嫉妬心
どれだけ時間が経ったのかわからないが、涙は止まりクララは我に返った。「エ、エリアス様、申し訳ありません、、私、ずっとエリアス様を引き止めてしまって」クララは顔を上げエリアスを見つめ言った。「クララ心配はいらない。何よりも優先すべき時間だから。」エリアスはクララの額にキスをし言った。クララはエリアスの言葉に胸が苦しくなった。エリアス様がそんな事を言ってくださるなど、これは夢なの?クララは自分の頬をつねった。「痛っ」エリアスはクララが突然自分の頬をつねった姿を見て目を丸くし笑い出した。「アハハハ、クララは本当に私の想像の斜め上を行く、なぜ自分の頬をつねったの?」エリアスはクララの手を掴み言った。「あの、エリアス様が私をだ,抱きしめて下さって……キ、いえ、優先すべき時間だと、これは夢じゃないかと」クララは恥ずかしさで顔を赤くし、エリアスの視線から逃げるように下を向き言った。「クララ、夢ではない、私にとっても夢に思えるこの時間は現実で、この時間を永遠にする為に私たちは薔薇の誓いを、」クララはその言葉を聞き、レオンだった頃にリアナから言われた言葉を思い出した。「エリアス様、薔薇の誓い、私がレオンだった頃にリアナ様がおっしゃった薔薇の誓いをするにはその内容を私が知らない事が問題だと、恥ずかしながら未だに内容がわかりません」クララはあの頃リアナにレオンだと嘘をついていた罪悪感を思い出した。エリアスはクララの表情が暗くなったのを見逃さなかった。「クララ、クララが何を思い出したのか私はわかっている。クララは被害者なのだからそんな顔をしなくても良い。私はクララがレオンとしてここに来てくれたことが何よりも嬉しい。どんな形でも会えたのだから」エリアスはそう言いながらクララの頬に手を当て自分の額をクララの額に当てた。クララはキスができるほどの近距離でエリアスと見つめ合った。近い!クララは気が遠くなるほど緊張し、心臓の音がエリアスに聞こえるのではないかと心配するほど鼓動が激しくなった。エリアスはそのままそっとクララの唇にキスをした。
そしてエリアスは唇を離しクララに言葉をかけようとした。「クララ、あなたを……」「エリアス様失礼します」エリアスの執事セルゲイが突然現れた。クララはエリアスにキスをされた驚きと、エリアスの執事に見られた恥ずかしさで咄嗟にエリアスから離れセルゲイに背を向けた。あー!!恥ずかしくて死ねる!!クララは両手で顔を隠した。
「セルゲイ?急用か?」エリアスはクララとの時間を邪魔され眉間に皺を寄せセルゲイに聞いた。「エリアス様、お取込み中大変失礼いたしました。アンドレア姫様がエリアス様を探しておいでです」セルゲイはエリアスに頭を下げて言った。「私は彼女に用は無い。用があるのなら用件を言うのが筋だ。セルゲイは誰の執事なんだ?」エリアスはそう言ってセルゲイに背を向けクララの方に歩み寄り言った。「クララ、薔薇の誓い、必ず誓おう。そろそろ会場に戻ろうか」そう言って顔を隠しているクララの手にそっと触れた。クララは顔を上げコクリと頷きエリアスのエスコートで会場に戻った。それからエリアスはセリオを呼び、セリオはクララをエスコートした。「クララ、こんな老いぼれですまんな。」セリオは軍人らしく制服でパーティに参加しておりその威圧感に誰も近づけない。それをわかってエリアスはセリオにクララを預けたのだ。「いいえセリオ様、とても素敵です。」クララはセリオに微笑んだ。「クララ、エリアス様は私にクララを預ければ誰もクララに話しかける事ができないから安心だと思っている。本当にどうしようもない皇子だ」セリオはそう言って目を細めクララに笑いかけた。クララはその優しい瞳をみて自分の親がセリオだったら良かったのにと心の底から思った。
あれから二週間後、建国パーティが開催された。クララも参加する予定だったパーティだった為、事前にドレスは用意してあった。薄い桜色のドレスは以前皆で街に遊びに行った時にグロリアとダフネがプレゼントしてくれた。カルロスは同じ桜色のヒールをプレゼントしてくれた。今まで男の子として生活をしてたクララにご褒美だと三人は言った。クララは三人を抱きしめ感謝した。
その日もクララは一人でパーティに参加した。三人は前回と同じく恋人と参加している。
皇帝と皇后の挨拶が終わりエリアスが挨拶をした。クララはエリアスの堂々とした気品溢れる姿に見惚れ自分の世界に入っていた。エリアス様今日も素敵。エリアス様は歴代の皇帝と比べ一際美しく魔力も高いと聞いた。男女問わず誰もが憧れる存在。私もずっと憧れている。エリアスの挨拶が終わりダンスが始まった。エリアスはアンドレア・カシュー。リード王国の宝石と呼ばれる姫と踊り始めた。前回のパーティもアンドレア姫とファーストダンスを踊っていた。今回も。どす黒い炎が胸を焼いた。これは嫉妬心、こんな気持ち持ちたくない。クララはエリアス達に背を向けた。エリアス様は私のものじゃない。優しくしてくださるけど冷静に考えて王家を裏切るような公爵家の娘などエリアス様に選ばれるわけがない。クララは気がついた。クララの周りだけ人が居ない。貴族達がクララを見て何か言っている。「あれが噂のタピア令嬢?」「エリアス様の遊び相手よ」「一族謹慎なのによくパーティに出られるわね」クララは心無い陰口に両手を握りしめた。悔しい。だけど私は反論できない。私が何かを言えば面白がってまた噂になる。一族が謹慎している中私もこんな場所に来るべきじゃなかった。部屋に帰ろう。クララはエリアスの方を見た。エリアスはダンスを踊りながらクララを心配そうな眼差しで見つめていた。エリアスと目があったクララは我慢していた涙ぐんだが溢れるそうになりすぐに目を逸らし会場から出て行った。
部屋に戻ろう。そう思ったがこのまま部屋に戻るとあまりに早い。カルメラが心配するかもしれない。クララは時間を潰すため一階に降りそのまま北の塔にある図書室に向かった。図書室に入るといつもの有機的な暖かさがあり心からホッとした。ランプの灯りがほのかに揺れそれがまた有機的な暖かさに感じる。クララはいつもの場所に腰をかけた。そして少し離れたところの脚立を見つめリアナを思い出していた。
懐かしい。レオンの頃いつもここに来ていた。嘘をついている罪悪感で辛かった。いろいろなことがあるけれど、今はあの頃よりも嘘をつかなくて良いから楽になったわ。でもエリアス様の事を誰かに取られたくないと思う嫉妬心は苦しい。私は苦しくなるほどエリアス様が好きなんだ。好きって辛い。クララはため息をはいた。
「気分転換に何か読もうかな」クララは本棚をながめた。棚の上の方に刺繍の本があった。アンドレア姫がエリアスに刺繍のハンカチを渡した事を思い出した。どんなものか見てみよう。クララは背伸びをし、その本を取ろうとしたが手が届かず、体勢を崩し目の前の本をつかんでしまい一気に十冊ほどの本がクララの上に落ちてきた。避けようとしたが間に合わず重たい本が頭に落ちてきた。その衝撃で脳震盪を起こしてしまいそのまま床に倒れた。




