221話 ゾンビとは③
俺たちは飽満の塔へ向かった。あ、勿論ゲーム内でだ。
「あれ? みんなどこだー?」
「香、こっちだ。正面の入り口」
「え? 正面ってどこ? 俺が今いるここはどこ?」
「カオさん、そこを動かないでください。迎えにいきます」
「すまん……。あ、ここだ!」
俺たち4人は丸テーブルのパソコンでゲームをしていた。画面はそれぞれ別だが、チャットをしなくても普通に会話が出来る。
「カオさん、こっちです。付いてきてください」
「おう、サンキュー。…………みんなお待たせ」
塔の入り口にはマルクと春ちゃんが立っていた。
「塔に入る前に武器装備を確認しろ。ヘイスト!ヘイスト!ヘイスト!ヘイスト!」
俺は自分含む全員にヘイストをかけた。
「2階の階段の位置は……」
「俺がわかる、先頭を行くからみんな遅れずに付いてきて」
「春ちゃん、頼む」
「はい」
「お願いします」
一階はモンスターは出ない。だが一本道ではないので、俺は単騎でここに来ると階段を見つけるまでに1時間以上かかってしまう。
春ちゃんの先導で1分で階段にたどり着けた。ビックリした、案外近かったんだ?
階段を登り、2階へ。
飽満の塔は上に行くほどモンスターのレベルも上がる。つまり2階はレベルが1番低い敵なのだが、それは『塔の中』で、の話だ。
自分らのレベルが50前後なのに、2階のモンスターのレベルは48の鉄ゴレだ。
他の狩場にも鉄ゴレは居るが、狩場レベルによって鉄ゴレのレベルも異なる。鉄ゴレ界では、ここが1番レベルが高いのだ。つまり、固い。
2階に上がった場所で作戦を話す。
「ここの鉄ゴレは固い。剣はダマ剣じゃないと折れるぞ。キヨカはダマ持ってたよな?」
「はい、持ってます。これ」
「うん。春ちゃん、最奥までの道もわかる?」
「大丈夫。頭に入ってるぞ」
「じゃあ道は任せた。全員ヘイストがかかってるとは言え、エルフとナイトは足が速い。マルク、全速力で付いてくぞ?」
「わかった!」
「もしも逸れたり迷ったら、即帰還だ。無理して進むな」
「うん」
「じゃあ最奥まで走るぞ」
俺たちは春ちゃんを先頭に走った。直ぐにキヨカに追い越された。キヨカがスピードを落としたが俺は一喝した。
「キヨカ! そのまま走れ、俺らを待つな! うわぁぁ、どいてどいて、こっち来んな! 2階はゴレ以外にクモも出たんだわ、そんでコイツ結構痛い、ぎゃわわわー」
「うえぇぇ」
「カオさん!」
「香?」
「止まるな、走れ走れ走れ! ここのクモは足?脚が速くない、つっきれる」
飽満の塔のクモは毛がフサフサでポッチャリしてる。しかし動きは速くないので助かる。モソモソ動く系だ。
「クモのドロップは何だったか…」
「飽満2階のクモはクモ脚とレアは神秘の系だ。装備作製で使用するみたいだな」
「うーん、帰りにやってみるか、でも今はとにかく走れええええええ」
パソコン画面からエルフの春ちゃんとナイトのキヨカはもう見えなくなっていた。
マルクとふたりで薄暗い通路を走る。前方が四つ角になっている。
「うぉぉぉぉぉー、角をどっち行った?右か左か真っ直ぐかあ?」
「香、そこは真っ直ぐだ」
「カオさん、私達は最奥に着きました」
「待ってて、そこで待ってて、今、手が離せない!」
「カオさん、次の角は右だ」
いきなり後ろから声がかかった。カセが席を立って俺の後ろに来ていた。
「スマン」
「右に曲がって直進で突き当たりっぽいとこをさらに右で、春さんらが居るとこだ」
カセは俺のパソコンと、円卓の、隣の春ちゃんのパソコンを覗いて確認しているようだ。
「父さーん、クモが付いてくるー」
「うん、このまま突っ込もう、キヨカ、春ちゃん、スマン、クモも一緒だ!うわわわ、クモ1、2……5匹居る、どうすっかどうすっか」
「5匹…多いですね。僕が弓でタゲを取りますから引いてる間に香、ファイアストームお願いします」
「うわぁぁぁ」
俺はクモごと最奥に到着した。春ちゃんがすかさずタゲを取ってくれて俺たちからクモのタゲが離れたのを確認して魔法を放った。
