表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/42

異界の魔術具師

 捕虜となった黒いローブの男は名前を「ベニグノ」と言うらしい。

 班長はベニグノの頭を覗いて、様々な情報を得たようだ。


「班長、そんな特技があったんだ」とマルクが呟いている。「うへぇ、ボクの頭も覗かれてたのかな……」

 取り調べは毎日続いている。

 何故、空間に亀裂を入れたのか。

 樽は何か。

 スタンピードを人為的に起こしたのか。


 でも、私は自分の部屋でずっと沈み込んでいた。


「リリー!来るな!」

 最後のオスカーの言葉が何度も頭を巡る。


 夜も眠れない。


 オスカーがあちらの世界に落ちて3日目、オスカーの自称婚約者、カサンドラが一班のホームにやって来た。

 私を見るなり怒りを顕わにして私の頬を打った。

 

 避ける気も起らない。

「どうしてあなたが向こうに行かなかったの!どうしてオスカー様があなたの身代わりになるの!」


「……申し訳ありませんでした」

「謝って済むと思ってるのっ」

 カサンドラが再び私を打つ。

「……ごめんなさい。ごめんなさい……」

 それしか言えない。

 カサンドラが私の両肩を掴んで揺さぶった。

「返して!オスカー様を返してちょうだい!」

 何も言い返せない。


「ごめんね、ちょっと離れてくれるかな?うちの子も参ってるんだよ」

 班長が割って入ってくれた。

「部外者立ち入り禁止……」

 そう言って、マルクがカサンドラを術具のリボンで巻いて有無を言わせず部屋から引きずり出した。


 フェリクス班長が私の頭をぽんぽんと叩いて、そして、少し赤身の残る頬を優しく撫でてくれた。

「リリーちゃん、マルク君、ちょっと座ろうか」


 指し示されたソファーに座った。

 向かいに班長が座る。マルクもそばの絨毯に直接にぺたんと座った。


「色々分かった事や決まった事がある。それを共有しておこう」

 私はゆっくりと班長を見上げた。

「まず、あのローブの男はベニグノと言う名前だという事は知ってるね?彼はあちらの国の筆頭魔術具師だそうだ」

「筆頭魔術具師?」

「あの術具の剣を作った本人の様だね。国に命じられて一昨年に作り上げたそうだ」

「あの樽は何だったの?」マルクが尋ねた。

「向こうで出た廃棄物のようだね。処理に困っていたんだと。マルクの読みが正解だった」

「うへぇ、全然嬉しくないや……」

 マルクが仏頂面をする。

「術具の剣は1本しかないらしい。はめ込まれている魔石が貴重らしくてね。それで、取り戻そうと兵士がこちらになだれ込んできたという事だったね」


 私は気になっている事を尋ねた。

「そのベニグノはこちらから向こう側へ亀裂を作ることが出来るんですか?」

「出来るらしい」


 私は光が一筋見えた気がした。


「なら!オスカーを取り戻しに行きます!」

「騎士団で捜索隊を組織して向かう事になったよ」

「私も行きます!オスカーが何処にいるのか、私なら気配を感じ取れます!」

「うん、そうだね……けど、実は国王陛下が君まで失う訳にはいかないと躊躇っておられるんだ」

 

 は?

 国王陛下が?


「腑に落ちない、って顔してるねぇ。リリーちゃん、君、今この国で一番の修復師だっていう自覚ある?」

「は?まさか」

「まさか、じゃないよ」

 私はバンとテーブルを叩いて立ち上がった。

「それでも私が行きます!オスカーの気配を感じ取れるのは私だけでしょう!」

 フェリクス班長は肩をすくめた。

「まあ、そう言うと思ったよ。……当てにしているよ。僕も行くし、成功確率はリリーちゃんが居ればずっと上がるしね」

「班長も行かれるんですか?」

「可愛いオスカー君の為だしね。それに、あっちの人間とも意思疎通できるしねぇ」

「……ボクも行くかなぁ……」

 マルクが呟く。

 珍しい。絶対残ると言いそうなのに。

 フェリクスがマルクの頭をわしゃわしゃと撫でる。

「よし、一班合意という事で良いね」


 そう言うと班長は、鞄から地図のようなものを取り出しテーブルに広げた。

 見た事の無い地図である。

「これは?」

「ベニグノの頭から引き出した向こう側の地図だ。ここが前回のオスカー君が連れ去られた場所」


 私は食い入るようにその地図を見つめた。

 町と森、山が描かれている。中央の集落部分に赤く×が付けられている。


「まず、ここから入ってみよう」

「あちらも警戒してますよね」

「まずは探りを入れてみよう。手近な村人か兵士を捕まえて情報を入手しよう。オスカーの動向が分かるかもしれない。捕まっているのか、逃げているのか」

「……オスカーが捕まってるイメージが湧かない……」

「逃げてそう」

「だねぇ」班長が頷いた。

「出発はいつですか?今ですか?」

 班長は苦笑した。

「明日だ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