第三章 寝覚めたクララ
翌朝城の中は混乱していた。昨夜成人したリアナが男性で皇子だったとわかった貴族達は自分の娘の肖像画を城に届け、パーティやお茶会、絵画の鑑賞会などさまざまな社交の招待状をエリアス宛に送ってきた。さらに、近隣諸国の王達、貴族達も自分の娘や一族の娘の肖像画を送りつけ、謁見を願う書簡が山積みになった。エリアスはその様子を見て「大変そうだな」とまるで人ごとのように言いながらリボンと薔薇の花を持ってクララの部屋に入って行った。
ついつい癖で何も言わずに扉を開けると驚いた顔をしてエリアスを見るカルメラに「クララはどこだ?」と声をかけると「バルコニーでミモザをご覧になっています」と言いながら、「ノックはしてくださいませ!」カルメラは言った。「フフフ、すまない」エリアスはそう言いながらバルコニーに出た。
クララはミモザを見つめていた。その後ろ姿を見て二年の長さを感じていた。あんなに短かったクララの髪は腰まで伸びていた。「クララ、おはよう」エリアスはクララに声をかけた。クララはゆっくりと振り返りエリアスを見て微笑んだ。ミモザの花を背景にしたクララは一枚の美しい絵画のように見えた。「エリアス様、おはようございます」クララはドレスを持ち上げ頭を下げて挨拶をした。エリアスはその姿を見て心の中に幸せな気持ちが広がってゆくのを感じた。クララが生きている、それだけでもう十分だと思えるほど心の中が満たされた。クララに近づき一本の真紅の薔薇を渡した。その薔薇の花心は白だった。「あ、この薔薇、、」クララはエリアスを見上げた。二年の間にもっと背が高くなってる、、。それに、、やっぱりエリアス様はリアナ様、、美しいわ、、クララはそんなことを考え急に恥ずかしくなった。「クララ、そうだよ、あの薔薇だ。君のために摘んできた。あと、、」エリアスは美しいレースのリボンを胸のポケットから取り出しクララの長い髪にふれリボンをつけた。クララはそのレースのリボンを見て「嬉しいです」と言って恥ずかしそうにエリアスに微笑んだ。
「クララ、君が眠っている間、カルロス、グロリア、ダフネは毎日ここに来て君に美しいドレスをプレゼントし、たくさん話しかけ君が目覚めるのを待っていたんだ。良い友達を持ったな。」
エリアスはクララの長い髪に触りながら言った。クララはエリアスに髪を触ってもらえることに喜びを感じていた。短かった頃は頭を撫でてもらったことはあったが、こんな風に、、まるで恋人同士のように向き合って、触ってもらえるなんて。カルロス,グロリア,ダフネが見たらからかわれるだろうな。「本当に良い友達に出会えて幸せです。リアナ、、エリアス様にも、ご心配をおかけいたしました。」エリアスは恥ずかしそうに目線を逸らし話すクララを見て言った。「クララ、セリオはね、クララの笑顔が見たいと言ったんだ。あのセリオが。」クララはエリアスの言葉を聞いて驚きエリアスを見て言った。「セリオ様が?、、私も、、セリオ様にお会いしたいです。沢山ご心配とご迷惑を、、、あ、、」クララは思い出した、ウーゴとレオン、タピア家の事を。
エリアスはクララがあの日を思い出したとわかった。「クララ、何も心配は要らない、これから一緒に問題を解決しよう。クララが目覚めてから始めようと決めていたんだ。君の意志が何よりも大切だから。」エリアスは不安な表情で見つめるクララを抱きしめ「クララ、時々、こんな時間をくれないか?」と聞いた。クララは何も言わず頷きエリアスの胸の中で瞳を閉じた。




