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結婚式

 オスカーに贈られた衣装を着ける。

 純白の何重ものレースを重ねた光沢のある生地に、宝石が散りばめられている。スカートは後ろに長いデザインで、首元はレースで覆われている。長いレースの手袋を付けて花束を持つ。

 髪は複雑に編み込まれながらアップになっていて、こちらにはオスカーの母に貸してもらったヴェールが留められている。


 ペトラから出て来た家族が私の控室にやって来た。

「リリー、おめでとう」

 母の目が潤んでいる。

「お姉ちゃん、凄く奇麗!素敵!」

 エミが興奮してドレスに触りそうになるのをニックが必死で引っ張ってとどめている。家族たちも王宮で恥ずかしくない礼装を着けているが、母などは着慣れないものを着ているせいか、少し気後れしているようにも感じた。

「お母さん、怖い?」

「そうね。少し怖いわ」

「背筋伸ばして、笑顔だったら、誰も何も言わないよ。私の大好きなお母さんだもん」

 父も頷いた。

「そうだな。こんなに誇れる娘を産んだのはお前だよ。自信を持て」

 そう言う父の方が、緊張している風である。母がその父の緊張に気付くと目を丸くした。

「……私より緊張している人を見ると、一気に自分の緊張は解けるわね」

「……勘弁してくれ」


***


 控えの間でオスカーと対面の儀が行われた。

 オスカーは私を見て瞠目し、また口を押えた。耳が赤くなっている。という事はまずまずの仕上がりという事だろう。

 オスカーも騎士の礼装だった。やはり、似合う。私の頬も緩む。

 オスカーの左胸には今までに貰った勲章の類が全部ついている。腰には飾剣が差されていた。他の人には使えないだろうが、オスカーならこんな飾り物の剣でも空間切りに使えてしまうから、王宮警備の面からは本当は帯剣しない方がいいのにと思う。だが、実際に万一有事の時は、オスカーが剣を使えた方がよっぽど頼りになるだろう。


「どうだ?緊張してるか?」

「そりゃ、緊張するよ。裾踏んで転ばないかなとか」

「抱き留めてやるから大丈夫」

 ……それはそれで、恥ずかしいんですけど。



 王宮での結婚式は予想以上に大掛かりなものだった。


 見守る人々の中を二人でゆっくりと進む。宰相閣下や高位の貴族、騎士たちがずらりと並んでいる。

 謁見の間へ入ると、国王陛下が立たれた。

 オスカーは騎士の礼を、私はドレスのスカートを軽く摘まんで、腰を落とす。

 はい、練習しましたとも。


 国王陛下から直接祝辞を頂き、勲章まで授かった。そして、私たちの結婚を国王陛下が宣言された。

「この両名を夫婦と認め、何人もこれを引き裂くことを認めぬ。死がふたりを分かつまで、この二人が夫婦であることをここに宣言する」

 謁見の間の両側にはギーゼン家の人や私の家族、フェリクス班長やマルク、エルマ姉さんやコルネリアもいた。皆が拍手を送ってくれる。

 私の両親が涙をぽろぽろ零している。

 私も涙が溢れて来た。

 隣のオスカーがそれをそっと拭ってくれる。


 ああ、本当に結婚したんだ。皆に認められて、祝福されて。


 ギーゼン伯爵夫妻もアガーテと共に惜しみない拍手を送ってくれている。夫人の目からも涙が零れ、アガーテが優しくハンカチを当てていた。


 私とオスカーは宰相にいざなわれて歩き、謁見の間を後にした。


 宰相がそのまま私たちをバルコニーに案内する。


 え?バルコニー?

 ま、まさか。


 オスカーが天を仰いだ。

「やられた。ここまでするか」

 宰相がニコニコ顔でバルコニーを示した。

「さ、王都の民は自分たちを救った英雄夫妻を一目見ようと集まっている。余り待たせてはいかん」

 バルコニーの向こう側でラッパが吹き鳴らされるのが聞こえた。同時に人々の歓声が高まる。


 オスカーがため息を一つついた。

「仕方がない。見世物になりに行くか」

「えええ、どうしたらいいの?」

「手を振って笑っておけ」


***


 王都からはその日のうちに引き揚げ、ヴェルゲへ戻る事にした。ギーゼン伯爵家は領地に戻り、私の家族もペトラ村への帰路につく。私たちは、仮眠を取りながら馬車を夜通し走らせ、翌日夕方にはヴェルゲに到着した。

 ヴェルゲ西駐屯地での披露目は、帰り着いたその晩に行われた。それは、実に派手などんちゃん騒ぎであった。せっかくエルマ姉さんが私を奇麗に仕上げてくれたので、花嫁衣裳を汚すまいと、ずっと気を張る羽目になる。オスカーからは「リリーをみんなに見せびらかしたいような、隠しておきたいような、複雑な心境だ」と言われた。

 修復師達も一緒に祝ってくれた。当番の四班だけは飲めないので悔しそうである。

 あれ?前もこんな事があったような?


 皆が酔いつぶれかけた頃、私はオスカーに連れ出された。

「挨拶とかしなくていいの?」

「構わない。察してくれるさ」

 そして馬でドレスのまま新居へ連行されたのだった。


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