258話 アジト⑤
「まずは検証に行きませんか? 椿大神社へ」
ゆうごのひと言で皆が椿大神社へと飛んだ。
「俺は岡山拠点をしばらくは動かない予定だ。いずれは北海道へ来たいと思っているが、今は動けない」
「そうだな。ゴンちゃんはあっちに家族や親戚が居るからな。でも来たくなったらいつでも来てくれ」
「ありがとう、カオるん。タウさん、まずは俺が岡山の拠点を登録してみていいですか? アジト認定がカオるんだけなのか誰でも出来るのか」
「はい、お願いします」
タウさんがゴンちゃんに向かってそう言うと、ゴンちゃんは早速手を合わせていのっていた。
そして皆が見守る中、笑顔で振り返った。
「アジト登録出来ました。向こうに居た血盟員にもアナウンスがあったと念話が来ました」
「そうですか、ありがとうございます」
「一応、自分はこれで岡山へ戻ります。何かあったらまた知らせてください。お願いします。ありがとうございました」
「ゴンちゃん、ありがとな」
「こっちこそ、カオるん、またな」
そう言ってゴンちゃんは帰っていった。
「さて、どうしましょうか」
「どうするって、アジトの検証だろ?」
「そうですが、問題は登録したアジトの変更が可能かどうかです。アジト認定が出来ただけでも奇跡であるのに、その上変更が出来るかどうか」
「そうだぞ? 出来なかったら俺らが大雪山に集まったのにカオるんだけ苫小牧から動けないって意味ない結果になるからな」
「そうか………、あぁぁ! そう言えば、異世界での話なんだが、ナヒョウエの店長を辞めたら2度と登録出来なかった。そうだ、思い出した」
「うわぁ、今ここで思い出すか」
「でも神様の御業ですから、それもありえますよね」
皆の無言が続く。
「じゃあ、私がやってみるね。別に札幌に未練は無いから、大雪山で登録してから札幌に再登録出来るか」
「アネさん……」
流石だ、アネよ。漢っぷり……は怒られそうだ。何っぷりだ?アネっぷりか?きっぷがよい。
アネがパンパン手を叩き目瞑っていた。と思ったら目を開けて振り返った。
「あ、大雪山のどこにしようか? 取り消し出来なかった場合を考えると大雪山全部を『王家』が乗っ取るのもね。タウさん、どこにしたら良いの?」
「では、大雪山拠点の東棟1階にしてみてください」
「わかったー」
前を向いたと思いきや、すぐに振り返った。
「出来たー。大雪山拠点東棟1階で出来たわよ」
「おお!」
「凄いな、分割可能なんだ」
「おおぅ」
「アネさん、アジト帰還スクロールをお持ちですよね。飛んでみていただけますか? 飛べたらまたこちらへ戻ってください」
シュっと消えたと思ったアネが後ろの鳥居の方から走ってきた。そうか、ブックマークが鳥居前だからな。
「はぁはぁ。出来たわよ。大雪山の東棟の一階入口だった」
「ありがとうございます。息が整ったら札幌拠点へアジトの変更が可能か、お願いします」
「はーい」
俺はアネの後ろからヒールをかけた。ヒールで息切れが治ればいい。
アネはまたパンパンと手を合わせていた。
少し時間がかかってるようだ……、やはり変更は不可能なのだろうか。振り返った時には眉間に皺を寄せていた。
「出来たわよ。王家の派遣は現在、札幌拠点がアジトになったわ。血盟員からの問い合わせが多くて辟易したわ」
そりゃそうだろう。札幌拠点に居た血盟員にしたら、いきなり大雪山がアジトになったアナウンスだ。
そこで驚いている最中に、札幌がアジトなったアナウンスだ。
「そっか、変更は出来たのか」
嬉しそうに頷くゆうごに申し訳ないが、さっきの異世界のナヒョウエの話を再びした。
「待った。ナヒョウエも店長にはなれなかったが、一度は店員として戻れたんだ。しかし店員を辞めたら2度目はなかった。つまり俺はその後ナヒョウエ無職になったんだ」
タウさんらの視線は俺の話を聞くなり、アネに集中した。
「ええー、もう一度変更するのぉ? 面倒いなぁ、変更がじゃなくて血盟員への説明が面倒」
「あ、じゃあ今度は俺がやるわ。2度目が無い場合を考えて最後は大雪山に着地したいから、まずは富良野で登録、そして大雪山へ変更、そしてまた富良野か」
「あ、でもミレさん、もしも3度目が成功した場合は富良野になります。それこそ4度目は無い可能性があります」
「だよなぁ、コロコロ変えたら神様だっていい加減怒るぞ?」
「うーん、まぁ、富良野で終わったら、俺は『埼玉の砂漠』を抜ける。そもそも出身も埼玉だったわけじゃないしな。そんでカオるんとこなりタウさんとになりに入れてくれ。芽依と真琴込みで」
「そ……うですね。そろそろ色々と考え直したりが必要になってきているのかもしれません。それはその時で。それと血盟員に検証中の旨を念話しておいた方がいいです」
「だな、個々に問い合わせ対応とか面倒くさいからな」
「そうよ! 大変だったのよ!」
そしてミレさんが手を合わせて拝んだ。
「富良野アジト成功した。ちょっと飛ぶ」
消えた後、鳥居の方から走って戻ってきた。ヒールをかけた。
「大雪山に変更された。ここまではアネと一緒だな。飛ばずにこのまま続けるぞ」
前を向いたミレさんに、ブレスドアーマーとブレスドウエポンをかけた。別に装備や武器を祝福したわけではないが、単なる願掛けだ。
