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【書籍化決定】本の虫令嬢は幼馴染に夢中な婚約者に愛想を尽かす  作者: 初瀬 叶


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第40話


フェリックス様は宰相に連れて行かれてしまった。

私の方を心配そうに振り返るので『大丈夫ですよ』と示す様に小さく手を振ると、フェリックス様は少し照れたように振り返してくれた。

安心してくれたのだろうと思う。


「貴女……またそんな目立つドレスを着て……。伯爵令嬢のくせに。これだから社交性のない人って……」

フェリックス様が居なくなった途端、ステファニー様は私に苦言を呈してきた。


「えっと……。フェリックス様からの贈り物なのですが?」

私の答えにステファニー様は微妙にバツの悪そうな顔をした。きっとフェリックス様が私にドレスの贈り物をするなど思っていなかったのだろう。だって……ステファニー様に『贈るのは花束一択!』と刷り込まれていたのだから。


「そ……そう。……フェリックスは侯爵家の者だからわからないのね。身分に合った装いというのが女にはあるのよ」


うーん……何だか負け惜しみの様に聞こえる。このドレスは別に目立つ色でも目立つ形でもない。しかし、流行りばかりを追うわけでもなく、誰かと被る事もない、唯一無二のドレスだ。


「そうですか。それは知りませんでした。フェリックス様にも伝えておきますね」

私がニッコリと笑って答えると、ステファニー様は慌てた様に言った。


「フェ、フェリックスに言う必要はないわ。これから貴女が気をつければ良いことよ!」


「あ……そうだ。それならばステファニー様に教えていただきたい事がございます」


慌てるステファニー様など気にもせず、私は続けた。


「な、何よ。訊きたい事って」


「では……侯爵家の女性はどのようなドレスを選べば良いのでしょうか?私、じきに侯爵家の人間になるので。今更伯爵家に相応しい装いを教えていただくよりそちらの方が今後に活かされそうです」


私は笑顔満面でステファニー様に尋ねた。

するとステファニー様の顔がみるみる険しくなる。

デービス様の煽りスキルが私にも備わったのかしら?


「あ、貴女……!前にも言ったでしょう?フェリックスは私の専属……」


「あぁ!そうでした!この前ステファニー様とお約束していましたね。フェリックス様が帰って来たら、私とステファニー様のどちらを選ぶのか……尋ねてみるんでしたよね?あ!フェリックス様が戻って来る様ですわ!ではさっそく訊いてみましょう!」


私がそう言うと、ステファニー様はますます顔を赤くして、


「ちょ、ちょっと!こんな場所で?貴女……まさか自信があるの?」

と慌てている。


私は答える代わりにもう一度ステファニー様に微笑んで見せた。


「フェリックス様、ちょっとお訊きしたい事が……」


私の元へと早足で戻って来るフェリックス様の顔は険しい。なんだかステファニー様を威嚇している様にも見える。私は先程の答えをフェリックス様に尋ねようと口を開いたが、その言葉は途中でステファニー様の妨害にあった。しかも物理的に。


「おい!マーガレットから手を離せ!」


ステファニー様のグローブをはめた手が私の口を後ろから塞いでいた。……口紅が付くのではないかしら?と私は他人事ながら心配になる。


モゴモゴしている私の耳元で、ステファニー様は


「フェリックスには私から後日尋ねるから、貴女は黙ってて!」

と耳打ちした。要は今訊くな゙!という事らしい。


直ぐ様ステファニー様は私の口から手を離すと、フェリックス様に向かって言った。


「ねぇ、私と踊らない?」


「嫌だね。もうお前とは二度と踊らない」


……質問しなくても、フェリックス様の答えは出ている様に思うのだが……。


フェリックス様は直ぐ様私の隣に立つと、グイッと自分の方へと私を引き寄せた。


宰相もフェリックス様の後からゆっくりとこちらに近付く。その顔は納得いかない……といった表情だ。フェリックス様と何を話していたのだろうか?まさか……専属騎士について……とか?


宰相はステファニー様に、


「ステファニー、さぁ、行こう。そろそろダンスタイムだ。お前がここでは主役なんだから、まず先に踊らねばな」

宰相がステファニー様に腕を差し出すが、ステファニー様はそれを無視して、


「お父様、私はフェリックスと踊るわ」

と言ってフェリックス様へと手を差し出した。


私もフェリックス様もその行動にびっくりだ。さっき『二度と踊らない』と言われたばかりではないか。それとも宰相である父親が側に居ればフェリックス様も断れないと踏んだのだろうか?


しかしフェリックス様が口を開く前に、


「ステファニー……いい加減にするんだ。フェリックスはこのご令嬢をエスコートして入場した。それを無視してお前と踊る事は出来ん。それぐらい理解しなさい」

と宰相は静かに、しかしピシャリとステファニー様へ言う。そして改めて自分の腕を差し出した。ステファニー様は渋々とはっきりわかる態度で宰相の腕を取る。二人は私達に背を向けて、ホールの中央へと戻って行った。


「マーガレット、大丈夫だったか?」


「はい。全く問題ありませんでしたよ」


私は先程までのステファニー様の会話を思い出しながら、ニッコリと答えた。


「そうか……なら良いんだが」


急に優しくなったフェリックス様が少し気持ち悪……いや、有り難く思っておこう。


そうこうしている内に、音楽が鳴り、ダンスが始まった。ホールの真ん中で踊っているのは、ステファニー様達と、アイーダ様達だ。アイーダ様はジェフリー様とのダンスが余程嬉しいのか、満面の笑みで踊っている。


「アイーダ様、とってもお幸せそうです」

私の言葉に、フェリックス様はその大きな背を屈める様にして耳元で囁いた。


「間違いなく次期宰相はジェフリー殿だ。彼は切れ者でね。アンダーソン公爵令息、ステファニーの弟のデニスよりずっと出来が良い」


「まぁ!そうなんですか?確かにジェフリー様は年齢よりずっと落ち着いていらっしゃるし、博識でいらっしゃいます。成績もトップだとアイーダ様にお聞きした事があります」


ジェフリー様を褒める私に、フェリックス様は面白くなさそうに、


「他の男を褒めるな。気に食わん」

と口を尖らせた。

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