運命の出会い
「はい、」
フランシスカは静かに返事をし皇子を見た。皇子もフランシスカを見た。その瞬間体に電気が走ったような感覚があった。皇子も驚いた顔をしフランシスカを見つめた。フランシスカは皇子と目があった時、長い時間をかけて育んできた何かが一気に弾けたような感覚を覚えた。周りの景色がぼやけ皇子だけが浮かび上がっているように見え、胸の鼓動が強くなった。
「フランシスカ・タピアと申します。炎の精霊イフリートにより覚醒し、タピア公爵家の次期当主としてやってまいりました。ナバス帝国、ミラレス王家に忠誠をお誓いいたします。」
フランシスカは胸の高鳴りを押さえ、ゆっくりとした口調で優雅に微笑みながら皇子に挨拶をした。
皇子は初めてフランシスカと目があった時何故だか分からないがようやく時が満ちたのを感じた。フランシスカは美しい金色の髪に伏せ目がちな青く透明感ある瞳、艶めくほんのり色づいた唇、まるで天使が降臨したような可愛らしい容姿、落ち着いた口調で挨拶をし微笑んだ。フランシスカの微笑みを見てその可愛らしさに心奪われた。
皇子は立ち上がりフランシスカの目の前に来た。フランシスカは突然皇子が目の前に現れ驚いた。皇子はフランシスカの手を取り言った。「私はこの帝国の皇子、ルカス・ミラネスです。あなたが噂のタピア公爵家の薔薇、噂通りの愛らしさですね。私はあなたを見た瞬間運命を感じました。あなたは私を見てどう感じましたか?」ルカスは自分の感情を素直にフランシスカに伝えた。フランシスカは頬を赤らめルカスに言った。「ルカス様、恐れながら私も同じように感じました。」
同じ公爵家のブラス、サリタ、カリナはルカス皇子の突然の行動に驚きながらも美しい二人を見て好感を持った。ルカスと並んでも見劣りしないフランシスカの美しい容姿、落ち着いた態度、文句のない気品は誰も敵う人間はいない。
こうして初めて会ったその日から二人は愛し合うようになった。けれど二人は何故か分からないが以前から恋焦がれた相手に長い時を経て再会し、青い実が時間を掛け熟したようにようやくこの人と愛し会えるようになったような既視感があった。だから初めて視線を交わした瞬間に相手を理解し愛せたのだと感じていた。
他の公爵家次期当主であるブラス、サリタ、カリナはそんな二人を暖かく見守っていた。フランシスカは仲間に愛されるに十分な素質を兼ね揃えていた。三人は穏やかで優しいフランシスカを仲間として愛していた。そして君主になるルカス皇子もそのカリスマ性と一見クールに見えるが自分の想いに素直で熱い性格が敬愛され五人の絆は日を増すごとに強くなっていった。
ルカス皇子と四人の公爵家次期当主の世話をしているのはナバス帝国最高軍事司令官アマンドだ。アマンドはルカスとフランシスカの恋愛について何も言わなかった。その頃の時代背景もあり、恋愛は自由で開放的だった。
フランシスカの部屋は城の二階、南側の塔にの一番奥、突き当たりの部屋、通称白ミモザの部屋だ。大きな窓ガラスからは光が差し込みその光で室内は常に明るく、レースのカーテンを閉めれば優しく穏やかな光が部屋を包む。この部屋は太古の昔からタピア家の次期当主が滞在する場所として使われている。そしてその部屋の真上がルカスの部屋だ。タピア家はミラネス家の絶大な信頼を得ており、それが滞在する部屋までその信頼の証として表れている。
部屋にはテーブルとソファがあり、その奥にはベット、さらにバルコニーがあり、トイレもお風呂もある。そしてメイドも王家の一流のメイドがそれぞれに付けられ城の中で何不自由ない生活を送れるようになっている。
