209話 増える敵⑥
「俺のマップじゃ、黄色い点が点滅してるんだけど、これ、前からだったか?」
俺の言葉に全員が宙を見ていた。恐らく自分のマップを確認しているのだろう。
マップ。
青=自分(とPT仲間)、黄色=人間、赤=敵の3種類であった。勿論ゲームでの話だ。それに異世界でも。
俺はこっちに戻ってから、ステータスのマップを普段あまり使用していなかった。もしかしたら俺が知らないリアルの仕様はゲームとは異なるのだろうか。
でも、拠点では皆、黄色に映ってたような気がする。絶対か?と聞かれると自信はない。
…………点滅してたか?
拠点のあの人数の黄色が点滅していたら目がチカチカして気が付かないわけがない、と、思う。
では『点滅している黄色』は何だ?
「例えば……死にかけている?」
俺が無意識に口にした問いに皆も混乱していた。
「いや、今までだって死にかけてているやつは大勢いたはず。彼らは普通に黄色く映っていたはずだ」
「死にかけとはどの時点で判断するんです……?虫の息、意識不明……」
「点滅なんて初めて見たぞ?」
「青が自分とPT、黄色が一般人、赤が敵対するモンスターや盗賊……、点滅なんていつからあった?」
あ、良かった。皆も点滅に気がついたのは今なのか。
ふと思いついた事がスルッと口に出た。
「黄色……一般人、それの点滅……人間を辞めかけている? いや、そんなわけないか」
皆が俺を見ている事に気がつき慌てた。俺また変な事を言っちまった。人間やめかけるって何だよ。
「とりあえず入ります。私とミレさん、アネさんの3人で。他は廊下に待機でお願いします」
「タウさん、気をつけて…」
カンさんが心配そうにタウさんを見送った。
黄色い点滅、やめかけた人間……、人間やめて何になるんだよ、あ、ゾンビか。
だから、ドアロックのかかったあちこちの部屋の中の赤い点。そう言う事、か?
部屋に隠れていて、人間やめてゾンビになった?
でもそれだと疑問は残る。この区域のシェルターに居た人達が、そんなに満遍なくちょっと噛まれて部屋へ篭るか?
ゾンビの前に並んで『カプっ』『カプっ』とちょい噛まれ。無いわー。
あ、やだ、俺ってば変な妄想しちゃったぞ。
ゾンビウイルスを、『ワクチン』とか言って全員に接種させた。そんで、一定の時間が経過後ゾンビに……。いや、何のゲームや小説だよ。
タウさん達、大丈夫だろうか。マップにはまだ黄色で点滅している。大丈夫、まだ黄色だ。まだ……半分人間だ?
タウさんらはふたりの男女を連れて出てきた。見た目はまだ全部人間っぽい。
4日前からここに隠れていたそうだ。この倉庫には水も食糧も無かったので、その時持っていたペットボトル一本とチョコバーしか口にしてないそうだ。
顔色が悪いのは空腹と水分不足のせいだろう。
普段ならタウさんから直ぐに洞窟か病院へ連れて行くように指示されるのだが、今回はその指示は出なかった。
「どこか鍵がかかる部屋で待機してもらいましょう。あと7人の救助があります」
俺たちにと言うよりは、そのふたりに聞こえるように言った。
この倉庫は重要なものは保管されていないので、誰でも出入り出来る様にロックが解除されたままの状態だったそうだ。
篭るならもう少し狭い部屋の方が良いだろう。
この先に一緒に連れて行くのは難しい。何処かに居てもらうしかない。少し先に給湯室のある小会議室があると言うので、そこまで案内してもらった。
ゾンビはあちこちの部屋中に居るようで廊下は静かなものだった。小会議室に着いてマップで確認をしたが中には誰も(何も)居なかったので、そこに居てもらう事にした。
「皆さん、ここをブックマークお願いします」
そして俺らは次のJへ向かった。Jには5つの黄色があった。
Jの部屋の前に到着してマップを確認して驚いた。
「どうなってるんだ」
「どう言う事だ?タウさん」
マップに映った点は5つ全てが黄色であったが、5つのうち3つは普通に点灯した黄色、残り2つが点滅だった。
つまり3人は普通の人間で、ふたりは……やめかけた人間?