皆が見守る中、パンパンと手を叩き拝むミレさん。
「あー……、成功と言うべきか、富良野になった…………、次は4度目か」
ミレさんは4度目の検証をしようと前を向いた時、慌てて止めた。
「待った、待って。ミレさんが成功するように祈る」
そう言って俺はミレさんに並んでパンパンした。ミレさんの願いが叶いますように。俺が祈ったからといってどうにかなるもんではないが、気がつくと皆が手を合わせていた。
そして、ミレさんがパンパンと手を打った。
「…………出来た。4度目も成功だ。埼玉の砂漠の拠点は大雪山拠点東棟1階になった」
「ありがとうございます。ミレさん、そしてお疲れ様でした、皆さん。一旦引き上げましょう。拠点のアジトをどうするかの話し合いをしましょう」
俺らは大雪山本部へと引き上げた。
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そこで改めて、血盟アジトの話し合いをした。
「ゴンザレスさんの猫の止まり木はアジトが岡山で。アネさんはどうしますか?大雪山に移しますか?」
「私は札幌のままでいいわ。今のところ問題はないし、今までどおり呼び出しがあれば私が大雪山へ行く。テレポートリングもあるから」
「わかりました。他の方はアジトの場所についてどうお考えでしょうか、ご意見をいただけますか」
「俺はさっきも言ったし、富良野に思い入れはない。このまま大雪山がアジトでいいぞ。あ、東棟1階を取っちまったが」
「ええ、アネさんが放棄した後、アジト再登録が出来るか試していただいたんですよね。ありがとうございます」
「うちも旭川から大雪山に移るのに問題はないです。だた、血盟員全員がアジト帰還スクを使った場合、旭川が空っぽになるのが気になります。かと言って、他の血盟に渡すのも……」
「ええ、私もです。小樽から移るとしても血盟員の半分は小樽に残したいですね」
「それだとアジト帰還スクの意味がなくねぇか?」
「そうなんですが、アジト帰還スクはあくまでも『非常事態の移動』のみの使用とさせていただこうと考えています」
「どっちにしても、無くなる一方のアイテムですからね」
そう、ゆうごの言う通りだ。いくら現在結構な枚数があるとしても結局ゲームのように皆で頻繁に使っていたら無くなるのは目に見えている。
やはり、いざと言う時用の『お守り』みたいなもんだな。
「ゆうご君はどうしますか? アジトを大雪山にしますか?それとも函館に?」
「悩んでいます。アジト帰還スクロールもテレポートスクロールもふんだんに入手可能なら、アジトを大雪山にして函館に通うイメージなんですが……。いざと言う時だけなら今は函館をアジトにしたいです」
「そうですか。わかりました。それと今回の件はもう色々なところへ情報は流れています。自衛隊は勿論。もしかすると海外へも」
「だよなー。血盟員全員へアナウンスがあるならそこから流れるよな」
「濱家さんから念話が来ました。流石は自衛隊、動きが早いです。アジトの検証を次々と行なっているようです」
「そっかぁ。でもあっちのやつらってアジトスク持ってるんか?あ、ハマヤン達が持ってるか。LAFやってた奴は持ってるよな。しかも高レベルだ。アジトが無いわけがない」
「幾つか面白い検証結果が出たようです。まずはリアルステータスが無い者はアジト認定は無理なようです。それ以前に椿大神社に辿り着けないケースも多いようです」
「流石自衛隊、人海戦術で検証が出来て羨ましい」
「それからやはり占有権が発生しているようですが、条件は不明との事です」
「占有権?」
「はい、先に登録した血盟が居る場合、同じ場所でもアジト登録は出来なかったそうです。それ以前にその地と全くの無関係だった者には登録が出来なかったそうです」
「そりゃそうだろ? ゲームだってアジト登録にはそれなりの資金が必要となるんだぜ? 今の世の中で通りがかりの誰でもしかも無料で登録出来たらおかしいぜ」
「つまり?」
「その駐屯地に無関係の自衛隊員がアジト登録をしようとしても出来なかったそうです。勿論リアルステータス持ちでした。その駐屯地の自衛官によりアジト登録は出来たそうです」
「つまりな、通りがかりでその辺の家に入って、そこをアジトにしようとしても、たぶん出来ないって事だ」
「リアルステータスの有無以外に土地の所有者、建物に住んでいたなどの何がしかの占有条件があるのでしょうね」
え………、そしたら俺、大雪山のアジト登録出来ないんじゃないか?そもそも拠点を建てたのもタウさんやカンさんだし、あそこで寝泊まりは殆どしていない。
「アネさんが出来たんだから大丈夫だろ? 俺たち、定期的に会議とかしてるしな」
その日の会議で、アネさんは札幌、ゆうごは函館、ゴンちゃんは岡山の現拠点をアジトに、タウさん、ミレさん、カンさん、俺の4拠点が大雪山へアジトを設定することに決まった。
大雪山拠点東棟1階がミレさん。
大雪山拠点北棟1階がタウさん。
大雪山拠点西棟1階がカンさん。
大雪山拠点南棟1階は、現在大雪山で作業をしている養老の砂漠にアジトを勧めた。
では、俺、ハケンの砂漠は?
