、いかがでしょうか……?」
おずおずと私の反応を伺うようなアレクさんに、私はぽかんと開けた口を、ふっと綻ばせた。
「……ありがとうございましゅ、アレクしゃん。せっかくでしゅから、着てみてもいいでしゅか?」
ぱっと見ただけでも着心地のよさそうな、それでいて私でも気後れすることなく着れそうなデザインの服とドレスたち。
「私に似合うかわかりましぇんが……。アレクしゃんの意見も、聞かせてくだしゃいね」
その中のひとつを手に取り微笑むと、アレクさんもまた、ほっとしたような表情で笑ってくれた。
「よーし!じゃあ早速お着替えしましょう! さすがアレクシス様、シンプルながらもリーナ様に似合いそうなものばかりで、私も腕が鳴ります!」
そう言って張り切るミリアに、その後衣装チェンジの度に髪型を変えたりアクセサリーを変えたりされ、結局着せ替え人形になっちゃったわね……と苦笑いを零すのだった――。