ドアはロックされていた。『仮眠室』とあった。
タウさんが中へ声をかけると、恐る恐るという感じでドアのロックが外されて男が顔を出した。
「救助……ですか? 助かった」
出てきたのは3人。点滅していない黄色だ。
「この部屋に居るのはあなた方3人だけですか。」
タウさんは分かっていてワザと質問をしたようだ。最初に顔を出した男性が首を横に振った。
男の後ろには女性と子供が居た。
「あの、まだ中に……ふたり居ます。息子と、山岸…同僚なんですが具合が悪くて」
「とりあえず入りましょう。ミレさん、カオるん、一緒に来ていただけますか?」
中に入ると、薄暗い部屋にベッドがいくつか並んでいた。仮眠室……そう言えばやまと商事にもあったな。社員しか使えない謎の部屋。
ベッドには40代くらいのおっさんと中学生くらいの少年が横たわっていた。
苦しそうに身動きをしていたので死んでいないのはわかる。
マップでも点滅しているのはこのふたりなのは確実だ。
「カオるん、清掃とヒールをかけてみてもらえますか?」
タウさんに言われて頷いた。ミレさんが後ろの3人に何かを話して気を逸らせた、その隙に魔法を放った。
「清掃!ヒール!」
安らかな寝顔になった。あ、死んだって意味じゃねえ!
「なるほど。点滅がおさまりました」
タウさんの言葉にマップに目をやると、5個中2個の点滅していた黄色い点が、今は普通の5個の黄色い点になっていた。
ミレさんが外の連中に今の事を念話で伝えていた。
『本当だ、点滅してない!』
『清掃(浄化)で黄色に戻った。つまり、黄色い点滅はゾンビ化中の人間と言う事になりますね。かつ、カオるんの派遣魔法で人に戻せる』
『凄いですね、カオるん!』
『あ、いや、俺は何も……』
『急ぎましょう。残り2名は自衛隊のスペースです。まだ点滅しているなら助けられる』
『頼む、カオるん、出来るなら助けてくれ!』
『自衛隊員かどうかは行ってみないとわかりませんね。警備対象の政治家かも知れません』
『そん時は、そっとしておけばゾンビの仲間入り』
タウさんは3人の方に近づいた。
「今、持っていた薬でおふたりは落ち着いています」
「なんだって!おぉぉ……」
男性と女性は横になった少年へ駆け寄り縋って泣き出した。タウさんはアイテムボックスから水や食糧を取り出して置いた。
「この部屋は鍵がかかります。我々はあと2名の確認と救出に向かいます。その間ここで隠れていてください。我々の仲間も残して行きますので。清華さんゆうご君、おふたりは一緒に残ってください」
タウさんは同時に念話でも指示を出した。
『清華さん、この方達に食事を摂らせてください。それからここ数日の状況を聞きだしていただけますか? ゆうご君にはここを守っていただきたい』
『わかりました』
『はい』
『それから、カオるんと我々はさきほどの小会議室へ一旦戻ります。ゾンビ化をクリアしておきましょう。それからMへ向かいます』
『点滅を放置したら赤になるのでしょうか……』
『シェルター内の赤い状況からしても、恐らくそうでしょうね』
俺はさっきのブックマーク地点へとエリアテレポートで皆を運んだ。タウさんは適当な話でさっきの男女を呼び出したので俺は横から清掃とヒールをかけた。
うん、点滅から点灯になった。
そして直ぐにJへ飛び、そこからまた通路を進んで行く。
途中で頑丈な扉が行く手をふさいだ。流石は国の施設?だがサンバ達が認証カードを持っていた。
「サンバさん、フジさん、ここからは向かってくるゾンビは恐らくあなた方の元お仲間でしょう。申し訳ありませんが手加減せずに燃やさせていただきます」
「勿論だ、いや、こちらからお願いする。思いっきり消し炭にしてくれ!あいつらだってゾンビとして残ってまで国民を齧りたいとは思わないはずだっ!」
「自分らに火が使えたら自分の手で葬ってやりたいくらいです!」
先頭を進むタウさんの精霊が炎を操り通路を彷徨くゾンビを消し去っていく。
マップの通路に映る赤い点が消えて行く。
「扉の中のゾンビは今は放置します、まずは残り2名の黄色を救います」




