234話 西へ②
俺たちは島根に到着した。島根の沿岸の浜田市と言うあたりだそうだ。日本のこっち側でも津波だか衝撃波だかがあったせいで、沿岸が抉られていた。
そこから国道186号を俺たちは馬で移動した。雪はどんどんと深くなっていた。もとからこのあたりはスキー場が多いらしい。
しっかりと着込んでかつ貼るカイロも使いほっかほかだ。顔もゴーグルにマスクをしているので出ている箇所は殆どない。
馬はゲームアイテムなので、どんな季節でも問題ない。吹雪の中でも疲れ知らずに走る。疲れを知ってるのは俺の半分に割れたケツだ。
車で行きたい……、だがこの吹雪だと車の方が危ない。
「雪に強い、あったかくて尻にやさしい乗り物ないかなー」
つい、ボヤいてしまった。
「ホント、それなぁ」
ミレさんもうんうんと同意してくれた。俺のせいでちょくちょく休憩になって申し訳ない。
クローズしているスキー場や道の駅を見かけるたびに休暇をさせてもらった。
「そういやさ、ゾンビって雪でも出るのかな」
人気のない建物の中で暖かいコーヒータイムだ。マルクはココアだ。
「出るんじゃないか?いや、ウイルスの特性にもよるのか。寒さに弱いとかあるかもな」
「ドクターに念話をしておきました。温度によってウイルスの活発性に変化があるかどうか、調べてくださるそうです」
「ハマヤン達、大丈夫かなぁ」
「広島でも山の方はスキー場がありますが、都市部はそこまで雪は酷くなかったはずです。濱家さんも普通に念話に出られます。ただ物資が足りずに足で走り回っているようです」
「カオるんまだ船余ってるん? ハマヤンと会ったら何隻かあげたら?」
「おう、あるぜ。あと、ハマヤンと合流したらサンバ達に知らせる予定になってる。俺が迎えに行ってこっちに連れてくる」
「サンバさん達も船やら車やら食料などの物資はアイテムボックスに入れて運んでくるでしょうね。私達はそこで彼らにお任せで良いと思います」
「瀬戸内海さ、浮遊物が多くて船が難しいって言ってたけどさ、ゴミはアイテムボックスに収集しちゃえばいいのに、何でしないんだろう」
「…………そうですね。濱家さんだけしかリアルステータス持ちが居ないにしても、カオるんみたいに拾いまくればある程度は進めるのでは。何か理由があってそれをしないのでしょうか」
「リアステ持ってる事を周りに隠している、とかか?」
「となると私達も普通っぽく濱家さんと合流をしましょうか、いえ、まずは濱家さんに念話で訪ねてみます」
俺はあの初日を思い出す。隕石落下の直後、日比谷を襲った津波。最初に拾った手漕ぎボートでやまとビルから出たあの日。
「あのさ、ゴミ拾いまくるのって、普通のボートだと大変だぞ?漕いで漕いで近づいて手を伸ばして、落ちそうになりながら収納するんだ。俺、最初そうだったの思い出した」
そうそう、手漕ぎボートで落ちてる物を拾おうとすると近づくと遠ざかるし、ボートは傾くし、地味に大変なんだ。
「俺がラクに収納出来たのは、スワンボートがあったからなんだ。あれ、足で漕ぐから両手フリーで助かる。んで俺ってウィズだろ?杖で突いて収納出来んだよ。他の職ってどうなん?剣で突いて収納可能?もしくは落ちてる棒で収納出来る?」
「……いや、棒を持って収納と言うと棒が収納される」
タウさんは剣を出してそこらに落ちている石を突いて収納と囁いた。
「剣……自分の武器なら可能ですね。ただ、杖ほどは使い勝手は良くないかも知れません。剣はそれなりの重さがあります。手を滑らせたら海へ落としてしまう。濱家さんにしたら唯一の武器でそんな橋は渡らないでしょう」
「なるほど、そう簡単に目の前のゴミは拾えないって事か」
「ウィズは、カオるんは凄いですね」
「いや、そのせいで俺のアイテムボックスはゴミだらけだけどな」
ちょっと悲しくなった。タウさんがクルンと顔を背けた。
「僕、ウィズで良かったー」
マルクが嬉しそうなのが救いだ。
「あー……、カオるん、西の旅が終わったらゴミ整理を行いましょう」
よっし、言質はとった。目撃者も2名いるぞ。
「……濱家さんから返事がきました。カオるんの仰ったとおりゴミ拾いは直ぐに諦めたそうです」
「やっぱりなぁ。スワン余ってるから一台貸してやるか」
俺たちは何とか広島の都市部に入った。
都市部に積もっていたのは雪でなく火山灰だった。なのでまず行ったのが俺の精霊による火山灰のぶっ飛ばしだ。
ところで考えないようにしていた疑問、それをちょっと口にしてみた。
