奈乃さんのおかげで助かった
その絡まれた日は、僕は電車遅延のために遅刻した。
遅刻をすると、決められた座席ではなく、邪魔にならないように後ろの空いている席に座ることになる。
で、後ろの席に同じく遅刻して座っている人は、いつもの遅刻常連の人たち。
昼休みに見かけない人なので、ニロホでわいわいしている人たちなんだろう。
授業中も普通に喋っている。
「なあ、あの子かわいいな」
「だなー」
「よし、じゃあ今日もじゃんけんで負けた奴が話しかけに行くってことでいいな」
「いいぞ」
とか話しててうるさい。
まじで板書の内容が頭に入ってこない。
「あ、お前もじゃんけん参加する?」
「え? 僕……」
え、話しかけられたことが驚きなんだけどまず。じゃんけんって……負けたらどうすんだよ。
やばい、授業頭に入ってこない。
「よし、じゃあやるぞ」
「まったやらない」
「なんだよー、つまんねー人になってるぞ、予備校に汚染されすぎなんじゃね?」
「まあそうかもな」
と返事をして考えた。
つまんねって……そもそも僕やりたくないし、予備校に汚染されるのは浪人生としてしょうがないんじゃね。もう。
で、僕はじゃんけんには参加しないですんだものの、うるさいし、集中できないことには変わりない。
だから結局、ノートを取り損なったところがあり、さらに授業が頭に入ってこないまま授業終了になってしまった。
あー、電車遅延でも耐えるくらい早く家を出るべきだった。
僕は後悔して、自分のもともと決められた席に向かった。
二時間目からは、落ち着いて授業が受けられる。
「たいせいくん、授業大丈夫だった?」
椅子も机も同じなのに落ち着くなあと思っていたら、優しい声に包み込まれて思わず横を見た。
奈乃さんが来てくれていた。
「あ、ちょっとうるさかったんだけどね、まあもう大丈夫だな」
「授業のノート見せてあげるよ」
「え、ありがとう……!」
神すぎる。奈乃さんの字は綺麗だから読みやすいし、配置がわかりやすい。
僕は奈乃さんのノートを写した。
「大変だったら写真撮ってもいいよ」
「え、いいの? ほんとに申し訳なさすぎますありがとうございます」
僕は奈乃さんのノートをスマホで写真に撮った。
これで、後から落ち着いて写して復習することができる。
一安心して、撮った写真を確認すると、ノートの下にピースした手が写ってるのに気がついた。
「あ、写ってる、えへへ」
奈乃さんが受験を知らない子どものように笑った。
奈乃さん意外とこういうことするんだなあ。
せっかくだし、写し終わっても写真は消さないでおこうと思った。




