報告
ギーゼン領で挨拶だけ済ませると私たちはすぐにヴェルゲ西駐屯地に戻った。二班にこれ以上負担を掛けられないとの班長の判断だったが、伯爵夫人がオスカーに取り縋って来るので退散して来たという方が正しいかもしれない。
駐屯地に戻ると、コルネリアとエルマ姉さんが何かを嗅ぎつけてやって来た。
「リリー、あたしたちに報告することがあるんじゃないの」
二人に詰め寄られて、私はあっさり白旗を上げた。
「「おめでと!!」」
二人に手荒く祝福された。
「オスカー君、やる時はやるのね」
「やだ、こんなガキにまで先越されたわ」
思えばこの駐屯地で随分この二人には相談に乗ってもらった。結局、この二人の言い分が正しかった。私はオスカーはただの同僚だと言い張っていたし、自分でもそう思い込もうとしていたけど、二人には私より私の気持ちが分かっていたらしい。
「その、色々とありがとうございました」
「お姉さんの意見を聞く気になった?」
「ハイ、それはもう」
「どうするの、これから。仕事続けるの?」
エルマの言葉にコルネリアが目を丸くした。
「リリーから修復師を取ったら何が残るのよ」
がーん
私ってそういう評価なのですか?
私が崩れそうになると、エルマが追い打ちをかけた。
「残る残る、守銭奴が残る」
「ええええ、酷いですぅ」
「結婚式はいつ?」
「そ、そんなのまだ考えてないです」
「あんたね、帰りの道中ででも相談できたでしょうが」
「ちょっと、エルマ姉さん、昨日告白されて、今日式の日取りって早すぎない?私だって、ランベルトとやっと式を挙げたところよ」
「そう、そうですよ!」
私はあたふたしながら首をコクコク振る。
エルマは馬鹿にしたようにフンと鼻を鳴らした。
「何言ってんのよ。そこらの男と女が一緒になるのと違って、こいつら何年一緒に生活してると思ってるのよ。相手の事なんて知り尽くしてるし、後する事てば一つじゃない」
ギャーーーーー!!!!!
「ちょっと姉さん、リリーが泡吹いてるからそこらで止めてあげて」
私はふらふらになりながら部屋に帰った。
「リリー、どうした?」
オスカーに声を掛けられて、顔がボフッと音を立てて茹った。
「何でもない」
オスカーの顔も見ずに自分の部屋に飛び込み、ベッドに倒れ込んだのだった。
***
一班はオスカー捜索の為に実務から離れていたため、長期休暇は一旦お預けとなってしまった。次は三か月後である。仕方がないので私は実家に手紙で結婚を決めた事を報告した。
すぐに長文の返事が来た。母からの祝福と心配、弟たちからの絶賛、妹からはまだ習いたての字で「しあわせになってね」と書かれていた。
父からの手紙はかなり難しい内容だった。
身分違いの結婚に対する覚悟と生まれ育った背景の違い、価値観の違いをきちんとお互いに認め合わなければいけないなど、延々と書き綴られていた。花嫁の父としては金銭的に何も持たせてやれない事を詫びてあった。
オスカーに全部見せた。
「早くご挨拶に行って、安心してもらいたいな」
オスカーは翌日、うちの両親へ宛てた手紙を持って来てくれた。
「読んでくれ。リリーが判断して、これで良いならご両親に送ってくれ」
読んでいい、と言われたので読んだ。
すぐに挨拶に行けない詫びから始まり、オスカーが私を大切に思っている事、こういう風に育てた私の両親を尊敬している事、金銭的な負担は一切考えて貰わなくて良い事、伯爵の承諾は得られたので、正式に籍を入れられる事などが書かれていた。
読んでいると、顔が赤くなったり、目頭が熱くなったり。
「……ありがとう。送るよ。これでかなり安心するんじゃないかな」
その翌日。
カサンドラがやって来たのである。




