見晴らしの良いところに行った
お昼になった。
僕は朝まじでてきとうに作った弁当(転んだせいでぐちゃぐちゃになっててさらにひどい)を広げた。
いや今日の弁当の見栄えは流石にやばいわ。
榎咲あたりに絡まれて煽られるのもめんどくさいし、早く散歩と基礎知識確認に時間を割きたいので、僕は急ぎめに完食した。
さて、いつもの通り散歩に行きますか、と席を立ち上がって教室を出ようとすると、後ろから誰かに服を軽く引かれた。
「一緒に、行ってもいい?」
「あ、うんもちろん。でも体調は大丈夫……?」
「うん。体調はそんなに悪くないんだけど、朝気分が悪くなっちゃって。昨日もそうだったの。多分精神的な問題で」
「精神的な問題……?」
「うん。私、志望校別模試の結果、去年よりも悪かったんだ」
奈乃さんはそう言って、苦しそうに教室の緑色の扉を見つめた。
僕と奈乃さんは、沙音華が作ってくれた散歩コースとは別のところを歩いていた。
駅にはそこそこ近いけど見晴らしが良くて、川と、そのそばを走る電車が見えるところだ。
そこの薄い緑色のフェンスの前の小さなベンチに僕と奈乃さんは座った。
ベンチは縦横比ぱっと見1対2の長方形で、数学の紙を折る問題に出て来そうな図形をしている。
まあそこはどうでもいいとして何が言いたいかといえば、二人で座るとすごい狭い。
奈乃さんは小柄なのに、お互い触れてしまっている。
奈乃さんは散歩に出る前、志望校別模試の結果が去年よりも悪かったと言っていた。
どんだけ勉強サボってたんだよって?
ごめん。その考えは間違ってて、真面目にやってても一年前の自分よりも悪い成績を取る事があるのが現実だ。
僕だって今回は数学でメンタルが詰まなかったからいいけど、もし詰んで連鎖的に他の教科もやらかしたら。
団子状態ですごい人数いる山をすっぽ抜けてあっという間にE判定だろう。
本番も同じ。ちょっとの違いが、でかい点数の差になることはよくあると思う。
「あーあ、頑張んないとなあ」
奈乃さんが、小さくつぶやいた声は、ほとんど電車の音に消されたけどちゃんと聞こえた。
「とにかく、頑張ろう……うん。僕も頑張るよ」
「そうだよね……」
奈乃さんは、狭いベンチに縮こまった。
実際、受験ってくそだなって思う。
はっきり言えば、ここで奈乃さんをはじめとする、志望校別模試で思うように結果が出なかった人たちがメンタルを崩して悪循環に陥れば、僕の合格確率は飛躍的に上がる。
でも、そんなの嬉しくない。奈乃さんが落ち込んでるのは嬉しくない。
けれど、僕は模試の結果が出た時、A判定で喜んだ。
誰か知らない人よりも自分がいい点数を取るのは嬉しいのに。
知っている人が悪い点数なことは嬉しくない。
そういうものなのか。考えてるだけで受験の難しさを感じる。




