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【書籍化決定】本の虫令嬢は幼馴染に夢中な婚約者に愛想を尽かす  作者: 初瀬 叶


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第47話

「お……っと」


戸惑った様な、恥ずかしがっている様な。そんなフェリックス様の声が頭の上から聞こえたが、彼はそっと私の背に腕を回してくれた。


「フェリックス様が騎士を辞めても、私が教師になって養ってみせます」


私はフェリックス様の腕の中でそう言ってクスッと笑う。


「おいおい。騎士を辞めても侯爵では居るつもりなんだが?」


フェリックス様もそう言って笑う。


お互いにクスクスと笑った後、私は静かに言った。


「例え何者でもなくともフェリックス様に価値がないなんて事は絶対にありません。私はフェリックス様のお陰で本を読むことが好きになりました。……それに……フェリックス様のお陰で誰かと共に歩む未来を楽しみに思える様になりました。私にとって……フェリックス様が騎士であろうとなかろうと、私に幸せになるきっかけを下さった大切な方です」


「それは……本当か?」


「はい。今回の事で、もしかすると私とフェリックス様はやはり一緒に居る事が出来なくなるのではないかと考えた時、自然と『悲しい』と思ったんです。その時『あ~私はフェリックス様の側に居たいのだな』って分かったんです」


「あんなに……蔑ろにしていたのにか?」


「あの時には、こんな風に思うことはなかったですよ。今のフェリックス様だからです」


「そうか……そうか。うん……そうだな」


噛み締める様にフェリックス様は言った。


私はフェリックス様の顔を見ようと、そっと腕の中で上を向く。フェリックス様はそれに気付いて、直ぐに顔を反らした。


「どうして顔を反らすのです?」


「……多分、ニヤけている。見るな!」


そう言ったフェリックス様は首まで真っ赤だ。


「フフフ!見せて下さいよ!」


背の高いフェリックス様の顔は全然見えない。私は思いっ切り背伸びした。


「やめろ!かっこ悪いから!」


「大丈夫です。別にフェリックス様をかっこ良いと思った事はありませんから。あ!でも最近、美丈夫らしいと気付きましたが」


私の言葉にフェリックス様は急に下を向いて情けない声で、


「かっこ良いって……思って貰えてなかったのか……せっかく……近衛になったのに……」

と悲しげに言った。


ちょっとだけ悪いことをした気になってしまったが、私の言葉に一喜一憂するフェリックス様が面白い。


「フェリックス様にこんな一面があるなんて、驚きです」


「こんな一面って……何だ?」


「それは……内緒です」


悪戯っぽくウィンクして笑えば、何故かまたフェリックス様は顔を背けた。



フェリックス様が首の筋を痛める前に私達は離れた。


「明日の試験、頑張れよ。こっちの事は俺達に任せろ」

とフェリックス様は私の頭を撫でた。


「はい!フェリックス様を養わなければなりませんので、頑張ります!」


私が笑って言えば、フェリックス様も笑う。


「心強いな。じゃあ、俺はのんびりと暮らすかな」


あんなにプライドの高かったフェリックス様が、冗談でもこんな風に言うなんてと、私は笑い合いながらそう思っていた。

今ならきっと、ハウエル侯爵が副団長という立場に留まっている理由を知ってもフェリックス様は納得するだろう。……まぁ、これは私から言う事ではないので、口にはしないが。


フェリックス様は優しげに目を細めると、


「絶対にお前を諦めないから。初恋拗らせた男はしつこいんだ」

と微笑んだ。


「フフ。私も遅ればせながら……今更、初恋の様です」

 

私のその言葉を聞いて、少しだけ驚いた様な顔をすると、フェリックス様は私の肩にそっと手を置いた。

……が、私の顔を見つめたまま、何だかモジモジしながら、顔を赤くしている。どうしたんだろう?


暫くそのままでいると、ゆっくりとフェリックス様の顔が近付いてきて、私の唇にフェリックス様の唇が触れた。……口づけ?


その行動に気付き、思わず目を丸くした。

ギクシャクと離れていくフェリックス様の顔を凝視する。


「お、怒ったか?」


「い……いえ。突然の事でお、驚いてしまって」


私今、フェリックス様と口づけをしたの?あっと言う間で……驚きすぎて感動が無かった……初めての口づけだったのに。そんな気持ちで私は思わず、


「あの……もう一度して下さいますか?」

と口走っていた。


フェリックス様は面食らった様な顔をする。私は自分が今、無意識に口走った言葉に気付き、


「あ!す、すみません!う、嘘です!嘘!」

と慌てて、フェリックス様に背を向けようとした。恥ずかし過ぎて穴があったら入りたい。いや今直ぐ、掘ってでも埋まりたい。


しかし、フェリックス様は私を自分の方に優しく向ける。

そして、口角を上げて微笑んだかと思うと、私にまた口づけた。

ゆっくりと離れていくフェリックス様の顔は少し赤くなっているが、さっきの様な気まずそうな様子はなく、ちょっぴり嬉しそうだった。


二度目の口づけは少し長く、私はやっと実感する。

人の唇って……こんなに柔らかいのね。

あぁ……私は改めて思う。デービス様の言っていた様に本を読むだけではなく、経験しないと分からない事はこの世に溢れているのだと。


それともう一つ。口づけには眼鏡って邪魔だったな……と。

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