203話 筑波学園都市シェルターから②
拠点造りの作業は大体終わったらしい。
「拠点の名前はどうすんだ? 第三拠点か?」
「それだと今後増えていった時に判りづらいですね。特にカオるんが」
俺かい!…………いや、確かに。第九拠点集合とか第十三拠点へ迎えとか言われたら、「どこ?」となる未来が見える。まぁブックマークがあるので移動はテレポートすれば大丈夫だろうが、皆の会話はきっとちんぷんかんぷんになるだろう。
「そうですね、改名をしましょう。第一拠点を『茨城洞窟拠点』、第二を『茨城病院拠点』、2.5は、洞窟内で繋がっているので、そこも含めて『茨城洞窟拠点』ですね。そして、この第三拠点は『大雪山拠点』にしましょう」
「それがいいですね。美瑛やトムラウシ山はカオさんには覚えにくいですから」
ゆうご君、心遣いありがとう。俺には覚えられない、ではなく、覚えにくいという言い方。いい子だ。
「では、ここは大雪山拠点という事で」
「はい」
「おう」
「わかった(たぶん)」
北海道の拠点は俺が想像していたよりもずっとこぢんまりとしていた。拠点造りも終了して茨城洞窟拠点へ戻るのかと思いきや、このまま次へ向かうと言う。
「次はどこだ? タウさん」
「そうですね……、ここから比較的近い旭川か富良野。どちらにも建設予定ですがとりあえず旭川にしましょうか」
「他にはどこを予定していますか?」
「内陸部では千歳と札幌ですね。それから船が接岸可能な港タイプの拠点として、函館、苫小牧、小樽、稚内を考えています」
「道内はここも入れて9拠点か。北海道は広いしそのくらいは必要だな」
「ええ、今の災害がまだ続くのか落ち着いたのかは不明ですが、もし落ち着いたのなら、今後は食糧の自給自足を考えていかなくてはなりません。そのあたりも考慮した拠点造りです」
「そうだなぁ。物資収集も食いもんは減ってきてるからなぁ」
「9拠点完成後は、其々の拠点に茨城から人を呼ぶか現地で募集をかけるかは今後の課題ですね」
「あ、物資収集で思い出した。タウさん、9拠点造りがひと段落したらさ、俺のアイテムボックスの物を整理したいんだ」
タウさんが真顔になった。……え、ダメなの?嫌なの?
「……そ、うですね。ふぅ、いつかは、と思っていましたが、忙しいのを理由に先送りにしていました。わかりました。道内の9拠点が完成後に、整理しましょう」
「よかったー、何かゴミが山ほど入ってるからさぁ。いくら無限に入るつっても、ゴミはちょっとな」
少し離れて立っていたカセとクマと河島が近寄ってきた。
「カオさん、アイテムボックスの中身をいよいよ放出ですか?俺、車欲しいなぁ。カオさんガッポリ持ってそうだったから」
「俺は船系を見せて欲しいです。アイテムボックスはまだ無いんで、もらってもしまえないけど……」
「バイク! バイクありますか? カオさん」
「知らん。が、あったら持ってけ。あ、タウさんがOKしたらだぞ?」
「カオるんの持ち物ですからカオるんの好きにしてください、と、言いたい所ですが、意外と役立つ物をお持ちですからね。一応拝見させていただきます。今じゃないですよ?」
俺が今すぐ出そうとしていると思ったのか、タウさんが慌てて止めた。
大丈夫だ、ちゃんとわかってる。9拠点が終わったらだな。
「楽しみですね、どこか広い場所でカオさんのガレッジセールですね」
「セールじゃないけどな」
「ガレージセールな」
「ガレージでもないけどな」
みんなで笑い合ったあと、俺ら一行は旭川へ向かった。勿論まずはブックマーク先へテレポートだ。
そこから拠点に良さそうな場所探しを足で移動して行う。
獣をよく見かける。熊、鹿、狐、可愛いのだとリスやウサギ。
マップには映っていないので生きた獣だ。
赤い点がマップに映るとアネやゆうご、ミレさんがシュバっと飛んでいきババっと倒してしまう。俺が視認するよりも前にだ。
赤い点がどんな魔物かまだ見ていない。
「エゾシカゾンビでした」
「腐ったヒグマは強烈だな、匂いがだが」
「ちょっと!今の元リス、可愛いくなあい! あれはリスにあらずよ!」
「アネさん、あれは、元エゾリスです。生きていた時は可愛かったんですよー」
「あ、お父さん、見て見てあそこー! リスがいる」
「ああ、マルク君、あれがエゾリスです。まだ生きてるな」
「近寄ってもいーい?」
首を傾げるマルクの方が可愛いぞ?
