デートうらやましい
クモがいたと沙音華が騒いでから一日経ったけど、クモとこんにちははしなかった。きっと新たなる部屋がどこかに冒険に出かけたのだろう。
「たいせ、昨日のクモは?」
「見てないよ。だから普通に入ってこような」
なんかびくびくしながら沙音華が入って来た。
「まあ大丈夫かな」
沙音華は僕の部屋の床を注意深く観察してからそう言った。
僕は解いていた英語の文法問題を終わらせにかかる。
切りがいいところまでやって一旦シャーペンを置いていると、沙音華が言った。
「今日ね、なんとなんと、家庭教師の教え子と帰りに会ったの」
「おお、まあこの辺に住んでる人なんならそういうこともあるんじゃない?」
「そう、会っただけならそんなノリでいいよ。だけどね、彼氏がいたの、デートしてたの! 中学生なのになんかおしゃれしてて。うわー。可愛いカップルだったなあ……」
「そうかよ。よかったな」
「そうなの、普段私の前では真面目に解いたり質問したりしてるのにね、その時めっちゃ彼氏にくっついて甘えてたの、いやー可愛かったな〜」
「で、お互い気づいたの?」
「気づいた気づいた。それでその時にまた恥ずかしそうにしててそれも可愛くてああー、もっとたくさん教えちゃいたくなるよね〜」
沙音華は自分のほっぺを両手で押してはしゃいでいた。
それにしても中学生で沙音華から見てもおしゃれって感じでデートしてんのか。すごいな。僕デートしたことないから中学生のデートなんて近くの空き地かと思ってたけど。いや空き地は空き地で青春が広がってそう。
僕はキックベースか虫取りしかしたことないけどな。
「あ、そうだたいせ、それでね、彼氏の方がちょっとたいせに似てたよ」
「は、マジで? 多分それ気のせいじゃね?」
「うーん。ま、ちょいと似てるってくらいかな〜」
「僕と少し似てる人が中学生の頃から大人っぽいデートなんてしてんのかよすごいな」
「すごいねー、たいせも早くできるといいね〜」
「はいはい、その前にお勉強しないとな浪人生の寂しい僕は」
「がんば」
「ていうか勉強戻る前に言うけどそんな教え子デートしてていいの? 教え子も高校受験あるんでしょ?」
「ああ、まだ中二だから」
「そうか、ただ、ぼくもまだ高二だと思っててのんびりとかしててそしたら浪人したからなぁ。やっぱちゃんと考えて勉強してかないとだめって言っといたほうがいいよ」
「お、犠牲者からのアドバイスですか」
「犠牲者ってなんだよつらいな」
「ま、落ち着いてたいせ、要はたいせはデートして楽しい中二がうらやましいんでしょ、知ってますー」
まあそういう気持ちもあるな。浪人生って任意の人うらやましく思うんだよね大体。
仕方がないので僕は黙って勉強を再開した。
沙音華がそんな僕を見て小さく笑い始めたけど知らん。




