142話 函館上陸③
北海と山本もここに残ると言い張ったが、一旦茨城へと行ってもらうようタウさんが説得をした。
茨城への移動は了承したが、北海が何か言いたい事があるのか浮かない顔なのに気がついたタウさんは話を促した。
「どうしました? 他に何か気がかりでも?」
「あの……あの、気…がかりとかじゃないんですけど、相談……と言うかお願いがあります! 俺、ゲームのキャラの名前、変えたいんです、なんか勢いで北海太郎なんてしたけど、本名は柴田芳臣なんで、それに変えたいんです!」
えぇー……。今更シバタ何がしとか言われても、もう俺の中じゃ北海でインプット済みなんだよ。
タウさんも少し困り顔でミレさんを見た。ミレさんはボリボリと頭を掻きながら上を向く。
「んー……、ステータスの名前ってつまりゲームのキャラ名だろ? 普通は変更不可だよな。ステータスが消える覚悟で、キャラ消して作り直すとかならありだけど……」
「そこを何とか、お願いしやっす!」
北海がミレさんに頭を下げた。
「いや、俺に言われても……、あっ、そうだ。LAFのツルちゃん辺りに相談してみろ。アイツらなら何とかなるかもな」
LAFのつるちゃん……。剣王子の事か。
「そうですね。北海君、茨城にはLAFの、あぁ、ゲーム元の事ですが、その社員達が居ますので彼らに相談してみてください。彼らが無理なら、さっきミレさんが言ったようにキャラの作り直しか、後は北海太郎のまま……か、ですね。カオるん、彼だけLAFに送ってもらえますか?」
「おう…」
「剣王子には連絡を入れました。詳しくは会ってから相談してください」
流石タウさん、動きが速い。右手と左手のチートを使ったな。(←そんなチートはない)
俺は残った人とカイホさんらも一緒に病院拠点へ、そして戻ったら北海をLAF地下へと送った。
もしも名前が変わったらフレンド一覧はどうなるのだろう?自動的にシバタ何ちゃらに変わるのか?それとも北海が消えるのだろうか。まぁ、頑張ってくれ。
函館の展望台に戻るとそこにはもういつものメンバーのみが残っていた。
タウさん、カンさん、ミレさん、アネさん、マルクとキヨカだ。
「ゆうごとどうやって連絡を取るんだ?」
札幌方面へ行ったと聞いたが、札幌のどこに向かったのかもわからない。スマホはほぼほぼ繋がらないんだよな?
「それは大丈夫です。ゆうご君と大地君は、北海君や山本君とリアルステータスでフレンド登録をしています。彼らを通して連絡を入れてもらいました」
そうか、今までは北海道チームと面と向かって会った事がなかったからフレンド登録が出来なかった。
しかし函館に着き、彼らとフレ登録をした今、俺らは北海らと、ゆうごも北海らと連絡がつく。
つまり彼らに連絡の中継点を頼むのか。
「すでに彼ら経由で、私達が函館に来ている事は伝えてもらいました」
中継点から得た情報で、現在のゆうご一行は函館と札幌の間くらいの町にいるそうだ。
ゆうごの婆ちゃんの薬を探して、薬局を回っているが中々見つからず、現在は人の居ない建物で婆ちゃんを休ませているそうだ。
婆ちゃんは早く病院拠点へ連れて行った方がいい気がする。
ふと、思いついた。
「なぁ、タウさん。ゆうごはテレポートリング持ってるよな? そんで婆ちゃんもリアルステータス出てたんだよな? 婆ちゃんってさ、ここ展望台のブックマークあるかな」
俺の言いたい話の半分くらいでタウさんは理解をしたようだ。
「なるほど! 今すぐ中継点経由で確認してみます」
タウさんがしばし無言になった。そして、俺に向かいニッコリと笑う。
「カオるん、お手柄です。連絡が取れました」
「何だ?どう言うこった?」
ミレさんや他のみんなも不思議そうな顔でタウさんと俺を見る。
