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第14話 魔物狩り

「おはよう! 僕はイサク=ストレットン! 『灰帯』歴は半年! 昨日のベル君の『道場破り』成功には感動したよ!」

「は、はあ……」


 突然、スケート的な滑りダッシュで現れて。

 明るく元気な声で言い、モフモフな手で握手まで求めてきたイサクという門弟。


 ……ちなみに、この狐人族君とは初対面ではない。


 昨日、夜遅くまで続いた師範も混ざっての宴会。

 そこで肉を貪りつつも、しっかりモフモフ達は全員チェック済みだからな。


「今日は予定があるの? もしなかったら一緒に上にいこうよ!」

「うん? 上って何だよ。まさかまた次の高原エリアに連れてって……『道場破り』させる気か?」

「いや違うよ。皆が皆、カミラさんじゃないから! 上って言うのはここ『剣山つるぎやま』のことさ!」


 豆柴っぽい狐な顔に、人懐っこそうな笑みを浮かべながら。

 穴が空いた道着から出ている、赤茶色の尻尾を振るイサク。


 昨日の今日なので若干、警戒する俺に――イサクは説明してくれる。


 いわく、“魔物狩り”。

 山エリアにも当然、魔物はいるが、中腹から上、山頂に近い場所ほど遭遇率が高いらしい。


 そして、『灰帯』では生活圏を出て魔物の領域に入るのは日常茶飯事。

 山頂付近をはじめ、東の斜面や西の絶壁、巨大洞穴などなど。


 山の各地に散らばって、魔物狩りという名の実戦稽古を頻繁に行うようだ。


「……ふむふむ、なるほど。面白そうじゃないか」

「でしょ! 対門弟とはまた違う難しさがあるから、強くなるのに魔物を狩ることは大切なんだよ!」

「よし、分かった。……なら俺もご一緒させてもらおうかな」


 そうして、イサクと握手を交わした後。

 ここでイサクの仲間二人が、ムチムチな体を揺らして遅れて合流。


 この二人に関しては、何と『にわとり荘』で同部屋となった兄弟だ。

 どっちも獣人ではなく人間で、ルディほどではないが身長二メートルの大男である。


 あとやはり、顔は彫りの深い欧米人顔だ。

 階級クラスが変わってもこの点は同じで、道着姿と合わせると“和洋折衷”って感じだな。


 そんな欧米人風で、顔も体もぽっちゃり目な“大福兄弟”とも改めて挨拶をして、俺はいざ山の上へ。


 ……え? ずいぶんと簡単についていくなって?

 たしかに魔物は怖い。けどその反面、ファンタジー好きとしては興味があるからな。


 ゴブリンかコボルトか、あるいはオークとかか。

 奇跡の連休とはいえ、稽古ならまだしも、魔物狩りなら重い腰も動くってもんだ。


「(フッ、それに何よりも――)」


 せっかくの狐人族モフモフからのお誘い……この俺が断るはずがないだろう。


 ここでご一緒して仲良くなっておけばどうなる?

 種族を超えた、俺とルディみたいなモフれる関係になるはずだ!


