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本番の試験で

 受験当日は、静かな人の列がなされる、と思う人もいるかもしれない。実際そうな気もするのだが、思ったよりは騒がしいと感じた。


 国立前期ということもあってか、なんか取材に来たカメラマンのような人もいるし、予備校関係者や、列整理を担当しているごつい運動部の人なんかもいる。


 そして、僕は、世界一存在感がないんじゃないかというくらい、おとなしくしてびくびくしていた。


 もうやることがない。


 緊張もしているし、直前に何をやったって、きっともう変わらないのだ。


 そんな中、列はちょこっとずつ進む。


 大学の構内に入った。


 沙音華はここに毎日通ってるのか……とか考えながら、自分の受験場所である、南三号館を探す。


 ふう……。正直、何も思わないというか、述べたいこともないという感じだ。


 ただ、自分がいつもの状態でないということは、すごく自覚できる。


 南三号館に入ってから、一番大きな講義室に入った。


 ここが、僕の会場だ。


 僕の席は、前から二列目のど真ん中。


 なんか試験官と目が合いそうな席だな、と思った。


 まあ、そんな些細なことで集中力が切れる人ではもうない。


 共通テストだって、うまくできたんだし、自然にやれば大丈夫。


 僕は深呼吸によりはいた息と荷物を残して、お手洗いに向かった。




 そしてそれからだいぶして、回答用紙と問題用紙が配られた。


 回答用紙は白い面がほとんどだ。


 つまり、ここに何を記述するかで、合否が決まる。


 共通テストよりも圧倒的に自由度の高いところが、記述試験の良さであり、今は怖さでもある。


 まずは数学。


 ここでちゃんと解法を思いつくかどうか。


 今までの勉強を落ち着いて使っていければ大丈夫なはず。


 僕は机に置いてある二つの自分の時計を見た。


 頼む。


 僕は無意識に手を組み、そして……


 始めの合図が、低く響き渡った。


 ✰  〇  ✰


 三時間後。


 僕は、母親が作ってくれたおいしいお弁当をほおばっていた。


 すっきりした。


 全力を出せてすがすがしいなんて、ほんと、体育祭の後みたいだ。


 勉強のテストの後とは思えない。


 でも、僕は本当にそういう気持ちだった。


 きちんと解くべきところは解いたし、いかにもむずそうな大問の五番の解法を思いつけてさっさと解ききってしまえたのもよかった。


 少し、気分転換に講義室の外散歩するか。ずっと席にいるのもよくない。


 僕は立ち上がった。


 同じようなことを考えている人が多いらしく、意外と人が歩いていたり、立っておしゃべりしてたりした。


「なあ、むずかったよな」


「ああ」


 ふとそんな会話が聞こえたりする。


「あの大問五がむずかった」


「わかる」


 え? あれ、あれは結構解きやすかったよな。


 これが一年の勉強の成果か、と調子に乗った思考回路に入った僕は、次の一言を聞いて、足が固まった。


「あれな、俺最初、点Pも点Qも動くと思ったんだよな。そしたら、点Pと点Qどっちか一方しか動かないものとするって最後に書いてあってさ」


「それな。それ読み落としてたら全滅するから危なかったわ」


 ……やばいうそだ。問題文読み間違えて、大問丸々吹っ飛ばした。


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