遅れた!
本日の会場は城の二階中央にある大広間だ。クララは中央エントランスに向かう途中窓から夕暮れに染まる街が見え立ち止まり少し窓を開け絵画のように美しい景色を眺めていた。眼下に広がる美しい街並みがオレンジ色に染まり、教会の鐘が鳴っている。平和で穏やかな一日が終わってゆく様子が見えた。「なんだか平和でいいな」クララは窓から少し身を乗り出した。柔らかい風が吹きブルーのリボンが髪からスルリと庭園に落ちていった。「あ、大切なリボンが」クララは身を翻しリボンを取りに向かった。中央階段を使うとすぐに取りに行けるが人の出入りが激しい。遠回りになるがクララの部屋がある南の塔の裏階段を使って取りにゆく事にした。パーティが始まるまであと十五分しかない。部屋近くの裏階段までここから五分、庭園までは……。ああ、時間に遅れそう。クララは急ぎたいがドレスを着てヒールも履いている。走ることができないが出来るだけ急いだ。裏の階段を降りて庭園に出た。クララは庭園の中を歩きながら落ちたであろう場所に着いた。薄暗くなっておりリボンが見つからない。「ゴーン」鐘が鳴った。パーティが始まる。ああ、間に合わなかった。でもリボンを探したい。せっかくエリアス様が選んでん下さったものだから。クララはリボンを探し続けていた。
エリアスは会場に向かう途中庭園の中を急ぎ歩くクララを見た。「セルゲイ、私の妖精が庭園にいる。何かあったかもしれないから行ってつれて来てほしい」エリアスはクララを見つめながら執事のセルゲイに言った。セルゲイはすぐに庭園に降りていった。
「クララ様、いかがされました?」セルゲイは庭園の中にいるクララに話しかけた。「あ、セルゲイ、エリアス様にいただいたリボンを二階から落としてしまって探しております。あなたは?」クララはセルゲイに聞いた。「私はエリアス様よりクララ様が中庭にいらっしゃるから会場に連れてくるようおおせつかりました。」セルゲイは胸に手を当てお辞儀をした。「まあ、恥ずかしい。エリアス様に見られていたのですね。」恥ずかしさに顔が赤くなった。「クララ様、リボン見つかりましたよ?」セルゲイはクララの真後ろの木の枝を指差した。クララも振り返りクララの目線よりも上の枝にリボンが引っかかっているのを見て不思議に思った。さっき見たけど。セルゲイはそのリボンを手に取り「神のご加護がございますように」と言ってそのリボンにキスをした。クララはセルゲイのその行動に違和感を感じた。なぜ神のご加護が今必要なの?
けれど、とにかく大切なリボンが見つかってホッとした。「セルゲイご迷惑をかけました。」クララはリボンを髪に結びセルゲイの案内で会場に向かった。
会場の外でカルロス達はクララを待っていたが現れない。時間になりカルロスは婚約者をエスコートし、グロリアとダフネも恋人と共に中に入った。大きな広間には多くの貴族が集まっている。王家が出入りするドアは会場の奥にありそのまま玉座につながっている。招待客は玉座から階段を五段ほど下がった場所におり,その階段には真白なじゅうたんが敷いてある。王家の入場を知らせる声が響いた。貴族達はわれ先にと王座の前に集まった。もうすぐ皇帝,皇后、そしてエリアスが現れる。二百名ほどの招待客がおり、友好国の王族も参加している。扉が開き皇帝,皇后,エリアスが入って来た。
エリアスは長い髪を後ろに撫で付け美しい顔を全開にしている。正装姿でマントには四つの公爵家と聖剣が刺繍されている。皇帝、皇后、エリアスが挨拶をし、パーティが始まった。
クララは静かに会場に入った。セルゲイに「ここで大丈夫です」と伝え一人で会場の中を移動し始めた。
既にパーティは始まっており皇帝と皇后、そしてエリアスがどこかの国の姫さまとファーストダンスを踊っていた。それにカルロスと婚約者のイザベル、グロリアとダフネも恋人と共に優雅にダンスを踊っていた。クララは少し離れた場所からエリアスを見ていた。「エリアス様、、素敵だわ!」周りの令嬢が言った。「本当に麗しくて、私今日お会いできる喜びで夜眠れませんでしたのよ。」先ほどの令嬢の友人が言った。よくよく聞いているとほとんどの令嬢がエリアスの事を言っている。本当に人気があるんだ。クララは令嬢達を見つめながら思った。私もこの人たちと同じでここから見つめるだけで幸せだわ。クララはまたエリアスを見つめた。その時、姫と踊る紺色の瞳がクララに向けられた。あ、目があった?その瞬間エリアスは目を細めた。周りの令嬢が騒ぎ始めた。「今私を見て微笑んでくれた!」「いいえ,私よ!」皆大騒ぎしている。クララは自分じゃなかったとしてもあの美しい微笑みが見れただけで幸せだと思っていた。




