166話 ホワイトですから②
俺たちは学校の正面玄関へ向かう。そこには長机が置かれていて、靴箱や廊下の壁には伝言のような紙が沢山貼られていた。
長机にすわっていた男性に声をかけた。
この地域の避難所としてこの学校が使われているそうだ。
人を捜していると言うと直ぐに名簿で確認をしてくれた。クマは勿論、俺らも息を止めて名簿を捲るのを見守った。
「ああ、球磨祥子さんと翔平さん、東校舎の3階に居らっしゃいます」
「祥子!翔平ぇぇ……」
クマは顔をクシャリと歪ませた後、駆け出した。俺たちは受付の男性に頭を下げて、クマを追いかけた。
奥さんと息子くんが無事そうでひとまず安心した。
階段を三階まで駆け上がった時、廊下の向こうで叫んでいるクマが見えた。
中程の教室の扉から女性が顔を出したかと思うと、球磨に飛びついてクマとふたりで床に座り込み号泣している。
廊下のあちこちの扉や窓から避難民が顔を覗かせていた。もらい泣きする者や羨ましそうな顔が群がっていた。
少し遅れて出てきた幼児をクマが抱き上げて抱え込んでまた大泣きしていた。
「球磨さんとご家族は第2拠点へお送りしますか?」
キヨカがそっと聞いてきた。第2拠点、病院か。
そうだな、奥さんと子供の健康も気になるし、今はクマも家族とゆっくりしたいだろう。
俺たちはこの先の予定が詰まっている。申し訳ないがクマには作戦から離脱してもらおう。
どう切り出そうか悩んでいたがクマがこちらに戻ってきた。
「すみません、ありがとうございます。ありがとうございます。本当にカオさんには感謝しかありません。ありがとう! みんなもありがとう」
「クマ、家族が無事で良かったな」
「球磨こう、良かったな、奥さんと翔平君に会えて」
皆がクマに声かけていると、一旦教室内に入った奥さんが小さな荷物を持って息子と一緒に戻ってきた。
クマが俺たちを紹介した。奥さんにも深々と頭を下げてお礼を言われた。
「カオさん、申し訳ありませんが俺らを洞窟拠点に送ってもらえませんか?」
「それはかまわんが、病院の方がいいだろ? 一応病院でちゃんと診てもらえ」
「カオさん、第2の棚橋先生にはお伝えしました。一旦病棟の方に入院していただいて、退院されてから洞窟でご一緒されてはいかがですか」
キヨカは相変わらず仕事が早い。病院拠点へ連絡を取ってくれた。
カセ達には待っていてもらい、クマ家族とキヨカ、マルクを連れて病院へテレポートした。
驚く奥さんに詳しくは後で説明するとクマが話していた。
キヨカを先頭に病院内を進む。奥さんは大きく目を開きキョロキョロと周りを見ていた。息子くんは抱えていたクマにガッシリと抱きついていた。
廊下へ迎えに来ていた棚橋ドクターの白衣を見た途端、息子くんがギャン泣きを始めた。どうも予防接種を思い出したようだ。
キヨカにアイテムボックス検索をお願いされた。
「アアンパパンマンのぬいぐるみありませんか。なるべく大きのを。翔平君、小さいフィギュアずっと握りしめているからきっと好きだと思うんです」
検索すると出てきたので出したら、それを見た息子くんはピタリと泣き止んだ。
ぬいぐるみを棚橋ドクターに渡すとそれを抱えたドクターと、クマ一家は診察室へ入っていった。
廊下に残された俺たちがテレポートで八王子に戻ろうとした時にクマから念話が飛んできた。
『カオさん、ふたりの診察が終わって入院する部屋が決まったら俺直ぐにそっちに合流するので迎えに来ていただけますか?』
『何言ってるんだ、お前はしばらく家族のそばに居てやれ』
『あざます! でも俺、行きますから! あの、夜とかだけ病院へ送り迎えしてもらうとか図々しいですかね。やっぱ夜は付いていてやりたいんです。お願いしますっ!』
『おう……わかった。いや、別に図々しいとかはない。うちの血盟はホワイトな企業だからな。だが、息子くんが泣き止まなかったらお前は強制休暇だからな』
『はい!ありがとうございます!』
『じゃあ、そっち落ち着いたら連絡くれ』
俺達は八王子のカセ達の元に戻った。カセらに病院での話をした。
「何だよ、球磨コウのやつ。まさか俺らに遠慮してこっち来るとか言ってんじゃねえよな」
「それもあるかも知れんが、いざとなったら強制休暇を執行するさ」
そんな話をしているとサンバから念話が入った。
『カオさん、栃木のブクマ地点へ到着しました』
『お、わかった。直ぐに飛ぶ』
俺たちは八王子の避難所へ入る前に車はしまっておいたので、身ひとつの状態で栃木のブックマークポイントへテレポートした。
