秋
秋になり草原の草は黄金色に変わった。
今日も魔法の実践練習で攻撃と防御を繰り返し続ける内容だ。
リアナはまだ居ない。
セリオはそれぞれが自分で工夫し練習する様子を見守っていた。
グロリアは水と氷を使い分け攻撃と防御をテンポ良く繰り返している。その隣のダフネも底なし沼や、岩壁、クレイターなどを使い攻撃を2回防御を一回など工夫しながら練習をしている。一方カルロスは攻防一体の戦い方を模索している。レオン、、、変芸自在に魔法を操り先が読めないが時々攻撃を炎で、防御を薔薇で行い薔薇を燃やしてしまう失態をしおそらく薔薇の精霊を怒らせているようで仕切りに謝っている。あの子は本当に男の子なのか?と思うほど最近表情が変わってきた。タピア家には確か長女がいたと聞いたが、急病で死んだと報告書に書いてあった。イフリートを召喚できる才能がありながらそれを両親に話したく無いと言い、父親が会いにきたと聞いて震える子、、歪な家族に思える。ウーゴ・タピア、、前妻は火事で死んだそうだが炎の家系、、そんなことありえるのか?ミラレス王家の精霊イフリートを奪ったレオン、全ての辻褄が合わない。反逆できる能力を持ちながらも信じてほしいというあの子は監視しているカルメラもいつのまにか心を許し、私も疑いながらも信じたい気持ちが強い、いや既にレオンを信じている。リアナ様はレオンはフランシスカだと言った。
フランシスカ・タピア。
ナバス帝国とルカス皇帝を裏切ることなく忠誠を誓い自決した女性。
ミラネス王家が密かに敬愛する美しい人。
セリオはレオンを見つめこの先平穏な日々が続く事を願った。類い稀な才能を持った人は平穏な人生を歩めないからだ。
帝国に初雪が降る頃、リアナは四人の前に姿を現した。相変わらず、いや前よりも美しく輝いて見える。それにさらに背が少し伸びているように感じた。四人は改めて納得した。歩けば求婚されるという噂は本当だとわかる。美しく上品ででもどこか容易く近寄れないオーラ、自分たちも普通の人間だったら絶対に近寄れないと全員が感じている。
「皆さんお元気そうで何よりですね」リアナは微笑みながら声をかけた。「はい!」四人は口を揃え返事をし、リアナに見惚れていた。特にクララは久しぶりに会えた喜びで泣きそうになっていた。(うれしい、、うれしい!!恥ずかしくてなかなかお顔を見れないけれど、同じ空気を吸えることが幸せ!)クララは嬉しさのあまり俯きながら自分の世界に入っていた。(ああ本当に本当に幸せすぎる!!)
「レオン、髪の色が変わった?」リアナが話しかけてきた。クララは話しかけてもらえた喜びと緊張で身体に力が入った。左手を胸に当てときめく気持ちを押さえながら顔を上げ言った。「髪が、に、にんじん、、色に、、」リアナはその言葉に笑い出した。「クスクス、、にんじん色、、レオンは相変わらずですね」クララはその言葉を聞き真っ赤になりながらリアナに笑いかけた。(ああ、リアナ様は優しく微笑んでくれた。ああ,もう死んでも良いです。)
「さあ、皆着席しなさい」セリオが声をかけた。クララは着席しリアナと久しぶりに会え話せたことに舞い上がっていた。(リアナ様は私の髪色が変わったことを気にしてくださったわ!それだけでも幸せ。リアナ様の前だと緊張して上手く話ができない。でもあのなんとかルオスとかいう詩人の男性、リアナ様の事が好きな令息達に川に投げ入れられたらしいけど、この美しい人に手紙を渡す勇気は誉めてあげたいわ。)
クララは久しぶりに会ったリアナに夢中になりセリオの話を全く聞いていなかった。「レオン、わかったかな?」セリオが声をかけた。クララはセリオに名前を呼ばれ我にかえった。「す、すみません!お話、聞いておりませんでした!」クララは早速リアナの前で失態をおかしてしまった事に恥ずかしくなり俯いた。「レオン、リアナ様が帰ってきてくださって嬉しいのはわかる。けれど話を聞かないと置いてゆかれるぞ!」セリオは笑いながら言った。「置いてゆかれる?!」クララはパッと顔を上げセリオを見た。「冬に二週間合宿をする。出発は一週間後,場所は北部の雪山だ。人が居ないから魔法が使えるもってこいな環境だ」セリオはそう言ってそれぞれ各自で合宿の用意をするように言った。なんと嬉しいことに、リアナも参加するのだ。クララは先程の失態を忘れてリアナの顔を見て近くにいられる喜びを噛み締めた。「レオン、寒い地域ですから暖かい格好で行きましょうね」リアナはそう言ってセリオと教室を出て行った。クララはリアナの後ろ姿を見つめながら話しかけてもらえた喜びを噛み締めていた。
「セリオ、久しぶりに会ったレオンの見た目が変わっている。髪の色も、表情も、、」リアナはセリオの執務室に入り開口一番に言った。「はい、リアナ様のおっしゃる通りです。」セリオはそう言って腕を組んだ。「セリオ、この合宿でレオンと話をしてみよう、私たちが不信に思っているタピア家の事を直接聞いてみよう。」リアナはそう言いながら窓際に移動し庭園の薔薇を見つめた。「はい、リアナ様、もう限界が近いかもしれません、全てを明らかにする時が来たのですね。」
リアナはセリオの言葉に頷き呟いた。「レオン、あなたは本当にレオン・タピアなの?」
その頃タピア公爵家ではウーゴとレオンが馬車に乗り込みタピア公爵領と隣接するミラネス王家の避暑地「北の雪山」に密かに向かっていた。一週間後に公爵家次期当主達がリアナとセリオに連れられ雪山で合宿をすると聞いた。その情報は王家から各公爵家に馬車を用意するよう通達があった時、ウーゴが事前に潜り込ませていた馬車の行者が密かに教えてくれたのだ。「良いかレオン、この機会を逃すな。自然にすり替わるのが一番だがそれが出来ない時はクララを殺しても、まあ仕方あるまい。どう転んでも我々は言い訳が出来るのだからこの際思い切ってやるのだ。」ウーゴはレオンの手をしっかりと握りしめながら言った。「はいお父様、雪山では雪崩などの自然災害がございます。実践訓練の時を狙って、、、仕掛けようと思っております」レオンは自信に満ち溢れた表情でウーゴに言った。「レオン、方法は何でも良いが出来るだけ自然にやるんだ。良いな?」ウーゴはレオンに念を押した。レオンは以前と違いそれなりに魔法が使えるようになった事もあり自信に満ち溢れている。「お任せください。自然な方法で事を運びますので心配は無用です」レオンはそう言いながら胸のポケットからリアナの肖像画を取り出し呟いた。「愛しいリアナ様、ようやく会える」