「さあイサク、兄弟もいくぞ! 張りきって一狩りいこうぜッ!」

「スゴイやる気満々だねベル君! ようし、『灰帯』の先輩として僕も負けないよ!」


『魔体流』の門弟として、腹を満たしたら運動あるのみ。


 微妙に邪な考えが動機にありつつも、俺は新たな仲間とともに、異世界で初となる魔物を目指す。



 ◇



「(り、リアルガチでいたぞ……。あれが魔物か!)」


 山の中腹にある生活圏を出た。

 行動を共にする狐人族のイサクや大福兄弟に続き、山を登っていった俺が見たのは――たしかに魔物だった。


 ただ、予想とは少し違うけども。

 ゴブリンとかコボルト、あるいはもっと強いオークか。


 どれにせよ定番の魔物を予想しながら、標高およそ千八百メートル地点まで登り、

 獣人ゆえか、一番目が良いイサクが指し示した木々の間を見てみたら。


 いたのは二足歩行のトカゲの魔物、リザードマンだ。


 ……ただ、これまた予想したリザートマンとは少し違うけども。

 体長は二メートル近く、腹以外の全身が硬そうな鱗に覆われているが……。


 どういうわけか、赤・緑・黒。


 硬そうな鱗の色は“三色”からなり、不自然な“マーブル模様”になっているぞ。


「(ここは秘境だからね。生息する全ての魔物が『亜種』で、通常個体は一体もいないんだ)」

「(ほ、ほほう……。なるほど亜種ねえ)」

「(うん。そしてここ一帯は彼らリザードマンのナワバリだよ。さらに格上のオークとかだと、山頂付近か山の裏側までいかないと――ってベル君? 何で僕の尻尾を触ってるのさ? くすぐったいよ!)」


 と、リザードマンに気づかれないように、イサクから小声のまま注意される俺。


 ……おっといけない。つい無意識にモフってしまったか。


 まるで“大きな筆”。

 ルディとは違うイサクの柔らかな毛の尻尾を放して、俺は今度こそ真面目にリザードマンを見る。


 目を引くカラフルな鱗以外にも驚くべき部分はある。

 上顎から伸びる牙や手足の爪は、猛獣のごとく鋭そうだ。


 何より、醸し出す“雰囲気”。


 これについては元の世界の猛獣と比べても段違いだ。

 魔物も持つ魔力に加えて、血の気配というか何と言うか……危険な空気やニオイでムンムンだぞ。


「……なあ、思ったんだけどアレって俺達で倒せるのか?」

「もちろん。『剣山つるぎやま』の魔物は亜種だから通常個体よりも強いけど、リザードマンは『白帯』の上位陣でも倒せる相手だよ」

「そういうこと。お前さんの【軟弱防御】なら無傷で戦えるレベルだい」

「んで当然、あのネロに食らわせた技があれば倒せるぞい」

「おお、そうなのか。それを聞いて安心したぞ」


 という、イサクと大福兄弟(三人ともベルと同世代)の言葉を受けて。


 実はかなり心配していた俺は、ため息とともにホッと胸をなで下ろす。


 せっかく『道場破り』という無理ゲーを攻略したんだからな。

 その翌日に魔物に食われて死ぬ、あるいは大ケガなんてリアルガチで笑えないぞ。


『灰帯』の門弟の中には、四肢が欠損している者もいたのだ。

 怖くて聞かなかったが、稽古中の事故以外なら、確実に魔物が原因だろう。


 ――あ、そうそう。忘れないうちに一つだけ。


 今、大福兄弟の弟? が触れた“ネロに食らわせた技”。

『道場破り』で決定打となったこの技についてだが……実はもう名前がついている。


空爆拳(くうばくけん)】。


 昨日開かれた宴会の後半で、師範も含めてあーだこーだと起こった“大激論”の末に。


 音速パンチの【雷鳥】をも凌ぐカオスな破裂音。

 これがまるで“爆発染みた音量”だからと、この名前に決まっていた。


 ……ただし、その案が悪女先輩カミラさん発だったというのが……微妙に納得いかないが。


「あの後も試して、まだ百発百中とはいかないけど……。【風圧拳】に【軟弱防御】に【空爆拳】に、三つも技があれば十分だよな?」


 今日から同じ『灰帯』連中は、最低でも“五つ”は技を習得している。


 基本の【手刀(ギロチン)】と【岩己(ロック)】に加えて、個人個人で異なる技を三つは使えるのだ。


 ここまでの道中で気になったので聞いてみたところ、

 イサクは得意の足技を中心に“七つ”、大福兄弟は揃って“六つ”だった。


 かたや俺は、全て『オリジナル技』とはいえ三つだけ。


 ちょっとその点については心配はあるが……とにかく、まずは異世界で初となる魔物狩りといってみよう!

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