「あのさ……ぶっとばした灰ってどこに行ったんだ?」
『さあ?』
精霊も知らんのか。
『空の上 向こう どっか』
空の上の向こうのどこか……どこだ、やはり考えてはいけない疑問だったな。封印問題にしよう。
灰が無くなると、道は意外と綺麗なままなのが分かった。
「車が出せそうですね。加瀬さんを呼んでいただけますか?」
タウさんから言われて即迎えに行ってきた。
良かった、ようやく尻に優しい乗り物だ!ミレさんからの注文で座席のクッションも増し増しにした。ミレさんもケツが痛かったのを我慢してたんだな。
運転席のカセと助手席のタウさん、その後ろの席のミレさんで向かう先について話していた。
ハマヤンとは現在グループ念話が繋がった状態だ。
『テレポリングの有り難みよ、同じ場所の行き来を徒歩でするんだぜ』
『いや、ハマヤン、それ地球人には普通の事だから』
『そうなんだけどさー。こっちに戻ってリアルステータスあって、テレポリングあったからさ油断した。あー、マジ失敗』
『そう言ってやるな、岩倉3佐らだってそっちに向かってたんだ。富士噴火が無ければリングは戻ってたはずだ』
念話の声はサンバだった。
『でも実際に俺のリング持ってたのは3佐じゃないんだろ?俺らと変わらん階級のやつだよな? はぁぁぁぁ』
『信じようぜ、そいつは何かあって今は動けないだけだ。ブックマークがあるんだ、いずれは茨城に戻ってくるってさ』
『そして俺にリングを返してぇ』
『濱家さん、私達は現在広島みなと公園まで来ています。驚いたのですが、この辺りの港は無事だったのですね、津波の被害は無かったのですか?』
『全く無かったわけじゃないです、場所に寄っては多少なりとも被害は受けました。けれど、茨城沿岸や太平洋沿岸ほどの酷さではなかったようです』
『四国が受けてくれたのでしょうね。そちらの被害はまだ確認出来ていませんので何とも言えませんが』
『そうだと思います。瀬戸内海の左右、神戸、徳島側と、山口、松山側は津波の被害も甚大でしょうね。ただ、そこから流れ込んだ諸々の物が瀬戸内海の島々の間を塞ぎまくっている。それで海が渡れない』
『濱家さんは今どちらにいらっしゃるのですか?』
『江田島と言う島です。広島と呉の中間辺りの割と本土に近い島です。本来は呉と橋で繋がっていたのですが、早瀬大橋が落ちました。島自体は大きいし火山灰以外の被害は無いのですが、船は流されてしまってます。本土へ渡る手段がない』
『そちらでのゾンビや魔植の被害はどうなんでしょう』
『はい、魔植や獣の被害は何とか凌いでいます。ゾンビの件もご連絡を頂き、早めに動いています。症状のある者はひと区画に集めています。目で見てゾンビ化の確認次第、処理にあたっています……』
『ハマヤン……』
『島に住民とかはいないのか? 住民が隠蔽したり反発したりしそうだな』
『ある。江田島は大きな島だ。住民も多い。小中学校も多い、それに……』
キツいな。閉ざされた島、住民、子供達。その中で刻々と進むゾンビ化だ、ゾンビになった家族を葬らないとならない自衛隊員達。
しかも、茨城からの通信は広島までは通じない。こっちからの情報もハマヤンへの念話のみ。
自衛隊の仲間や元から島に居た住民は、ハマヤン…たったひとりの人間の言う事をどこまで信じただろう。
ハマヤンは独りでの戦いだ。
戦う相手が魔植ならまだ倒しやすいだろう。ハマヤンはレベル90超えのナイトだったよな?
魔植ならばサクッと倒せるだろう。しかしゾンビは?
勿論、相手がただのゾンビだったら倒すのは苦でない。
だが、それが島民の家族なら?ゾンビ化した島民をその家族の目の前で殺さないとならないとしたら。
そしてそれを行った事で島民から向けられるだろう憎しみや敵視、ハマヤンの1番の敵は孤独だったかも知れない。
『カオるん、カオるん?』
「カオるん!」
「あ、スマン……」
「カオるん、独り言が口から漏れてたが、念話は無口になってたぞー」
「悪い、つい、考え込んじまった」
『あースマン、その、何だっけ?』
『とりあえずみなと公園まで、サンバさんらを連れて来ると言う話です』
『カオさーん、頼む、俺らを迎えに来て。今、千歳駐屯地だ』
『わかった。タウさん、一瞬行ってくる』
『お願いします』
『カオさん、頼むな』
俺は千歳へテレポートをした。『ブックマーク』と言う看板が立てられロープが張られた区域の外にはサンバとフジ他、数人の自衛官が立っていた。
俺は彼らを連れてさっきの、広島みなと公園へと戻った。