「ブックマークがあるそうです。展望台の入口ホールに来ます」
そう言って歩き出したので皆もゾロゾロとついていく。
展望台の入口ホールに、ひとりのお婆さんが立っていた。
「ゆうご、いえ、優史君のお婆さんですか?」
タウさんがそう聞くと、お婆さんは青い顔をしながら小さい声で返事をした。
そう、ゆうごの婆ちゃんがここをブックマークしているのなら、ゆうごのリングを使ってここまで戻って来れるはずだ。
そして婆ちゃんをまず茨城の病院拠点へと送り、入院させる。
そしてその後にゆうごと合流すれば良いと、考えたのだ。そこまで話さなくてもタウさんは理解したようで、あっという間に中継点やら、病院やらにも連絡を入れていた。このチート野郎め。
俺が婆ちゃんを送って戻る間に、ゆうご達との合流地点の連絡等も終わっていた。
「わかりやすい場所と言う事で札幌駅集合になりました。ゆうごと大地君もお婆さんの身体を気遣って進む事もなくなったので、馬で早急に向かえるそうです」
「札幌駅か……、苫小牧からの方が確実に近いな」
「そうですね、苫小牧へテレポートしてそこから馬で向かいましょう」
俺らはテレポートした苫小牧港から札幌方面へ馬で移動する。キヨカはアネの後ろに、俺はマルクの後ろだ。
だが、少し進んでから馬車での移動に変更した。
というのも、火山灰が巻き上がりキツい。しかも後ろを走ると前の馬があげた灰で前方が見えづらいのだ。
それで馬車の中に入っての移動になった。
馬車は俺のサモンの地龍に引いてもらう。馬車の屋根あたりに俺の精霊を出して、馬車には風の膜のようなものを張ってもらった。
言ってみるもんだ。まさか出来るとは思ってなかった。
地図を見るタウさんから方向の指示が来るのでサモンへと伝える。
馬車は結構な速さで進む。広大な北の大地を。
俺はぼんやりと外を眺めながら誰に言うでもなくポロっと呟く。
「俺、世界がこんなふうになる前に北海道を旅してみたかった」
そんな俺の言葉にミレさんが反応した。
「そうだなぁ。俺もだ。いつでも行けると思ってたけど、もうあの頃の日本は無いんだよなぁ」
「そうですね。私も後悔していますよ。もっと早くに時間を作って家族を東京デスティニーランドに連れて行けばよかった。結局ひとつもアトラクションに乗っていないですから。今は海の底かぁ」
そうか、タウさんは家族旅行の最中にあの災害が始まったんだった。
「ワイ浜さ、結局、水は引かないままだったな。デスティニーランドの地下に逃げ込んだ人はどうなったんだろうな……」
「そうですね。換気システムはあっても海中に沈む設計はしていないでしょうね」
「……あのさ、ゆうごのところが何とか目処がついたら、俺ちょっとワイ浜行ってみていいか?」
「……どうするんです?」
「うん。あそこに飛んで、マップ見る。もし、まだ、黄色の点があったら何とか助けられないかな、地下に逃げ込んだ人」
「けどこのマップって、自分がいるフロアの地図だよな? 地下は見れないんじゃないか?」
「あ、そっか……。水中の建物に生き残ってる人が居たらって思ったけど、無理かぁ」
俺の脳裏に焼きついている風景、沢山の遺体が浮いていたワイ浜。少しでも救えたらあの風景を上書き出来るのでは、と思ったりしたんだ……。
「まぁ今はゆうごからの救助要請が先だ。俺達は勇者でも神さまでもない。全部の人間を助ける事は出来ない」
「わかってるんだ……うん、わかってる」
「そうですね、自分の足元をひとつずつ、片付けていくしかないです」
「見て見て、カオるーん、札幌の名所! 時計台だよ? ほらっ!」
アネの見ていた側の窓から顔を出した。
ちっさ!
あっという間に通りすぎた。




