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第13話 灰帯昇格

「一時はどうなるかと思ったが……やるじゃねえかベル!」

「いやどの口が言うんですか!? 俺はまだ許してないですからね、カミラさん!」


『道場破り』から一夜明けた。

 夜遅くまで開かれた宴会(酒なし肉祭り)の疲れが残りつつも、いつも通りに六時半に起きた俺は、


『灰帯』の門弟達が住む寮――『にわとり荘』の一階にある談話室にて。

 カミラさんほか、『灰帯』の先輩数名と一緒にいた。


 ここが今日からの新しい場所だ。


 決め手がない状態での『道場破り』という無理ゲー。

 そこを何とか工夫して、“新技”を編み出して勝利を掴んだ結果。


 森エリアを抜けて、一つ上の山エリアへ。

『魔体流』の門弟として、正式に『灰帯』へと昇格していた。


 ――ちなみに、今日の『灰帯』はまさかの休日だ。


 昨日まで『白帯』だった俺は昨日も休日だったので、これで奇跡の二連休である。


「学生時代以来か。まさか生きてるうちにまた連休を味わえるとは……」

「ん? 何をブツブツ言ってんだよベル?」

「うるさいですよ、カミラさん! 俺は今、感動に浸ってるんですから!」

「お、おう。すまん」

「あはは……。こりゃ嫌われちまったなカミラ」


 俺の怒りにカミラさんが謝り、他の先輩門弟がそれを見て苦笑する。


 一見、空気は悪いように見えるだろうが……。

“どっちからしても”、そうでもないんだな、これが。


 実は俺も驚きなのだが、『道場破り』をした俺と、された側の『灰帯』の門弟達。


 あれだけ全員から鋭い眼で睨まれたのだ。

 昇格してもカオスな空気のままで、イジメられるのでは? と猛烈に心配していたところ、


 その心配は拍子抜けするくらい、杞憂となって終わっていた。


 一言で言うなら“手のひら返し”。

 昨夜、開かれた宴会を見ても、逆にこっちが戸惑うほどに好意的だったのだ。


「まさか笑顔で迎えられるとは……。リアルガチでボコボコにされると思ってましたよ」

「んなバカな真似はしねえよ。たしかに『道場破り』は褒められた行為じゃねえが……成功しちまえば一転、ちょっとした英雄だぜ」

「……はあ、そうなんですか。でも何度も言いますが、俺はまだハメられたことは許してませんよ! あれこそバカな真似です!」


 ズビシ! と指差し、後輩の俺から美人先輩への厳重注意を。


 カミラさん本人はリアルガチで良かれと思ってやったらしい。

 だが、覚悟もないのにやらされた俺はたまったものじゃないぞ。


 ……まあ、『道場破り』を把握していなかった自己責任も少しはあるけども?


