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【書籍化決定】本の虫令嬢は幼馴染に夢中な婚約者に愛想を尽かす  作者: 初瀬 叶


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第57話

「ジェフリーが宰相?!そんな馬鹿な!!」


「何が馬鹿だ。馬鹿はお前だ。それに……お前の息子よりジェフリーは余程出来が良い。十分過ぎる理由だろう?」


陛下が冷たく言うと、アンダーソン伯爵は力が抜けた様に床へと膝を突いた。


「わ、私の息子は……宰相にはなれないと……?」


「お前の息子だから宰相になれる訳でも、お前の息子だから宰相になれない訳でもない。単純に実力の差だよ。

私もいずれ王の座を降りる。次の世代には次の世代のやり方がある。身分や肩書も大切だが、それだけではダメなんだよ」


陛下は膝をつき項垂れているアンダーソン伯爵の元へ近寄ると、その肩に手を置いた。


「伯爵からやり直せ。いや……伯爵だからこそ出来る事もある」


そう言った陛下は皆を見渡すと、


「さて!私の話は終わりだ。あとは任せたぞ」

と殿下に声を掛け部屋を去る。陛下が退出し、部屋は一瞬の静寂に包まれた。


それを壊したのは、ステファニー様の泣き声だった。


「私は……私はどうなるのよ!!」

アンダーソン伯爵は立ち上がると、ステファニー様に声を掛けた。


「もう……どうにもならん。私は公爵でも宰相でもなくなった。だが、まだ私達には領地も領民もある。やり直すしかない」


それでもステファニー様は『嫌、嫌』と首を振る。


「殿下に婚約解消された伯爵令嬢なんて……!誰と結婚出来るっていうのよ!!もう贅沢すら出来ないじゃない!!恥ずかしくて表も歩けやしないわ!!」


そんなステファニー様にアンダーソン伯爵も困った様に眉尻を下げた。


今までずっと猫を被っていた分、全てが剥がれ落ちたステファニー様は小さな駄々っ子の様だった。


「それは陛下が考えてくれる。さぁ、帰ろう。此処に居ても恥を晒すだけだ」

ステファニー様の肩を抱き、アンダーソン伯爵が背を押す様に部屋を出ようとするも、ステファニー様はその腕を振りほどいた。


「お父様の責任よ!!」

そう叫んだステファニー様は走って部屋を出て行く。


「ステファニー!!待ちなさい!!」

アンダーソン伯爵はその後を追って共に部屋を出た。


二人が去った部屋では殿下が静かにフェリックス様に言った。


「十年……大変だったな。アレの世話は」


「同情は……もう結構ですよ。その代わりミリアンヌ様と良い国を築いて下さい」

とフェリックス様は苦笑いした。


「スパイク侯爵。お前も屋敷へ帰り奥方と良く話し合うんだな。息子に侯爵を譲る手続きは迅速に進める様に」

殿下の言葉に、ずっと項垂れて存在感がすっかり薄くなっていたスパイク侯爵は小さな声で『はい』と答え、護衛と共に部屋を出て行った。


「さぁーて、これで終わりだな!わが国の膿を出すことにも成功したし、結局は丸く収まった」

殿下は大きく伸びをした。


丸く収まったと言うべきか……私達の間には微妙な空気が流れていた。

結局、フェリックス様も私も父もハウエル侯爵も……殿下や陛下に振り回された訳だ。

身分や肩書が関係ない?いや……そこに王族は含まれないという事か、と私は理解した。


殿下の斜め後ろに立っていたジェフリー様が微笑みを湛えたまま言った。



「ルルに会いに来ても良いですよ。アイーダは譲りませんけど」


「……ミリアンヌと上手くやってる。アイーダの事は諦めたよ」


殿下の言葉から、やはり子どもの頃に殿下の白猫を助けた人物がアイーダ様だった事が分かる。

自分が濡れる事も厭わず、噴水に入って猫を助ける幼いアイーダ様を想像し、私はつい微笑んだ。アイーダ様ならやりかねない。彼女はあまり裏表のない人物だ。


殿下は……本当はアイーダ様の事を……。


「ルルは元気か?」


「ええ。もう十一歳になりますがね。アイーダが甘やかしているから、少し太り気味ですが、幸せそうです」



「……そうか。アイーダ嬢に預けて良かったよ」


殿下は懐かしむ様な顔で頷いた。ルルってもしかして……先程の話に出た猫かしら?


「アイーダは……愛情深い人ですから」


そう言ったジェフリー様の顔が少し勝ち誇って見えたのは、私の気のせいだろうか。


「ふむ……ではお言葉に甘えてアイーダ嬢に会いに行こうかな」


殿下の言葉にジェフリー様の右眉が少し上がる。


「冗談だ。今度ミリアンヌを連れてルルに会いに行くよ。ミリアンヌも動物が好きなんだ」

そう言った殿下の顔はとても柔らかかった。


そこで私達は解散となり、私と父は馬車へと向かう。


「メグ!」


後ろからフェリックス様の声が掛かる。


「先に行ってるよ」


父はそのまま私を置いて馬車停まりへと向かった。


「フェリックス様」

立ち止まった私に、フェリックス様が追いついた。


その途端、フェリックス様は私を抱き締める。


「フェ、フェリックス様?!王宮ですよ!!」

私は目を白黒させた。


「良かった。お前との婚約が無くならなくて」

フェリックス様は心からホッとしている様だ。


「はい……。でも何だかそれ以外の事が大事過ぎて、色々と実感がないような……」

フェリックス様の腕の中で苦笑する私に、フェリックス様は続けた。




「本当にな。宰相や財務大臣まで失脚するとは。それに……まさか自分が生贄だったとはな」


「ねぇ……フェリックス様。差し支えなければ教えていただきたいのですが……」


「何だ?」


「どうしてフェリックス様は殿下からの『秘密の任務』を引き受けようと思ったのですか?」


私は素直に疑問を口にした。殿下に頼まれた……とはいえ、何も褒賞のない任務とは何とも違和感がある。


「……笑わないか?」


「ええ。笑いません。約束します」


「殿下が……王位を継いだ暁には俺を団長にしてくれると……そう約束してくれたんだ」


ちょっとだけ不貞腐れた様に言うフェリックス様が可笑しかったが、笑わない約束を私は何とか守った。

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