そう、うちは血盟員やそれに関わる身内も多いので、大雪山拠点の東西南北の4棟の地下1階を通路で繋げてもらい、地下一階の全てを拠点にする事になった。
一旦、解散して各拠点の血盟員にこの事を伝えてから、再度集まって椿大神社へとアジト登録に向かった。
登録が済むとまた解散で、今度は其々が引越しの準備を行う。完全な引越しではないので、持っていく荷物、置いておく荷物の選別。
大雪山に移動するメンバー、残るメンバーの選別や色々な決め事などがあり、大忙しだ。
来月の千歳イベントまでには落ち着いた状態になっていたい。
とは言え、拠点内でもアジト登録や引っ越しの話であちこちが盛り上がっていた。食堂もいつもの3倍は騒がしかったし、俺らをチラチラ見る人も多かった。
実はタウさんと自衛隊の話し合いで、大雪山拠点に移った俺らの元の拠点、苫小牧、小樽、旭川、富良野が、紛れ込んでいた外国のスパイに盗られないように、一旦は自衛隊の血盟にアジト登録で押さえてもらった。
勿論、千歳、稚内も自衛隊の血盟アジトになっている。
苫小牧はサンちゃんの血盟だそうだ。サンちゃんは前の血盟は脱退していて、今はハマヤンやフジや他の仲間と血盟を作り、盟主はハマヤンだそうだ。
自衛隊は過去に3人を分けた。今も分けたがっているが、そこは将軍に相談して何とか一緒にしてもらったそうだ。
そして苫小牧をアジトにしてくれた。
「いやぁ、海自の奴らが苫小牧アジトを狙ってる話を聞いてさ、うちの血盟に入りたがって大変だったよ」
ハマヤンが笑いとばしていた。そうか、ハマヤン達は陸自……だったか?
タウさんが持ってた小樽も港型拠点だったよな。それでなのか海自の血盟がアジトを押さえたらしい。
旭川は元から空港が整っていたらしく空自がアジトをゲットしたらしい。富良野は陸自が取った。
いや、あの、うちらが造った拠点だからね。いずれ返してね?って俺が造ったわけじゃないからどうこう言えない。
「トマコの子供達はこのまま地下2階か」
「連れて行くのは逆に大変ですよ。保母さん保父さんらがこの近所から通いの人も多いですから」
「だよなぁ」
「大雪山は北海道のど真ん中ですよ、船はどうします?」
「持って行っても出す場所が無いですね」
「スワンは持ってくけど、他はトマコの湾内に置いておくしかないなぁ」
「フェリーは幾つか持っていきましょうよ、この先も使いますよ」
「血盟員をどう配分するか、ですね」
食事をしながらも話は止まらない。
引っ越しは決まった後が大変なんだよな。まぁ、電気やガス、水道を止めたりする手間はないけどな。住所変更に必要もない。ないよな???
今回はちゃんと引っ越しのハガキ……じゃなかった、引っ越しの連絡を雪姉さんや政治叔父さんにもした。
と言うか、雪姉さん一家も一緒に大雪山に引っ越すし、政治叔父さんは元から大雪山に居た。養老の砂漠に入ってるからな。良治達一家も大雪山に引っ越しだ。
「とりあえず食事を終えたら本部ルームへ集まってください」
「デザートはそちらで食べましょうか。ここより静かでゆっくり話せますよ」
キヨカがマルクを連れて食堂のデザートコーナーへと向かった。今日のデザートは何だろう。気になる。
こんな災害が来なければ今頃世間ではクリスマスに向かってまっしぐらだったんだよな。
…………まぁ、俺には毎年、無縁だったが。ムゥナでは楽しかった。マルクにはあっちと遜色がないクリスマスを味わってもらいたかったな。あとで春ちゃんとキヨカに相談しよう。
いや、2人も大忙しか。俺が不甲斐ない血盟主だからな。
用意して本部ルームでデザートを食べ始めた時だ。
タウさんから緊急招集がかかった。
何だ、どうした? アジト登録で何か問題でも発生したか?




