表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/40

第32話 不死族と

「ふ……“不死族”とな?」


 一夜明かし、木々がなぎ倒された不審な道を進んだ末に。

 俺達カミラ班は、ついにその原因に追いついた。


 幅四メートル、高さ三メートルの黒ずんだ紫色で、無数のブツブツがある巨大スライム。


 それを見て驚き、鳥肌を立ててドン引いていたら――カミラさんから不死族なるワードが。


「……そうだ。ありゃアンデッドなんて可愛いもんじゃねえ。煮ても焼いても決して死なない、マジもんの不死族だぜ」

「僕も聞いたことがあります。元から魔素が濃い場所に、ごく稀に現れる“災厄”ですね」


 発見してすぐ、道の脇の草むらに身を隠しながら。

 顔半分だけをひょいと出して対象を観察する俺達。


 三十メートル先にいる悪臭を放つそいつは、人間が歩く速度でバキバキィ! と。

 木々をカオスすぎる巨体で飲み込み、蟻でも潰すかのように進んでいた。


「アレが不死族……。改めて確認ですけど、リアルガチで異変の元凶はアレなんですよね?」

「ああ、間違いねえぜ。これだけの大森林でも、不死族が一体いりゃそれだけで魔素から何から変わっちまうぞ」

「死んでいたワイバーン……上位寄りの中位の魔物でも、不死族が相手なら納得だね」


 カミラさんもイサクも、不死族から視線を外さないまま断言する。


 ……なるほど。真相はそんな感じだったのか。

 不死族のせいで濃くなった魔素にワイバーンが誘われ、結果的に返り討ちにあったと。


 色々な知識があるサバイバルな班長と副班長が揃って言うのなら……もう確定だな。


 ――とはいえだ。RPG好きとしても、あまりに存在が“謎”すぎるので、

 俺はヒソヒソと、さらに詳しく二人に話を聞いてみると、


 どうやら不死族というのは、本当にカオスでヤバイ存在らしい。


 世界中どこでも、魔素が濃い場所なら突発的に現れる可能性が。

 長い時間をかけてその場所の空気が淀み、“腐った魔素の成れの果て”とされる。


 ただ発見例は少なく、せいぜい“四、五十年に一度”程度。

 その姿形は様々らしいが、能力については共通する点が一つ。


 それが“不死”。


 いかなる魔道士の大魔法でも殺せず、それは我ら『魔体流』も同じ。

 拳聖や高弟クラスが『奥義』を叩き込もうと、撃退はできても討伐はできない。


「けど、一つだけ救いはある、と」


 何をされても絶対に死なない災厄だが――百年も経てば“自然消滅”するらしい。


 だからもし人里離れたところに出現すれば“放置”。

 人里近くに出てしまった場合は、その国の軍が総力を挙げて追いやるのが基本だ。


「……つうことは、今回の場合は……」

「放置だな。……さあ帰ろうぞい」

「だな兄じゃ。触らぬ神に祟りなし、だぞい」


 両隣りの大福兄弟は、鼻をつまんでこれ以上ない渋い顔だ。


 一番、朝食をガッツリ食べたからか? よほど臭いが堪えるようで涙目になっているぞ。


「通常の魔物じゃないなら仕方ねえぜ。消滅まで『始まりの森』の被害は甚大になるが……まあ、森の再生力は高いからな」

「不本意ですが、それしかないですね。スライム系といっても、不死身というのを含めると上位の魔物ですし、僕らにできることは……」


 もはや害しかない存在を前に、カミラさんとイサクで軽い話し合いが。


 どうやらここまできたものの、元凶を把握しただけでUターン。

 討伐はせず(というかできないので)、情報だけ持って帰るようだ。


 ……まあ、何せ不死身だからな。“生物的に最強”なら仕方あるまい。


 その存在はだいぶ衝撃だったが……ここは異世界、しかも秘境だ。

 今回はサバイバル生活を体験して、森の知識も入って、個人的にはいい経験になったと思う。


 ワイバーンと戦ってなぜか『闇属性』も獲得したし、普通に稽古するよりも大収穫だぞ。


「にしてもアイツ、リアルガチで見た目がな……。何だよあのプルキモ激クサなスライムは――――ん?」


 まさに汚物を見るような目で、俺が不死族を見ていたら。


 そこから約十メートルほど右。

 全てがなぎ倒された道ではなく、木や草が茂る森の中に――“別の影”が。


 そしてそれは、不死族をうかがうように、慎重に近づいていって……。


「「「「「!?」」」」」


 俺だけでなく、他の四人も見つけて一斉に息を飲む。

 ようやく顔が分かるくらいになった時、身を隠す俺達の前に現れたのは、


 若草色の羽織を着て、腰に締めた『黒帯』。

