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第15話 リザードマン(亜種)

 ――キシャァアアッ!


「おーおー、怖いな! やっぱり猛獣どころの騒ぎじゃないぞコイツは!」


『剣山』の七合目付近。標高およそ千八百メートル。

 道着姿で登山をした俺達の前に現れたのは、固い鱗と鋭利な牙や爪を持つリザードマンだった。


 そのリザードマン(いや“三色マーブル”リザードマン?)だが……さすがは魔物だけある。


 接近した俺達の姿を発見するや否や、ザザッ! と。

 足の爪で地面を掴んで、脇目も振らずに猪みたいに襲いかかってきたのだ。


「! 上等だッ!」


 しかも狙われたのは俺。

 雰囲気や体格を見たのか? もしくは締めたばかりの『灰帯』が似合っていなかったのか。


 イサクや大福兄弟の方ではなく、獰猛な捕食者の目も鱗な体も、真っすぐ俺だけに向いていた。


「よっしゃ、どんなもんか試してやる!」


 もしスマホがあったら撮りたい衝動(邪念)を抑えながら。

 半身に構えて『灰帯』をキツく締めた腰を落とし、俺は凶暴な魔物を迎え撃つ。


 帯の色と魔物のランクからすれば問題なし。

 オーガやトロールはさすがに無理ゲーらしいが、亜種でもリザードマンなら余裕さえあるらしい。


 悪女なカミラさんならまだしも、真面目系モフモフなイサクがそう言うのだから大丈夫だろう。


「ッと……!」


 人間のように踏み込み、袈裟気味に振るわれた鋭い右爪を回避。

 わざわざ【軟弱防御】では受けてやらずに、日々の稽古で磨いたフットワークで真後ろに避ける。


「出直してこい、トカゲ野郎!」


 そして、間髪入れずに食らわせるカウンターは【風圧拳】だ。


 いきなり新技の【空爆拳】をミスるのは嫌だからな。

 出し慣れた技を選択し、鱗が存在しないリザードマンの腹を掌底で一突き。


『魔体流』の門弟達と同じく、何の抵抗もさせずに吹き飛ばして――前方にあった大木へと直撃させる。


 キシャ、ァアッ……!


 直後、リザードマンの口から悲鳴のような声が。

 まともに背中から衝突したことでダメージを受けて、すぐに立ち上がってくるも足元が一瞬、よろめいた。


 ……よしよし、効いているな。


 腹以外は硬い鱗に覆われていても、だ。

岩己ロック】や【鉄己アイアン】で硬化した門弟と比べたら、柔らかいのは間違いない。


 あと、二メートルの体長のわりには、ずいぶんと軽い気がするぞ。

 パワーやスピードはありそうでも、重さはそうでもないらしい。


 魔物でカオスな見た目の“亜種”ということで身構えていたが……。

 こりゃリアルガチで『魔体流』のヤツらの方が強そうだ。


「何度も吹き飛ばして木にブチ当ててれば勝てそうだな。……けど、それじゃ面白くない。初めての魔物戦くらいサクッと勝ちたいぞ!」


 それに、あまり傷つけてもな。

 一応、コイツはこの後に大事な“食材”となるのだから。


 ――ある意味、師範よりも“頭が上がらない”食堂の料理番おばちゃん達。


 あの人達がいる食堂に持ち帰って渡して、腹を空かせた多くの『灰帯』の血肉となる予定だ。


「ベル君! 思い切って【空爆拳】を!」

「やっちまえ! この程度の魔物に苦戦はするなよい!」

「ちゃんと俺らは耳を塞いどくから遠慮はいらないぞい!」


 と、少し離れた後方から、手出しをせずに見守るイサク達が言う。


 ……なるほど、皆も新技をご所望か。

 チラッと見てみれば、三人揃って“爆音対策”でもう両耳を塞いでいた。


「――了解。ならやらせてもらうか。一発成功で頼むぞ、俺の拳!」


 頭のてっぺんからつま先まで、全身の魔力の流れを感じながら。


 地面を激しく蹴って接近してきたリザードマンに、俺も真正面から接近していく。


 右拳に魔力を溜めたことで感じる、ほのかな温かさ。

 流れて循環するはずの魔力は、人差し指の付け根を中心に渦巻くように脈動する。


 そして、その状態を維持したまま。

 リーチに勝る、魔力が込められたリザードマンの右爪を――上げた左腕のガードで受け止める。


 瞬間、“発散”される爪撃の威力。

【軟弱防御】によって、俺の腕から血の赤は一滴も出てこない。


「やっぱり軽いな。引っかかれただけで少し痛いだけだ!」


 距離の詰め方も強引で、脇も開いた無駄な大振り。

 日頃から実戦稽古で拳を交える、洗練された門弟達よりも遥かに隙だらけ。


 そこへ打ち出す右手の形は握り拳。そして横ではなく“縦拳”だ。


 一日だけだが研究の結果、より【空爆拳】が発動しやすい、親指を中へと握り込む形も取っている。


 魔物相手に肉体一つ、剣や魔法がなくても通用するのか?

 そんな疑問は吹き飛ばしと防御が成功した時点で、キレイさっぱり消え去っている。


「【空爆拳】!」


 刹那、ドパァアアン! と。


 リザードマンの腹に拳が触れた瞬間、本来なら対象を吹き飛ばすはずのエネルギーが一点で爆発。

 空気と鼓膜を激しく震わす破裂音が、傾斜のキツイ山の斜面に響き渡った。


「…………、」


 新技の結果は……音を聞いても手応えからも成功だ。


 リザードマンの悲鳴は破裂音で完全にかき消され、静寂の中で前のめりに倒れてくる。

 腕も尻尾もダランとなり、力なく地面にバタリと倒れ込んだ。


 元ブラックリーマンな俺の魔物デビュー戦、あっさりと決着。

 大して魔力も消費せず、リアルガチで準備運動みたいだったな。


 ルディとか他の門弟達が口酸っぱく言っていた、“稽古はウソをつかない”とはこのことか。

 魔力の流れもスムーズに、失敗の感覚が一つもない戦いだった。


「俺の、いや人間の……いやいや『魔体流』の勝ちだな。んじゃその命、ありがたく地産地消させてもらうぞ」


 普通の異世界転生なら、まず冒険者ギルド行きだろうけどな。


 お約束通り、ここではパワフルな料理番おばちゃん達が待つ食堂へ。


 淡白で鳥肉に似た食感と味らしいから――楽しみにしておこう!

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