 とにかく、追放される危機は去ったから一安心だ。

 こっちでも有言不実行(失敗)は最も叩かれ、有言実行(成功)は称賛されるらしい。


「(これで一つ生活環境は良くなるな。ボブとディランのイケメン兄弟、何よりルディをモフれなくなるのは寂しいけど……。まあ、そのうち上がってくるか)」


 正直、嬉しさ半分寂しさ半分。

 トントン拍子に上の階級クラスに行きすぎて、打ち解けた仲間とは離れ離れになってしまったぞ。


 ……ぐるるぅうー。


 と、ここで俺の腹の虫が騒ぎ出す。


 昨日あれだけ肉を食ったのに……筋肉質なこの体は消化が早いらしい。

 腰に巻いた『灰帯』の下、シックスパックな腹筋のさらに下から胃袋が主張してきた。


「お、腹が減ってるか。んじゃベル、朝飯を食いに行こうぜ!」

「ですね。これに関してはリアルガチで楽しみですよ」


 腹が減っては稽古もできぬ、休日も楽しめぬ。


 俺が『灰帯』としてまず一番にやるべきは、体を作る食事をしっかり取ることだった。



 ◇



「ふぅー、食った食った。やっぱりメシが勝手に出てくるのはありがたいなー」


 腹ごしらえを終えた。


 森エリアと同じく、天幕が張られた広い食堂にて。

 温かい朝食を取った俺は、膨らんだ腹をモフ……じゃなくて満足気に撫でる。


 ……うむ、さすがは『灰帯』か。

 全九階級(『金帯』、『銀帯』、『銅帯』、『黒帯』、『焦茶帯』、『茶帯』、『灰帯』、『白帯』、『帯なし』)のうち、下から三番目とはいえ、だ。


 最底辺の森エリアと比べたら、料理の質は上がって品目も増加。

 ちゃんこ鍋みたいな定番の大鍋スープも、より具だくさんで食べ応えがあったぞ。


「どうだ美味かったろ? ウチ的には固い黒パンから白パンに変わるのがデカイと思うんだよな」

「たしかにそうですね。今日からこれにありつける点については感謝しますよ」

「おっ、だろ! 何せ主食は肉と同じくらい大切だからな! アッハッハ!」


 湯呑みの茶をすする俺の言葉に、ニカッと笑って親指を立てるカミラさん。


 ……まったく、本当に調子のいい先輩だぞ。

 性格や言葉づかいとは違って、体型はモデルみたいに細くて女らしい感じだし……。


 いやけどまあ、一応この人も例外なく“強い”からな。見た目で判断はよくないか。


 ――改めて、『灰帯』とは。

 下から三番目の階級クラスに当たり、全“八百四十名”の門弟が在籍している。


 ただし、『道場破り』ですでに拳を交えた通り、弱いヤツなど一人もいない。


 何せこの時点で、『魔体流』“三千百二十一名”の中で、上位“三分の二”に入っているからな。


 最も人数が多い、千人以上が在籍する『白帯』。

 ここを超えたことで、俺も『魔体流』ではそこそこの位置にいるのだ。


 とはいえ、そこはやはり九階級の中で下から三番目。

 まだ道着は師範達が着ている上質なものとは違い、薄い麻製のまま。


“一人前”は『茶帯』から。


 もう一つ上の階級クラスになって初めて、肌触りのいい綿の道着が支給されるらしい。


「んで、“一流”の『黒帯』までいけば上等な羽織までついてくる、と。……まだまだ手に入れたいものは多いなあ」

「何だベル。もう『黒帯』のことを考えてんのかよ。『道場破り』を成功させたからってさすがに気が早すぎだぜ?」


 ついブツブツと独り言を言っていたら、隣のカミラさんが笑う。


 ずずい、と顔を近づけて、肩まである金髪からいい匂いをさせて……お、おのれッ!


 そんな先輩の声(と色仕掛け?)は断固スル―。

 もっと重要である、今日から過ごすここ『灰帯』の山エリアについて、一緒に朝食を食べた他の先輩門弟達に教えてもらった。


 そうして、腹もいい感じに休まったところで。

 俺はまだお喋り中だったカミラさん達と別れて、使った食器を返却して食堂を出る。


「お、ここでもか。休日なのによくやるな……」


 天幕が張られた食堂を出てすぐ。

 俺の目に入ってきたのは、ある意味、いつもの光景である。


 朝食を取ってエネルギーを補給して、早速、放出ワッショイしている門弟達の姿だ。


 木々が一本残らず伐採されて、道場や食堂、寮や大浴場がある平坦な山の中腹。

 そのいたるところで、『灰帯』を締めた門弟達が拳を突き合わせて自主稽古を行っていた。


「……おぉおー」


 放たれる突きや蹴りの一つ一つのクオリティーは――やはり高い。


 また彼らの顔、稽古に対する集中力もそうだ。

 何だか『白帯』や『帯なし』よりも、さらに一段階違う気がするぞ。


「ぬぅ、だからお前も頑張れと? たしかに気力も体力も魔力もあるけど、休日出勤はもうしたくな――」

「――あ、いたいた! ねえベル君! 僕達と一緒に上にいかない!?」


 と、その時。 俺が一人勝手に脳内悶絶していたら。


 遠くからこっちに向かってきながら、やたら元気な声をかけてきた者が。


 誰だ? そう思ってよく目を凝らして見てみたら。

 明らかに普通の人間ではない肌の色と、“あるはずのないもの”がお尻に一つ。


「アイツは……狐人族(きつねびとぞく)ッ!」


『魔体流』ならどの階級クラスにもいる獣人。


 そのうちの一人、赤茶色の毛が特徴的な半人半狐の門弟が。

 滑るような摩訶不思議な足取り(何かの技か?)で――俺のもとへとやってきた。

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