変化
「クララと申します。」クララもセルゲイに挨拶をした。「エリアス様、お時間でございます。お迎えに参りました。」エリアスはクララを抱きしめたまま何も答えない。「エリアス様?」クララはエリアスを見た。エリアスはクララを見つめ言った。「クララ。私は二週間城にいない。」クララは寂しく思ったが、そんなことは言えない。「はい、エリアス様、お帰りをお待ちしておりまし
す。」エリアスはその答えが不服だったようでクララ覗き込み聞いた。「クララは寂しくないのか?」クララはその言葉を聞いて胸が詰まるような気持ちになった。寂しいです。離れたくないです。そばにいさせて下さい。たくさんの言葉が浮かびあがった。エリアスはクララの表情が悲しげに変わったのを見て目を細め抱きしめた。エリアスは心の中で思った。急いではいけない、クララはまだ何も思い出していないのだから。クララもエリアスを抱きしめた。「エリアス様そろそろ」セルゲイが声をかけた。「クララ、また」エリアスはクララを離し、セルゲイについて歩き出した。クララはエリアスの後ろ姿をずっと見つめていた。
エリアスがいない間、クララはセリオと共に毎日勉強に励んだ。二年のブランクを取り戻すには努力が必要だからだ。一週間筆記試験の勉強を続け、その後セリオは二十教科の試験を行った。三日間に分け朝から晩までクララはひたすら解答を書き続けようやく筆記試験は終了した。
二日あけて次は魔法の試験だ。その場所は神殿の地下で行われる。クララは気を引き締めて試験のため神殿に向かった。セリオはすでに来ておりクララとセリオは共に神殿の奥に進んだ。祭壇の奥に白いドアがみえた。クララとセリオはそのドアの前まで行き立ち止まった。「良いかクララ。この試験は実戦になる。中に入れば敵が現れるが、それがどんな敵なのか私にもわからない。ただ,最初に出会ったものが倒すべきものだ。この地下の戦いで死ぬ事は無いが、負けると精神がやられ回復をするまで年単位の時間がかかる。だから万が一の場合はこの魔法石にキャンセラシオンと言えばこのドアの前に戻れる。試験は改めてやり直せば良い。無理はは禁物だ」セリオはそう言って紫色に輝く美しい魔法石をクララの首にかけた。「準備は良いか?」セリオはクララに聞いた。「はい」クララは頷いた。「ここからは一人で行きなさい」クララはセリオに一礼し「行ってきます!」と言い中に入った。
中は暗く下に降りる階段が見えた。暗い階段を手探りで降りる途中、危うく足を踏み外しそうになり魔法で小さな炎球を出して足元を照らした。その火球はふわふわと空中に浮かびクララが動けば適度な距離を保ち一緒に移動する。両手も空くのでランプよりも安全だ。ようやく足元が見え、闇の中に階段が浮かび上がってきた。その階段は螺旋階段のようになっている。おおよそ地下二階位のながさはある。クララはその手すりのない階段を降りるため壁に手を添わせながら降りて行った。最後あと五段ほど降りれば地下に到着する場所で、壁に添わせていた手のひらにざらっとした感触を感じた。「?何か文字が彫ってある?」クララは呟き火球で壁を照らした。クララは触れた文字を見て息が止まった。「フランシスカ」と掘ってあった。そして薄れているがその壁にはたくさんの文字が書かれている。その多くは人の名前だった。なぜこの壁にフランシスカと書かれているの?この文字は何?不思議に思った。自分で彫った?歴代の当主は今のクララと同じように次期当主になるためここで魔法の試験を受けた。その時に書いたの?目の前に書かれたその文字をなぞり、胸が締め付けられた。なぜか切ないような不思議な気持ちになる。「フゥ、」クララは短く息を吐き、また階段を降りていった。最後の一段を降りる時もう一度壁を見た。そこにはまたフランシスカの名前がまた彫ってあった。クララはそっとその文字に触れた。今度は強く胸が痛んだ。胸が締め付けられ涙が溢れてきた。自分のルーツである女性の名前を見たから切ない気持ちになったのかしら?クララはその文字を触り瞳を閉じた。
そして意を決し最後の一段を降りた。すると強烈にまばゆい光がクララを包んだ。