 身長は百四十センチ程度と低く、浅黒い肌で短髪の一人の男だ。


「「「「ピケ様!?」」」」

「ピケじゃん!?」


 ……まさかもまさか、厄介な不死族の次に姿を現したのは。


『魔体流』で黒帯筆頭を務める『小炎帝』――ピケ=ジュライムその人だった。



 ◇



「いや何してんの、あの人!?」


 ピケの姿を確認した直後。

 俺達は不死族に発見されないように注意しつつ、ピケに向かって激しく手招きをして、


 それに気づいたピケ……ではなくて。

 その後ろの付き人のスメイアさんがピケの腕を引き、ぐるっと回って俺達の方へとやってくる。


「うはっ! 誰かと思えばベルじゃねーか。あとカミラも!」

「……お久しぶりです。まさか皆さんもおられるとは……」


 再び出会って合流したピケは威勢よく、スメイアさんは疲れた様子だった。


 とりあえずピケの方は無視をして、だ。

 妖艶なカミラさんとはまた違う、“本来なら”女騎士みたいな凛としたスメイアさんの今の顔と声を見るに……。


「まさかずっと森の中に? あれから十日は経ってますよ!」

「さっすがベル、ご名答だ。ずっと調査してたんだが全ッ然、異変の元凶が掴めねーの何のって」


 という、俺とピケのやりとりを聞いて、またカミラ班から驚きの声が。


 スメイアさんこそ平静を務めているが……。

 付き人は稽古漬けの門弟ではないので、やはりこの場の誰よりも疲労の色が。


 ――で、だ。

 一旦、不死族から離れて、黒帯筆頭のピケの話を聞いてみると、


 俺達と遊んだ後、山を下りて広大な森を調査するも、探せど探せど見つからず。

 スメイアさんが一度、『本道場』に戻って仕切りなおそうと進言するも聞かず、ムキになって探し続けていたらしい。


「「「「「…………、」」」」」


 それを聞いて、のん気に笑うピケを除いて全員が思う。


 何やってんだコイツ、と。そもそも最初から一人でやる仕事じゃないだろ、と。


 何より、付き合わされたスメイアさんが可哀そうすぎて。

 ついブラックリーマン時代の俺の姿とダブって見えてしまったぞ。


 ……まあ、でもなあ。

 他の『黒帯』と比べれば、絶対にアレなヤツだから――あの炎の拳で大火事が起きていないだけマシなのか?


「とにかく、やっと俺っちの努力が報われたっつーわけだな。……けどまさか、不死族とは夢にも思わなかったけど」

「ピケ様。ウチらはこの情報を早急に道場に持ち帰ろうと思います。ピケ様の方は――」

「ん、カミラか。元気にしてっか? お前の姉ちゃんには世話になっ――」

「オッホン! それで、ピケ様はどうするおつもりで? やはりここは放置ですよね?」

「お、おー。だな。さすがに不死族はお手上げだし」


 カミラさんとピケの責任者(?)二人で、どうするか話し合いが行われる。


 それを隣で俺、イサク、大福兄弟、スメイアさんが聞いているのだが……。


「――あの、なら“封印”しちゃえばいいんじゃないですか?」


 と、ここで割って入る格好で発言したのは、何を隠そう俺である。


 話を聞いていて、不死族のことを考えていて、

 ふと思ったことがあったので、挙手しながら言ってみた。


「あーん? 封印つったって……どーやるんだよ?」

「だぜべル。魔物を、それも不死族を封印するなんて、熟練の魔道士が束になってもできねえぞ」


 対して、二人が怪訝な顔で返してきた。


 カミラさんはともかく、ピケは階級クラスが三つも上の存在だ。

 元ブラックリーマンとしては怖じ気づきそうだが……今回は引かない。


「あ、いや、とりあえず封印とは言いましたけど何というか……。森に放置して、消滅するまで環境破壊させるよりはいいかな、と」

「「「「「「……?」」」」」」


 今度はイサク達まで怪訝な顔に。

 それでも俺は引かずに、思ったことをしっかりと先輩に伝える。


「だから“落とす方がいい”かなと。ちょうどいいのがこの『始まりの森』にはありますし」

「……まさかベルさん、それは『大地の傷』のことですか?」

「そうです、スメイアさん。せっかくあんな断崖絶壁があるんですから、利用しない手はないかなあ、と」


 言って、皆の顔を見るも……ポカンとしたまま。


 ……むむっ、いかんな。ちょっと言い方が回りくどかったか?

 俺は慌ててせき払いをして、自分の出した結論を――拳を突き上げて言う。


「ずばり! 俺の【風圧拳】で“吹っ飛ばして叩き落とす大作戦”です!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