人格(6)
これまでの私の話を咀嚼している最中なのか、史乃は、私が渡したカードキーの使用履歴が書かれた紙をじっと見つめながら、黙り込んでしまった。
その紙は、私が洞爺に渡したものとは違い、事件の日における第八病棟でのカードキー使用履歴が全て書かれている。
なぜ私が洞爺に抜粋した使用履歴を渡したのか――それは洞爺を罠に嵌めるためにほかならない。
拘置所での羽中の態度から、二重間接正犯説を閃き、そこでは洞爺が道具として使われているはずだと考えた私だったが、そのことの裏付けまではなかった。
そのため、二重間接正犯説が正しいかどうかを洞爺を使って確かめる必要があった。
そのためのリトマス試験紙として用いたのが、洞爺に渡した抜粋資料なのである。
あの資料を洞爺に渡した際、洞爺は、私に対して、「福丸様が持っているデータは、この紙に書かれているもので全部ですか?」と尋ねてきたのである。
その質問に対し、私は、「はい。これで全部です」と嘘を吐いた。
そして、素直な洞爺は、私の嘘を信じたのである。
「黒幕が何らかのトリックを使った可能性も否めません」と私が伝えた時、洞爺は、明らかに肩に力を入れた。
自らが実行したトリック――事件発生後にミナコの首を取ることによって、警察を完全なる妄想説へと誤導するトリック――が見破られてしまうことを警戒したのだ。
そして、その強い警戒心ゆえに、洞爺は、私に対して、あからさまな嘘を吐いた。
洞爺は、第八病棟で事件を目撃した後、「まっすぐ第一病棟へと戻り、救急車の到着を待ちました」との虚偽を述べたのである。
これは、今、史乃が見つめている、第八病棟のカード使用履歴と矛盾する。
洞爺のカードキーによる、十六時十五分の入館履歴、十六時二十分の退館履歴が残ってしまっているのである。
洞爺は、十四時四十二分より後の使用履歴の情報を持っていないという私の説明を信じ、私にバレることないだろうと思い、事件後、第八病棟には行っていないと嘘を吐いたのだ。
そうすることで、事件後に自らがミナコの首を取ったという真相を隠し、警察も放棄した間接正犯説に拘泥する私を諦めさせ、事件を真に終結させようとしたのである。
また、これは私が計算して引き出したものではないが、洞爺は、自らが予備のカードキーを落としたのだとも話してくれた。
当然ながら、これもフィクションである。
これは、洞爺による、事件の積極的な隠蔽工作に異ならない。
このような露骨な隠蔽工作を図ることは、洞爺が事件に関与していることの何よりの証左でたる。
洞爺と話すことで、私は、洞爺を二人目の道具とする二重間接正犯が成立することを確信したのだった。