「うんうん、一緒に行こうな」
「私もエゾリス見たいです」
「僕も行きますね」
キヨカとカンさんも付いてきた。
災害時である、拠点場所探し中でもある、魔物?獣ゾンビも出る、しかし何故か北海道旅行を満喫している気分になるな。仲間と居ると安心する。
タウさんを見ても苦笑いはしているが、眉間に皺はないので怒ってはいない。
「お父さん、リスさんは何を食べるの?」
うおぉぉぉ、その情報は無い。知らん。だ、誰か……。
「リスは木の芽や種とか花、それと虫とかを食べるんだ」
ありがとう、ゆうご君。助かった。
リスがいる森の木は火山灰で覆われていた。俺は精霊を出して頼んでみた。
「そっと、森の木の灰を飛ばせるか?」
『是』
答えるや否や、精霊はフワッとした風を森へと送りこんだ。灰は空中へ巻き上がり空高く上がっていく。
顔を出していたリスや狐は一瞬木に身を潜めたが、また直ぐに出てきた。
俺はマルクの後ろに狐が入るようにスマホで写真を撮った。うむ、中々良いのが撮れた。後でミレさんに頼んでスマホの画面にしてもらおう。
そんな風に拠点候補の場所探しをして、そして拠点造りを進めて行った。
旭川が完成し、富良野、千歳と完成していく。途中で自衛隊と合流で狩りを行ったりもした。
富良野ではフジやサンちゃんとも会った。俺たちは情報の交換を行った。やはり自衛隊は俺たち一般人とは違う通信システムがあるのか、それとも例の『基地』を置いたおかげて情報入手が出来るようになったのか、かなり色んな事を知っていた。
「日本全国のシェルター情報を探ってるとこです」
「八王子は一般人に解放しててオープンだったぜ?満室ではあったけどな」
「都内……23区内にも結構な数のシェルターがあったみたいです」
「でも都内はほら、ほぼ水没だろ? シェルターってどうなん?水没しても水は入らない造りなん?」
「多少の水は防げるみたいですが、あそこまでいくとどうなんでしょうね、水圧とか」
「まるでスマホと一緒だなw 防水機能と言っても雨に多少濡れてもOKなだけで、海に潜って使えるかってぇとそれはNGだからな」
「ええ、そうです。シェルターの防水機能が、どのくらいなのか。それに地域によっても違うでしょうね」
「あのさ、サンちゃん。俺、凄く気になっててでも聞けない事があったんだ。思い切って聞こうかな」
「何ですか? カオさん」
「あの……、俺、勤め先が日比谷だったじゃん。目の前が日比谷公園で、そこの横が皇居だったんだよ。………あの、皇室の方々って無事に逃げられたかな。俺、金持ちの威張ったやつらは嫌いだけど皇室の方々はファンって言うかちゃんと敬ってたから、気になって」
「絶対大丈夫だろ? それこそ一番にヘリで救出されてんじゃないか?」
サンバが答える前にミレさんのツッコミが入った。
「んー……でも、俺のイメージだと、国民第一で最後まで残ってくれていそうな気もしてて……」
「ああ、えっと、俺くらいの下っ端だと正確な情報かは解らないんですが、皇居の地下に脱出用の地下通路があると聞いた事があります。津波前にそこから移動されていると信じたいです」
「地下通路……水、入りそうだな」
「皇室の方々の非常時の移動先の情報はないのですか?」
「うーん、これがまた、俺ら下っ端には都市伝説程度の情報なんだが、都内がヤバイ場合は地方のシェルターに避難、と言う話もある」
「そうなんだ、まぁそれなら安心だ。日本全国のどこかのシェルターに居るんだよな」
「ええ、特に濃厚だったのが北海道か岡山ですね」
「え、ここ? いや、ここってか北海道は広いけどさ。シェルターもありそうだよな。そこんとこ地上の駐屯地では話出ないの?道内のシェルターの話題」
「出てます。いや、最近か。ちょっと前までは情報も移動もままならなかったからな。駐屯地の上層部は聞いてるかもな。あ、えと皇室の方々の話ではなくて道内のシェルターの話をです。もしよければ今度ご紹介にお連れしたいです。今日も来たがっていましたから」
そうなんだ。意外とフレンドリーだな、北海道の駐屯地の自衛隊の人達。
「そういやさぁ、首都を東京から移転するって噂があった時も、移転先の候補は北海道と岡山でしたね」
「そう言えばそんな噂が出た事もあったな」
