ギーゼン軍
私達の前には騎士団から譲り受けたあちらの世界の地図があった。こちらの地図に上から向こうの地形などを色を変えて描き込んだものだ。山などの地形は殆どこちらの世界と同じようだ。ただ、こちらでは農地でも、あちらでは森であったりする場合が多い。そしてかなりの場所に捜索済みの印が書き込まれている。
「オスカー君、動き回っている可能性は無いかなぁ」
「無いとは言えないでしょうが」
ギーゼン軍のティーレマン団長が地図を指さした。
「森から山にかけては捜索されないのですか?」
「ベニグノ君が言うにはあそこは魔獣の巣窟だそうなんだよ。万に一つも生き延びれないと」
班長は難しい顔をする。
「オスカーなら生き延びれると思う」
私は班長に訴えた。ティーレマン団長が追い風をくれる。
「探していないところを虱潰しに当たる他無いでしょう」
そう言いながら地図の森の深い部分をトントンと指で叩く。
「ここはこちら側では集落がありますね。ナーダ村?ここに基地を作りましょう」
班長は難しい顔をしている。
「失礼ですけど、団長さん、魔物と対峙したご経験は?」
「確かに回数は少ないですが、あります。うちの領でも何回か次元の裂け目から魔物が溢れましたから。ですが、何年も前の事です。経験者と、若手の手練れだけを連れて行くようにします」
ようやく班長が森を捜索する事を決断したようだった。
「向こうに渡った途端に魔物に囲まれる事を覚悟してください。同時にこちら側にも魔物が抜けないように人を配置願えますか」
「了解しました。明日朝一番に配備完了するようにしましょう」
「では、明日、このナーダ村を出発という事で」
方針が決まると、私たちはその集落へ出発した。ベニグノは班長の馬に一緒に乗せる。マルクと私でテントや食料を運ぶ。ギーゼン軍はティーレマン団長が隊を纏めて追ってくる手筈だ。
夜にはナーダ村に到着した。
天幕の中で班長が震えるベニグノを宥めていた。
「大丈夫、手練れ揃いだから、そうそうやられないって」
「△×◎●×#…」
「分かった分かった」
言いながらベニグノの頭を撫でている。
空が白み始めた。
私は自分の天幕で身支度を整えた。
何としてでもオスカーを連れ帰る。絶対生きてる。
決意を胸に天幕を出た。