「フランシスカ、いつも早起きだね、私も一緒に散歩をしても良いかな?」ルカスは早朝庭園に向かうフランシスカに声をかけた。フランシスカはドレスを持ち上げルカスに挨拶をし、「喜んで」と言ってルカスを見つめ微笑みを浮かべた。まるで薔薇の花が綻ぶような美しさがあり、ルカスは美しく穏やかなフランシスカをより深く愛するようになった。二人は毎朝薔薇の庭園を歩き、ルカスは毎日一輪のバラをフランシスカに贈るようになった。フランシスカはルカスから贈られるその薔薇をドライフラワーにし大切にした。
ある日フランシスカは幾重にも花びらが重なる薄ピンクの上品な薔薇を見つけた。まるで薔薇の女王の様に見える。そっとその薔薇に触れようと手を伸ばした時鋭い棘がフランシスカの指を刺した。ポタポタと真紅の血が薔薇に落ちた。「あ、美しい薔薇に血がついてしまったわ。ごめんなさい」フランシスカはハンカチを取り出し指に巻きつけようとした時、目の前に精霊が現れた。「美しい人フランシスカよ、私は薔薇の精霊。あなたの清らかな魂に触れ私はあなたを私の主人に選びます。」そう言ってフランシスカの手を取った。「薔薇の精霊、、私はそんな清らかな人間ではございません。私を主人に選ぶよりもルカス様をお選び下さいませ。」フランシスカはドレスを持ち上げ薔薇の精霊に言った。「フランシスカよ、私のもう一人の主人はルカスです。二人は私の大切な主人。二人の愛を見守っています」薔薇の精霊はそう言って一本の薔薇をフランシスカに手渡した。その薔薇は花弁が赤に花芯が白の美しい薔薇だ。「この薔薇はルカスのあなたを想う心。いつも見守っています」そう言って薔薇の精霊は消えた。その後ルカスが現れフランシスカは今あった出来事をルカスに伝えた。ルカスはフランシスカを抱きしめ薔薇の精霊にも愛されるフランシスカをより深く愛していった。日々を重ねる中で穏やかな二人の愛は着実に育まれ、お互いに生涯を共にするのはこの人しかいないと確信していった。
集団生活の中ではさまざまな授業があり、帝国の歴史から、近代文化、経済、魔法学ありとあらゆる勉強をする。その中で魔法は実践の練習もある。魔法の練習を行うには広大な土地が必要で、ナバス城の裏には魔法を使うための広大な土地があり、そこで実践訓練が行われる。
今ナバス帝国は同じ規模の大きさであるカンタン帝国と膠着状態であり、カンタン帝国との戦いを想定した訓練を行っていた。ルカスは炎の精霊イフリート、大地の精霊ノーム、水の精霊ウエディーネ、風の精霊シルフィードを召喚できる唯一の人間で、それぞれ公爵家当主の魔力を倍増させる能力を持っている。ルカスにサポートされた各公爵家次期当主達は最大限まで魔力を上げ、それぞれ公爵家の家宝である精霊の魔法石にその力を注ぎ、その精霊石が後継者の力を認めた時、改めて帝国の正当な公爵家と認められ地位名誉財産が守られる。次の代まではその地位を脅かされることは無い。その為、公爵家当主及び一族は代々絶対的な忠誠を王家に誓い、各公爵家の地位を古より守り続けてきたのだ。
フランシスカの使う炎の魔法はいつ見ても安定しており、そして美しかった。同じ魔法でも使う人間により炎の色や表れ方が変わる。フランシスカの炎は中心が白でその周りは真紅だった。
義理の弟ラミロも炎魔法が使えるが、その魔法は子供騙しのレベルでしかも炎の色は赤黒く禍々しかった。ラミロは欲深い人間で次期当主にフランシスカが選ばれてもタピア家当主に強く執着し自分を選ばなかったタピア公爵家や精霊石、そしてミラネス王家に不満を抱き始めていた。




