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186話 実家⑤

 窓から乗り出していたのは政治叔父さん……?


 そうだ、政治叔父さんだ。頭は真っ白になりかなり歳をとっていたが、俺が50近いのだから叔父さんが爺さんになっていても不思議じゃない。


 父親の顔は覚えていないが、政治叔父さんの顔は覚えていた。叔父さんは細身だが筋肉がしっかりついていて顔は怖そうだが笑うと顔中に皺がよる。


 俺は叔父さんのその笑い皺が大好きだった。記憶がスルスルと蘇ってきた。


 叔母さんは叔父さんと違って丸顔でいつも大口で笑っている。

『香、もっとしっかり食え』叔父さんがそう言うと、叔母さんが直ぐに俺の茶碗に山盛りのご飯をよそってくれた。


『俺もおかわり!』…………が、そうだ、良治だ、良治も叔母さんにおかわりをねだってた。


 良治は政治叔父さんのとこの子供で、俺とは同い年の従兄弟にあたる。他にも良治より年下の女の子が居た。従妹はふたり……いや、俺が中学の時に3人目が生まれたから、良治の下には3人の妹が居た。それ以降はわからんが。



 古い記憶を呼び覚ましていた時、目の前の家の玄関扉が開いた。



「こっちだ!早く入れ」



 扉を開けたのは若い青年だった。政治叔父でも良治でもない。

 俺たちは玄関中へと入った。



「香っ! 良かった……」



 玄関の框に立っていたのは、さっき2階の窓に居た政治叔父さんだった。



「政治叔父さん…………、あの、あの、ごぶたさして……その、俺、ちゃんと礼も言わずに……」


「とにかく上がれ。芳樹、鍵をかけとけ」


「香くん、久しぶりねぇ。随分と立派になって。それとご無沙汰ね」


「香……さん、俺、覚えてるか? 良治だ」



「あ、うん。覚えてる……良治」


「とにかく上がってもらって……その、何でコスプレしてるのか知らんが、靴は脱いで上がってもらえるか」


「変なかっこー」

「バカだな、変じゃない!戦闘レンジャーみたいだよ」



 玄関の先の階段上から子供の声がした。見ると、階段の上の方から男の子がふたり、下を覗き込んでいた。


 俺らは政治叔父さん家に、いや、昔あった政治叔父さんちの庭に建ってる新しい家に上がらせてもらう事にした。


 玄関が何だかおかしい状態になった。

 川コンビが脱いだシューズの横に、クマ達のレザーブーツが3足、ドラゴンナイトブーツ、エルブンブーツ。

 マルクはレザーブーツで俺はウィズ専用のエンシェントブーツだ。



『何かあった時に直ぐに履けるように各自アイテムボックス収納しておいてください』



 タウさんからの念話で俺たちは慌てて靴を収納した。玄関に並んでいるのは川コンビの靴と元からあった叔父さん一家の靴のみだ。


 上の方が安全だと、俺たちは2階に案内された。が、流石に12畳の部屋に叔父さん一家10人と俺たち9人は入れない。

 なのでお互いに紹介をすませて、叔母さん達女性と子供は隣の洋室へ移動して、カセ達は廊下に居てもらった。


 この部屋には政治叔父さん、良治、それと良治の子供だと言う芳樹と尚樹の4人。こちらは俺とタウさん、マルクの3人だ。

 キヨカは女性部屋へ行ってしまった。



「香、よくここまで来れたなぁ。外におかしな獣らが居ただろ」

「トンネルが塞がったって聞いてたが通れるようになったんか」

「香…叔父さん?いや、親父の従兄弟だと何て呼ぶんだ?」

「普通におじさんでいいんじゃないか? それか香さんで」


「あー……、香さんで頼む」


「そんで香さんは何でそんな変な格好をしてるんだ?」

「香、着るもんがないなら、良治の貸してやれ」

「おう、とりあえずズボンとセーターでいいかの、他の人もそれでいいか?」


「あ、いや、着るもんはある。無いからこの格好をしてるんじゃない。その前に」



 俺は政治叔父さんの前に畏まって正座をして頭を下げた。