「ファイアストーーーーム!もいっちょ、ファイアストーーム!クソ、クモも硬いな!ファイアストームファイアストーム!」
「ファイア!ファイア!」
俺とマルクが攻撃魔法をクモにぶつけ、キヨカは剣で斬りかかる。春ちゃんは噛まれながらもクモを引いて狭い最奥でクルクルと走り回った。
ようやく、1匹、また1匹とクモが倒れる。
「ヒールオール!」
春ちゃんが黄色く光ったのを見て、慌ててヒールオールを放った。
黄色く光ったのは中級ポーションを使ったからだ。仲間のHPの確認を怠るとはWIZ失格だな。
5匹のクモを倒し終わった時、俺たちのパーティはボロボロだった。
「父さん、MP無くなった」
「ああ、俺もだ。ここで回復しよう」
俺とマルクは奥の壁にピッタリとくっついて青ポーションを飲んだ。MP回復速度をアップさせるポーションだ。
それからメディテーションをかけた。
「ここは壁沿いに立っていればモンスターは湧かない……はずだ。あ、俺のゲームの記憶は5年前だった。その後にアプデで変わったりしたか?」
「いや、大丈夫みたいだ。今のうちにトイレに行ったり飲み物を用意しておこう」
「あ、私、コーヒー入れてきます。マルク君は何にします?」
「僕はコーラにする」
そして飽満に篭る気満々で準備をした俺らはMPが満タンになりサモンも出していざ鉄ゴレ退治をスタートした。
「ぎゃあああ、無理無理無理」
「あ、香、そこは」
「スマン、また踏んだ!」
飽満の塔2階の最奥には、秘密の鉄ゴレ湧き場がある。それは、ある一点を踏むと鉄ゴレが出現するのだ。
最初は3体ほどを出現させて引きながら4人で攻撃をする作戦だったのだが、思った以上にゴレが硬くて倒せない上に、俺がうっかり踏みまくり、今や鉄ゴレは10体以上出現している。
「スマンスマンスマン、ここ狭いから逃げてると踏んじゃうんだよ」
「プフっ、カオさんまた踏んだぞ」
「まだ1匹も鉄ゴレ倒してないな」
「面白ぇぇぇ、俺も参加してぇ」
「飽満の塔ってどの街にあるんすか?俺、今から行こうかな」
「よせw お前じゃたどり着けないぞ」
何か俺の背後が賑わっていたが、目の前の操作で手一杯で振り向けない。
「MPないぃぃぃぃ」
「うん、思い出した。ゲームのWIZってホント使えなかったぁ。MPすぐ無くなるもんな、あ、スマンまた踏んだ」
「香、これ、無理じゃないか?」
「だな、うん、みんな帰還だ!」
ふぅぅ、キツかった。やはり飽満の塔は俺には早かったか。コーヒーを飲む間もなかった。ホットがアイスコーヒーになっていた。
だが俺はへこたれない男だ。
「闇の荒地、行かん? あそこは推奨レベルが38くらいだったはず」
「ミスリルはいいんですか?」
「うん、ミスリルは諦める。代わりに魔石取りに行こう。あと荒地はお金も結構落ちるよな」
「そうだな、資金稼ぎに行くか」
「うん!行く! 魔石欲しい」
俺たちは『闇の荒地』へとテレポートした。ゲームではテレポートスクロールはドロップでも手に入るし店でも購入出来る。
なのでテレポートし放題だ。リアルもどこかで売ってないかなぁ。
と、それはともかく、俺たちは荒地ではしゃぎまくった。
荒地はゾンビやスケルトン、グールなどのアンデッドが出る。アンデッドは比較的柔らかいのでWIZに優しい魔物だ。
5分に一回出現するバグベアーという魔物は物理系攻撃なのだが、ナイトで十分倒せる。
スケルトンアーチャーという遠距離攻撃型の魔物が出ても、春ちゃんという弓エルフがいるので安心だ。
レベルと言いパーティのバランスと言い、荒地がピッタリだったな。俺たちはドロップを拾う間もないくらい倒しまくった。
「リアルゾンビの脅威中なのにゲームでもゾンビ相手とは、どんだけゾンビが好きなんですか」
背後でカセが呆れていた。
「好きじゃないぞ。ただ、おいしい魔物ではある」
「凄いねぇ、魔石いっぱい落とすね」
「コインもかなりの量を落としますね」
「こんなに美味しいスポットなのに、他のプレイヤーが見当たりませんね」
そう言えばそうだな。現在、マースサーバーはかなり混み合ってると聞いたが、みんなどこで狩ってるんだ?