キヨカはステータスにマップでサンバ達の位置を把握したようだ。
「少し歩きます。500メートルくらい先の交差点を右へ曲がったあたりに黄色い点が8点。それがサンバさん達だと思います」
「罠だと思いたくないが、一応俺と奈良が先を行く。清華さんはカオさんの警護を頼む。マルクはカオさんの直ぐ後ろへ」
ゲームのような体勢でゆっくりと進む。
俺もステータスのマップを開く。向こうもこちらに気がついたのか交差点からゾロゾロと姿を現した。
「カオさあーん! カオさん、ここです!」
先頭に居たサンバが大声でこちらに手を振った。俺も振り返す。サンバ達は別に武器を構えたりはしていなかった。
ただサンバ除く7人が、異様にギラついた目で俺を見ていた。目だけなら「俺を殺る気かぁっ」と思うところだ。
だが、口角は上がり、頬も心なしか赤らんでいる。いや、頬はこけていて顔色も青白く痩せているのだが、満面の笑みがボタボタと溢れて落ちていた。
「カオさんだ……」
「あの……噂の…」
「……マスサバの魔王」
「バナナ商人」
小さい囁きが所々聞こえてくるが、意味不明である。とりあえず自己紹介でもするか。
「あ、どーも。マースサーバーのハケンの砂漠のカオです。こっちは血盟員のキヨカ、マルク、カセ、ナラだ」
「本当に実在するん……ハケンの…」
「初めてみた。……意外とおっさん」
今、誰か、オッサン言ったか?まぁおっさんだから事実だが。
サンバが仲間を紹介したが、俺の記憶には残らなかった。
直ぐにサンバ含む8名を連れて新潟県の南魚沼市へテレポートした。そこで全員にブックマークをしてもらう。ステータスが無くてもブックマークが出来る可能性もあるので念のため、だ。
それからついでに魚沼市にも飛んでブックマークをしてもらい、また南魚沼市へと戻った。
新潟県の俺のブックマークはこの2箇所のみだ。
ここからサンバ達自衛隊は新発田駐屯地を目指して歩いて移動するそうだ。
ここらにも火山灰はかなり積もっている。俺は精霊を出して火山灰を吹き飛ばした。この近辺だけだしまた直ぐに積もるだろう。
それぞれが礼を口にして去ろうとしていたのを止めた。
「サンちゃん、車は持ってないん? 何かランドクルーザーとかだと山道も行けるんだと」
「カオさん、自衛隊の方がもっと凄い車持ってるよ」
カセが笑いながら俺を止めた。凄い車が何かわからないが、たまーに道路で見た迷彩色の車の事だろうか?
「カオさん、残念ながら今は持ってません。シェルターにあったのを一時はボックスに収納したんですが、取り上げられました。でも大丈夫っす!俺たち陸自は身体が1番の武器っす!この足で、行けます」
サンバは自分の太腿をバシッと叩いて見せた。
うん、災害前の自衛隊ならそうなんだろうけど、今目の前にいる、碌に食事も与えられてない隊員達。
彼らがシバタまで無事に着ける気がしない。俺はキヨカを見た後にカセを見る。
「カオさん、ランドローバー7人乗りで検索してみてください」
何かを察したカセが小声で囁いた。あれ?ランドクルーザーじゃなくてランドローバー?名前は似てる。車の種類は全く分からんが、車が趣味のカセが言うんだ。間違いないだろう。
検索すると1件だけヒットした。俺はソレを取り出した。
わからん、車の違いがわからんよ。どの車もタイヤが4つなのは一緒。ドアが2なのか4なのかの違いや、背が低い高いくらいしかわからん。趣味(車)を極めた者だけがわかるんだろう。
「カオさん一台だけですか?」
「そうなんだよ、これしかなかった」
「大人8人は詰めてもキツイな。カオさん、5人乗りで検索してみてくださ」
「あ、5人だと20件ヒットしたぞ?」
「じゃあ、ソレを2台出してください」
俺は言われた通り、ランドローバー5人乗りと言うのを2台出して、さっきの7人乗りをしまった。
そして車のナンバーを見ながら鍵を探す。カセから言われてガソリン携行缶と言うのも出した。
俺は知らなかったがこれにガソリンが入っている、もしくは入れておけるそうだ。
そのうち、車関係の物はカセに全部渡したい。カセよ、早くステータス画面を発生させてくれ。
サンバ達に車を渡すと大喜びしていた。8人は半々に分かれて乗車して去っていった。シバタに向かった。
去る前に海自で船が無かったら連絡してくれ、とも言っておいた。拾った船が使えるかはわからないが、海自なら何とかするだろう。




