担任とお姉さん
そして、一時間後、僕は予備校の受付の前に立っていた。
そして、
「お、来たか」
僕の姿を見つけるとすぐに急いでこちらに来る、山上先生。
「どうせ、もう勉強いやになっただろ」
「……そう、なのかもしれないです」
山上先生は呆れたようには笑わずに、すこしだけ、優しそうに口元をうごかした。
受験番号は予備校には事前に伝えてあるので、受験結果は知っている。
そして、僕と僕の家族以外で、唯一、まだこれで終わりじゃないことを知っている人でもある。
☆ 〇 ☆
共通テストの後に行った面談で、山上先生は言った。
「あ、あとな。もう一つなんだが……」
「はい」
「後期、出してみないか? お前の第一志望で」
「え?」
国立大学の入試にはには前期と後期があるが、同じ大学でも、後期の方が偏差値が高い。前期に別の大学(第一志望)に落ちた人が第二志望として受けたりするからなのだろうか。
とにかく僕も、多くの人と同じように、併願として、第一志望よりも少し偏差値の低い大学に出願する予定だった。
「いや、この共通テストの点数なら、ワンチャンある。おおよそ一割から二割の人が受かるくらいかな」
「一割から二割……」
「でも、前期しか受けないよりは確率は少し上がるだろ? お前がすでに出願した私立の方が、おそらくではあるが特待合格だから、できる提案だ」
「……」
「あ、ちなみに、責任は持たないので、もちろんお前が決めるんだぞ」
「あはい……」
僕は考える。確かに、確率は少しは上がる。
後悔しないためにも、そうしてみるか。
でも、明らかに普通の受験プランではない。
けど……やっぱりチャンスは二回あった方がいいと思った。
☆ 〇 ☆
「ま、前言った通り、後期で受かる確率は相当低い」
「はい」
僕は山上先生の机の横に座り、うなずいた。
「けど、理科と英語だけだよな。後期の二次試験は」
「はい」
「科目を絞って今からやればな、いけるかもしれないぞ」
「わ、わかりました」
「……ま、そういいつつダメだった生徒を俺はたくさんなぐさめた。俺の責任もある」
「……」
「けど、やっぱ、大事なのって、本当に後悔しないくらい全力でやるっていう経験ができたかなんだよな。それができたんだったら、第一志望じゃなくても、絶対将来に向かって進めると、俺は思う。ま、これは第一志望合格にこだわってるこの予備校の見解ではなく、俺の個人的意見だけどな」
「……はい」
「だから、まだやるんだぞ。ほんと、後悔しないまではな。勝算があるかないかは、あんま気にせず、すっきり終わろう」
「はい」
僕は短い返事ばかりしていた。
けど、今すぐに、机に向かいたい気持ちが芽生えていた。
けど、頭の中の一部はは少しぼんやりしていた。
予備校を出口で、久々に、一人の人と出会った
「あ、たいせいくん」
「奈乃さん、こんにちは……」
僕の様子をうかがっていた奈乃さんは、優しく言った。
「ちょっとだけ、散歩しよう。お姉さんが励まさないとだし、こういう時は」
「……お姉さん?」
「あ、そうだよね、言ってなかったよね、実は」
「あ、はい……?」
奈乃さんは、ゆっくりと歩き始めながら言った。
「わたし、実は二浪目だから今年で」




