綱引きをしてしまった
図書室についた僕と基哉は立って固まっていた。
なんでかって言えば、めっちゃ勉強している人がいるから。
高三の人たちのかたまりがそこにいた。
自分の出番じゃない時に、勉強をしに来ている人がこんなにいるなんて。
さすがに驚く。
「なあ、俺らって高三の体育祭の暇な時どうしてたっけ?」
「たしか……ゲームしたりピンポン球で野球したりしてなかったっけ」
「してたな」
なるほどその結果が浪人ですねはい。
いやでも、体育祭は学校行事だろ。
ほら、応援したりして盛り上がんないと。
まあそういう僕も関係ないことして遊んでたわけですが。
僕と基哉は、頑張って勉強している高三生から発するパワーによるダメージをくらいながら、空いている席まで進んでいった。
「まあ……俺らも勉強すればいい話だよな」
「そうそう」
ぎごちない動作でテキストをかばんから出して広げて、僕と基哉は勉強を始めた。
幸い窓の外を向いた席を取れたので、視界から高三の人々をさよならすることができている。
そう、ここは予備校の自習室だ。
うんうん。とっても落ちつくなあ。
「たいせえええええ!」
おい、図書室でうるさい人がいる。
で、沙音華の声なんだけど。
「なんだよ、静かにな静かに」
「今から卒業生対体育祭実行委員の綱引き始まるよ。行こうよ」
「えー、いいよ」
綱引きなんて絶対腕筋肉痛になる。
そしたら明日以降の勉強効率が落ちちゃうじゃんかよ。
「わかったよ……じゃあ私一人で出てくるよ、寂しいなあ」
「茉里はどうしたの、出ないの?」
「茉里はなんか恥ずかしいから出ないって。私は出たい」
「あー、まあ恥ずかしいよな。わかる。で、そこで進路も決まってない僕が出るともっと恥ずかしいからやめとくわ」
「えー、寂しいなあ」
「俺席とっといて荷物も見ておいてやるから行ってこいよ」
「基哉はいかないのな」
「悪いが今英語長文の途中なんだ。今やめると読んだ内容忘れるからやだ」
「そうですかい」
うーん。行かないと言ったけど、やっぱり……どうしようかな。綱引きなんて数分で終わるし。
「やっぱり行くことにするよ」
「やった! よし行くよたいせ」
沙音華は僕を引っ張る。僕はすごい引っ張られる。沙音華綱引き強そう。
僕はこうして綱引きに参加することになってしまった。
そして、綱引きを終えて。盛り上がりはしたけど。
「ほら、やっぱもうすでに腕が痛いんだが」
図書室に戻った僕はシャーペンを握るがなんか腕が疲れていた。
「真面目にやったんだな。てきとうに引けばよかったのに」
「いや、そんな雰囲気じゃなくてみんな全力だったからつい」
僕は疲れてる腕で頑張って数式を書いて行く。
沙音華はまだまだ元気でほかの種目を楽しく応援していることだろう。
楽しそうに声をあげている沙音を想像しながら、僕は計算を進めた。




