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【書籍化決定】本の虫令嬢は幼馴染に夢中な婚約者に愛想を尽かす  作者: 初瀬 叶


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第59話

「あれって……先生の婚約者だよね?」


長身のカイザー様が腰を落として私の耳元で問いかける。


その瞬間、私の目の前にはフェリックス様が凄い形相で現れた。え?瞬間移動?

物語の中でしか存在しない魔法だと思っていたけど……フェリックス様って本当は騎士じゃなくて魔法使い?


そんな事を考えていたら、私は次の瞬間にはもうフェリックス様の腕の中に居た。そして私とカイザー様との距離を空ける様に抱き締めたまま少し離れた。


「お前は誰だ?」


「僕ですか?僕はここの生徒ですよ。メグ先生の可愛い教え子です」


頭上でフェリックス様とカイザー様のやり取りが聞こえる。長身の二人に挟まれて居心地が悪い。


二人の刺々しいやり取りは続く。


「ここの生徒は教師にそんなに馴れ馴れしく接するのか?俺がここに通っていた頃は……」


「あ~!自分の若い頃の話しを引き合いに出すのっておじさんの特徴ですよ?」


「……お、おじさん……?」


何となくカイザー様の方が一枚上手だ。おじさんと言われたフェリックス様は絶句していた。

その様子にカイザー様は面白そうに笑う。


「余裕のない姿はみっともないですよ?そんなんじゃ直ぐに先生に嫌われちゃいそうですね~お・じ・さ・ん。じゃ、メグ先生、また明日!」


そう言いながらカイザー様は私達から離れていく。クスクスと笑うカイザー様の声が私の耳にも届いた。


「……フェリックス様……?」


「……失礼な奴だ……メグ、あまり関わるなよ」


黙り込んだと思ったら関わるな……か。無理な相談だ。


「関わらない……は少し難しそうですね」

クスクスと私が笑うと、フェリックス様は不機嫌そうに、


「……では、極力関わるなよ」

と言い直した。あまり意味は変わらない。




「帰り、ローレンが店に寄ってくれと」


腕を解いてくれたフェリックス様は改めて私の手を取り、馬車へと向かう。

皆が手を繋いで歩く私達をチラチラと見ているので、恥ずかしさに私は少し俯いてしまった。


「店に?」


「ああ。仮縫いが終わったそうだ。一度袖を通してみて欲しいと」


「分かりました。相変わらず彼女の仕事は早いですね」


他の国には『お色直し』という風習があるらしく、フェリックス様はドレスを二着も依頼していた。

ローレンに無理を言って申し訳ないが、彼女のドレスを着る事が出来るのは、私としても、とても楽しみだ。


恥ずかしさから、私はそっと繋いだ手を離そうとするが、残念ながらガッチリと握られていて、結局馬車までそのまま歩くしかなかった。



フェリックス様の手を借りて馬車に乗リ込む。


その時一言、


「俺って……おじさんなのか?」

とフェリックス様は心配そうに私に尋ねた。










「わぁ~良いお天気!!」


私の声にフェリックス様も答える。


「日ごろの行いが良いからな」


「それは、私の……ですか?」


からかうように言えばフェリックス様は苦笑いして、


「だな。俺じゃなさそうだ」

と私をそっと抱き寄せた。


「ドレスに着替えたら、こうして抱き締められないからな」


隣の部屋で母やメイドが待っている。ローレンさんの素敵なドレスも。


今日は私達の結婚式だ。何故か殿下とミリアンヌ様まで招待客として参列すると言い出した。私がすっかりミリアンヌ様に気に入られたせいだ。


『お陰で近衛の配置を改めて練らねばならなくなったじゃないか!』

と昨晩イライラしていたのは、今日から私のお義父様になるハウエル侯爵だった。


そう……昨晩急に出席を申し出た殿下に、お義父様もフェリックス様も振り回されっぱなし。二人が寝不足なのもそれが原因だった。


「そろそろ支度に向かいませんと、皆に怒られてしまいます」

フェリックス様の胸をそっと押して、私は彼の腕から離れた。


フェリックス様は一瞬残念そうな顔をするが、諦めた様に言った。


「そうだな。女性はとにかく支度に時間が掛かるものだし」


うーん………これがステファニー様を思い出しながらの言葉である事が想像出来て、ほんの少しイラッとする。私にも『嫉妬心』とやらが芽生えた様だ。


そういえば、昨日こそステファニー様の結婚相手が決まったと聞いたばかりだ。


『隣の国の侯爵の……後妻だそうだ』

フェリックス様は淡々とそう言った。


後妻……。ステファニー様がそれをすんなり納得したとは思えなかったが、フェリックス様

曰く

『陛下の持ってきた婚姻だ。断る道は残されていない。……まぁ、贅沢は出来るんじゃないか?それが望みだったようだし』

と、嫌味とも取れる言葉で締めくくった。



「メグ?」


フェリックス様の声に私は我に返った。ついステファニー様の今後を考えてしまった。


「ちょっと考え事してました。……じゃあ、支度してきますね」


私は切り替える様にフェリックス様と離れて支度に向かった。







「おめでとう!!」

「お幸せに!」



教会での挙式と結婚証明書の提出を済ませた私達はハウエル侯爵邸の広い中庭で皆の祝福を受けていた。




「さっきの白いドレスも綺麗だったけれど、このドレスも素敵ね!ねぇ、メグ先生。どこのドレスなの?」

ミリアンヌ様が私のドレスを褒めちぎる。


「私もお色直しがしたいわ!ドレスも、同じお店のが良い。ねぇ、ダメ?」

ミリアンヌ様は隣の殿下に甘える様にそう言った。


「もう挙式のドレスは頼んでしまったのだが……お色直しか。面白いな。よし!フェリックス、このドレスを作った者を教えてくれ。お色直し用のドレスを頼もう」


殿下の言葉にフェリックス様は、


「こればかりは殿下の頼みでもダメですね。彼女は一人で作ってるんです。彼女に一度尋ねてみて……了承してもらってからで良いですか?」

とローレンさんの気持ちを最大限に汲んだ答えを返した。だけど……殿下が納得するかしら?


するとミリアンヌ様が、


「まぁ……お一人で?私、あまり人を困らせたくはないわ。フェリックス、色良い返事が貰えたらで良いの。無理はさせないで」


「良いのか?」

ミリアンヌ様の言葉に殿下が問う。


「ええ。だって貴方は私の言葉を全て叶えようとしてくれるでしょう?今日の結婚式だって……昨日出席したいと言ったら直ぐに叶ってしまったわ。これだと……私……皆にわがままって思われちゃう」

可愛らしいミリアンヌ様に殿下も『そうか、そうか』と頷いて、彼女の髪を撫でた。


多分私もフェリックス様も心の中は同じ想いだっただろう。

『安心してください。もう思っています』と。




「マーガレット!おめでとう!今日はとっても綺麗ね!!」

アイーダ様が笑顔でそう言った。うん。アイーダ様はいつも通りだ。素直な彼女が私は好きだ。


隣のジェフリー様が困った様に笑う。大丈夫ですよ。私は慣れっこなので……と声に出さずに私は微笑んで頷いた。


サーフィス様もお祝いに駆けつけてくれた。たくさんの人達の笑顔に囲まれ、私達も笑顔になる。



しかし……ここにデービス様が居ない事が少し寂しい。旅をしているデービス様に、一か八かで招待状を送ったが、既にその国の宿にはおらず、宛先不明で戻って来てしまった。


仕方ない……そう思いながらも寂しい気持ちで私は大切な友人の顔を思い出していた。

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