私を嫌いになってください
「ハッ」クララは目が覚めた。ここは?起き上がり部屋を見た。
この部屋、クララはベットのサイドチェアに腰掛け心配そうに見つめる人を見た。「……ル、」「エリアスだ」エリアスは言葉をかぶせるように自分の名前を言った。
「エリアス、様。」クララは混乱していた。自分がフランシスカなのかクララなのか。「クララ、君は図書室で倒れていたんだ。」混乱しているクララを見つめエリアスはクララに触れようと手を伸ばした。
「私に、触れないで下さい」クララは涙を溜めエリアスに言った。伸ばした指先を握りエリアスは心臓に剣を突き立てられたような痛みで息が止まった「ークララ、何故?」エリアスは悲しげな瞳をクララに向けた。クララは思い出してしまった。エリアスは深いため息をはいた。
「ルカス……様、あなたはルカス様。私はもう二度と思い出したくなかった。」クララは両手で顔を覆い言った。
ああ、恐れていたことが,エリアスは天井を仰ぎ目を閉じた。やはりフランシスカはルカスを、許さない。だが、諦める訳にはいかない。エリアスは意を決しクララを見つめ言った。
「クララ。今あなたはクララで私はエリアス。あの頃とは違う!」
「では、なおさら、私にかまわないで下さい。私を見ないで、話もしないで、出来れば嫌いになって下さい」クララは顔を覆い泣きだした。クララの言葉を聞きエリアスは両手を握りしめた。どんな言葉を言われても諦めることは出来ない。「クララ、それは出来ない、私は、あなたに会える事だけを願って五百年、あなたを待っていたんだ。」
その言葉を聞きクララは涙に濡れている顔を上げ言った。「エリアス様は私を愛しているのですか?」エリアスはクララを見つめ言った「愛している。誰よりも。あなたを愛さないわけがない。」クララはさらに悲痛な表情でエリアスを見つめ言った。「エリアス様は、また……私を忘れてしまう。もう、あんな思い二度としたくない。孤独で苦しくて毎日死にたかった。」クララは溢れ出る涙を拭いもせずエリアスを責めるような眼差しを向け両手で顔を覆った。
「フランシスカ!謝っても後悔してもどうしようもない事だとわかっている、あなたを一人にした事実は消えない!今回の人生も同じようにその日が近づいていて、またクララを忘れてしまうのかもしれないと思うと、怖くて、生きていることが嫌になる。でも、それでもクララを愛してしまうんだ、そうしたくなくても……止められない。こんな私をクララが嫌いになっても仕方がないと、毎日 思っている」
クララはエリアスの悲痛な言葉を聞き胸が張り裂けそうなほど苦しくなった。私だってあなたが好きです。だけどフランシスカだった頃の記憶を少し取り戻した今は忘れられてからの毎日の辛さに耐える日々は二度と経験したくない。それならば愛し合った喜びも思い出もときめきも無い方がいい。私が密かに片思いする永遠に憧れている人でいい。私を愛してくれた思い出や気持ちは微塵にも欲しくない、無ければ忘れられても苦しくない。ただ命をかけて愛してくれていたから私を忘れたのだという事実だけ心の片隅に持っておけば良い。
「エリアス様、今後私に関わらないで下さい。最低限の関わりは仕方がないと思います。だけどそれ以上はおやめ下さい。私はもうあなたを愛しません」
その言葉を聞いたエリアスは無言で立ち上がり部屋を出ていった。
クララはブランケットを被り泣いた。何故突然思い出してしまったのだろう。このまま思い出さなければよかった?でもやっぱり同じ、引力のように惹かれ合う気持ちは止められない。エリアス様はいつから私を見ていたんだろう、私がフランシスカの魂を持っているのだといつ確信したの?。本当は、本当はルカス様のせいではないってわかっている。忘れたくて忘れた訳じゃないって。あの地下に続く階段、フランシスカという文字。今初めて知ったルカスの想い。私を忘れたくなくて刻んだ名前。本当に本当に愛されていた。エリアス様、ごめんなさい。私はあなたと向き合えないほどあなたが好きです。