「今まで不義理をして本当にすみませんでした」



 俺は頭を畳に付けた。雪姉さんの蓋を開けてくれたのは姉さんだった。しかし政治叔父さんの蓋は自分から動いて開けなければ、と思った。


 もしも、俺が雪姉さんの時と同じように勘違いから頑なに皆との関係を絶ったのだとしたら、それを復活するにはまずちゃんと謝らなければと思った



「…………アホが。心配かけおって。このボケナスが。俺も雪も春もどんだけ心配したと思ってるんだ。バカモンが」



 政治叔父さんの口から出た言葉は、厳しいのに口調が柔らかくて、叔父さんが俺をどれだけ心配してくれていたのがありありとわかった。

 俺は伏せた畳に涙をぼたぼたと垂らしてしまい、慌てて拭いた。



「ふわぁぁぁん、わん、わん」



 伏せた俺の背中に顔を付けたマルクが声を上げて泣き出してしまった。



「親父っ、言葉がキツい、子供泣かせたぞ」

「ちょっと、子供の泣き声……、お義父さん!泣かせたの?」



 良治が慌て、隣からは良治の奥さんがマルクの泣き声を聞きつけて飛んできた。



「いやっ、ちがう、そのアホとかバカは、本気じゃないぞっ」


「すいません、俺が、その泣いたから。釣られて息子が……」



 良治の奥さんが俺の背中に張り付いて泣いていたマルクの顔を割烹着で拭っていた。


 俺は正座から胡座に変えて、マルクを胡座の中心に据え抱え込んだ。泣いているマルクはこの体勢が安心するのか、小さい頃からこうすると直ぐに泣き止んだものだ。


 マルクが落ち着くのを待って政治叔父さんが口を開いた。



「香、春に会ったか?」


「いや、まだ。さっきここに着いたばかりだ」


「そうか。本家にゃ行きづらいだろうが、春に会ってやれ。お前が行方をくらましてから春はずっと待っとる。春は、本家と言っても離れだからな。蔵の方から回れば本家を通らず行ける」


「親父、でも今はあの化け物達が居る、今行ったら危ねえぞ」



 良治の言葉で俺はマップを広げて確認した。(邪魔なのでついつい右上にグシャっと縮めてある)

 現在、この家の敷地内やその周りに赤い点は無い。



「化け物……は、今、近くには居ないみたいだ」



 俺が右上の宙を見ながら言うのを見ていた尚樹…良治の息子が畳をズズっと膝で俺の方へ近寄って来た。



「あの、さっき獣を退治したのは田浦さんですよね」



 タウさんはゲーム名ではなく本名を名乗っていた。



「それに、香さんも、何かしたよな? 俺、2階の雨戸の隙間から見てた。崖から降りてきた田浦さんがアニメキャラのように狼二頭を倒した。その時もう一頭に香さん、何かしたよな?それで狼の動きが止まった」



 俺らは武器はアイテムボックスにしまってある。雨戸がしまった家から見られていたとは気が付かなかった。

 それとさっきのアレ、犬じゃなくて狼なのか。どっちにしてもゾンビ状態だったが。



「香さん達一向は、あの化け物を倒すために国から派遣されて来たのか? その派手なコスプレもその関係か?」



 かなり間違ってはいるが、ある意味当たってる箇所も無きにしも非ず。いや、ほぼ無いに等しいが。

 叔父さんや良治よりも、尚樹の方が説明は早いかも知れない。ゲームやラノベが趣味だと助かるんだが……。




「さっきの化け物を退治出来るなら春の所に行ってほしい。プレハブを壊すような化け物だ。春が心配だ」


「ここから本家までは近いのですか?」



 タウさんが政治叔父さんに紙を渡して地図を書いてもらおうとした。



「ここから本家までは一本道だ。地図描かんでも迷わずに行ける。塀が見えたら真っ直ぐに行かずに左の脇道を進めば蔵が見えてくる。蔵を行き過ぎた先に裏門がある」



 政治叔父さんは紙とペンをタウさんに返しながら続けた。



「だが、行く前に少しだけ。香には本家の話を聞いてほしい」



 本家の話……?

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