「へぇ、何で岡山なん? 北海道は広いからってわかるけど、岡山も広いん?」
「広さよりも、災害が少ないって噂だったよな。地震、津波、火山とかが殆ど無いとかなんとか
「隕石落下による災害は想定外でしょうね」
次に来る時は道内のシェルターの情報と上官を連れてくると言い、サンバ達は帰っていった。
俺らは内陸部の拠点を完成させて、沿岸部の拠点造りを始めた。まずは函館。
ゆうごに実家へ行かなくていいのかと聞くと、婆ちゃんがいるとこが僕の実家ですと、答えた。若いのにしっかりしている。マルクもこんな子に育てないとな。
「僕もね、父さんの居るとこが実家ー! 今はここー」
キャンピングカーで楽しそうにマルクが笑った。俺が育てなくとも十分しっかり育っているな。
沿岸部の拠点は函館が最初だ。港型拠点。
もしもこの先、巨大な津波に襲われても大丈夫な設計にするそうだ。タウさんのスキルとカンさんの土精霊が大活躍だ。
完成した函館港拠点、海側から見ると崖(壁)なのだが、三枚の分厚い壁が少しずつずれて重なり、平べったいS字の壁の間を通ると地下の船着場に出るようになっている。
勿論、S字壁の通り道もそれなりの広さがあり、大きな船でも通れる。
とは言え流石にタンカーや大型客船は無理らしい。中の港では停泊できる広さはあるそうなので、超大型船はアイテムボックス所持者に寄る運び込みが必須だ。
「何かめちゃくちゃ秘密基地っぽさがあって楽しいな」
「だよなー。これぞ男のロマン」
「翔ちゃん達とここに来たいなぁ」
「皆さーん、食事が出来ましたー」
浸っていた男どもをキヨカが現実に呼び戻した。
「「「はーい」」」
次の拠点について話しながら夕飯を食べていた時、茨城から連絡が来た。
連絡をしてきたのは、茨城洞窟拠点に新設されたLAFサーバー室に居たLAF社員の剣王子からだった。
『あの、タウさん達にお知らせしておいた方がいいと思って……』
『どうしました?』
『学園都市の地下シェルターに残ってたキングジムから連絡が来て、何かシェルター内がおかしいって』
『おかしいとは?』
『シェルター内の自衛隊と連絡が途絶えたとか、社員食堂を利用させてもらってた企業の社員さんらとも連絡が取れないとか』
『シェルター内で暴動でも発生したのでしょうか、物資が不足してきたのが原因かもしれませんね』
『あの、今また連絡がきた! LAFの入り口のドアも破られそうだってジムが慌てて奥に篭ったそうなんです。……それで、北海道が忙しいのはわかってるんですが、カオさんにジムを回収してきてもらえないかな』
『なるほど』
「ミレさん、茨城の地下シェルターの方のサーバーが止まっても、何ら問題はないのですよね?」
「おう、大丈夫だぞ?」
『わかりました。カオるんをそちらへ向かわせます、が、通路や廊下は危険ですね。篭っているのはどこの部屋ですか?』
『あ、ちょっと待って、ジムに聞く』
『剣王子さん、念話はグループが可能です。ステータス画面で剣王子に繋げてください。こちらも数人参加させます』
タウさんにグループ念話に招待された。
『ども、ミレです』
『ちわっす、カオだ』
『ゆうごです』
『アネー』
『カンタです』
…………
『あ、すんません、剣王子です』
『あ、あ、あ、キングジムっす! ヤバイヤバイ、何だよこれ』
『落ち着いて、ジムさん』
『おい、ジム、今どこの部屋に居るの? 直ぐに迎えにいく』
『あ、お奥の、シャワー室の着替えっとこ』
『更衣室でしょうか?』
『だだ脱衣室、今、鍵かけて篭ってる。廊下まで来てる!』
『何が来てるんです?』
『わからんけど怒り狂った奴らがじゅ、じゅ、十人くらい?いや、もっとか?』
『何に怒ってるかわからんけど迎えに行ってくるわ』
『待ってください、ミレさん、カンさん、アネさん一緒に行っていただけますか? 十数人の暴動、しかも相手は人間です。カオるん、1番近いブックマークはどこです?』
『あ、うん。脱衣室にブックマークある』
『ナイス、カオるん』
『それと暴動の人達は倒さないでスリープで眠らせる』
『そうですね、でしたら護衛はミレさんひとりで十分でしょうか』
ミレさんが頷いて俺に近づいた。逆に近くに居たカンさんは俺から距離を置いた。マルクも渋々だが離れた。
俺は『地下LAF脱衣室』へテレポートをした。




