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第21話 驚異の新人

第三者視点です。

「……痛ってー」


 ベル達を“可愛がって”やり、上機嫌なピケは『剣山つるぎやま』を下りた。


 最下層の森エリアに、若草色の羽織(現役黒帯の証明)を着た者がいれば騒ぎになる。

 だから他の門弟に見られないように、麓からは本道を大きくズレて進んでいた。


「どうしましたピケ様? どこか痛むのですか?」


 と、不意に漏らしたピケの言葉に対して。

 三歩下がって後ろを歩いていた、付き人のスメイアが即座に反応する。


 黒帯筆頭の地位にいても、好奇心旺盛で子供っぽいのがたまに傷。


 そんなピケが困ったことを口にするのは日常茶飯事。

 だが反面、小さな頃から厳しい稽古を積んでいるため、 “痛い”や“辛い”という言葉はほとんど吐かない。


 ――それが今、左肩を抑えてその言葉を言ったのだ。


「ほら、最後の一発。【空爆拳】だっけか? やたらうっさい爆音みたいな拳がさ」

「……失礼。ちょっと診させていただきます」


 一応、邪魔にならぬように、離れた場所から戦いの一部始終を見ていたスメイア。


 ピケが最後に一発をもらったのは驚きだった。

 苦し紛れのカエル跳びから、まさか被弾するとは夢にも思っていなかったのだ。


(けれど、それ以上に……)


 その一発によって、黒帯のトップに立つピケが“痛みを覚えている”方が衝撃である。


 相手は数えるほどしかいない格上の高弟(『銀帯』、『銅帯』)ではない。

 本来ならかすり傷一つつけられない、三階級(クラス)も下の『灰帯』なのだ。


「……かなりの痣がありますね。まさかあの子がピケ様に……」

「うはっ、マジか! ……やるねーアイツ。俺っちも“本気で固めた”っつーのに……」


 スメイアの言葉と自身の痣を確認して、ピケはなぜか嬉しそうに笑う。


【回復魔法】の使い手でもあるスメイアから、『癒しの光』で傷を癒してもらいながら、

 短時間ながらも拳を交えた一戦を、鮮烈に覚えているあの戦いを思い出す。


(体術はまっだまだ。三つの『オリジナル技』を除けば、特に見るべき点はねー……はずなんだけどな?)


 左肩から痛みが消えたピケの脳裏に、ふと疑問が沸いてくる。


 最後にもらった渾身の一撃。

 その寸前、なぜか全身に走った“戦慄”によって。


 とっさに【鋼己(スチール)】まで使って固めた左肩に痣をもらったわけだが……。


(気のせーか? 打たれて追い込まれるほどに、アイツの技のキレと威力が……。魔力操作も研ぎ澄まされてたよーな?)


 ずっと先を読んでいた動きも一瞬、読めなくなった。


 フードを目深に被っていたためベルは知らない。

 ピケは最初から最後まで、目を閉じて【心眼】を発動していたのだ。


 ――だからこそ、これまでベルの技を見て受けてきた、『魔体流』の誰よりも深く理解している。


 自身の技を打ちこんだ瞬間、固めた魔力が粉々に発散される“異常な防御”を。

【風圧拳】を打ちこまれた瞬間、持てる魔力のすべてを足に回さなければ飛ばされただろう“尋常な反発力”を。


 そして、最後の【空爆拳】。


 普通とは明らかに違うその技は、文字通り魔力を“爆発させた”一撃だった。


「…………、」


 黒帯筆頭の実力は伊達ではなく、あの一戦でベルの魔力の動きや使い方は分かった。


 だが、分かったところで、だ。

 現拳聖の血を引き、稀代の天才と呼ばれるピケをもってしても――実際に真似できるかは別の話である。


『魔体流』の【秘境七十二手】。

 長い時間をかけて、代々の拳聖はじめ、数多くの実力者達が発展させてきた歴史ある体術は、


 また一つ、入門して数カ月の『灰帯』の門弟の手によって発展したのだった。


「シャレになんねーな。じっちゃんの言ってた通りだ。……天才は天才を見抜く、ってか」

「え、何ですかピケ様?」

「いーや何でもねえって。……傷の回復、助かったぞスーちゃん」


 ピケはまたニヤリと笑い、褐色の肌と対処的な白い歯を見せる。

 黒帯筆頭の地位には似合わずとも半小人族な見た目には合う、ルンルン気分なスキップで森の中を歩いていく。


 予想以上だったお楽しみの後は――面倒でつまらない仕事の番である。

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