白いミモザの花
城に来て六ヶ月、平穏な日々を送っていた。あれ以来ウーゴは城に現れない。クララはホッとしていた。そして相変わらずクララはリアナに対し淡い恋心を抱いていた。けれど同性に対する恋心は憧れだと思い出来るだけ意識をしないよう日々を過ごしていた。
さらに時はすぎ城に来て九ヶ月、クララの部屋の前のミモザが花をつけた。白いミモザ。クララはその見事な花を見つめていた。
「綺麗な花ですね」バルコニーでミモザの花を眺めているとどこからか声が聞こえてきた。周りを見回しても誰もいない。バルコニーから下を覗くが、やはり誰もいない。クララは首を傾げ「気のせい?」と呟いた。「レオン上にいますよ」クララはその声を聞き慌てて上を見ると上のバルコニーからリアナが顔を出しクララを見て微笑んでいた。「リアナ様!」クララは頭を下げ言った。「リアナ様そんなところから顔を出しては危ないです!」慌てるクララを見てリアナは嬉しそうに言った。「こんな美しい花を見たら覗きたくなるのは仕方のない事です。」クララはその言葉を聞き不思議に思い聞いた。「そちらのお部屋からもこの大木であればご覧になれるかと思いますが?」リアナはクララの言葉を聞き「フフフ」と微笑みクララに言った。
「そうですね、確かに見ることが出来ますが、レオンと見たかったので覗いたのですよ。レオンの部屋は別名白ミモザの部屋、一緒に見られて良かった。ではまた」リアナはそう言って体を引っ込めクララに手を振って去っていった。クララはリアナから一緒に見たかったと言われ心から幸せを感じた。(ああ!!嬉しい、、リアナ様にそんな事を言っていただけるなんて夢みたいだわ!!また来年もこの白ミモザの部屋で一緒に見れたらいいな)クララは白いミモザに触れながらそう思った。
城に来て一年が過ぎ皆十五歳になっていた。クララは十七歳、来年成人だ。体つきも女性らしく変わり男性として過ごすのも苦労している。髪も少し伸び定期的に赤茶に染めているが最近金色の要素が強くなり思うような赤茶にならなくなってきた。ハァ、悩みも年齢と共に増えていくのね。
クララは今日の魔法の実践が憂鬱だった。ここ一年リアナのサポートで魔力が安定し安全に魔法が使えるようになった。しかし今日、一人で魔法を使うのだ。クララだけではなく全員が標的に向けて魔法を使う。難しいことではないが、一人で使うことが久しぶりすぎて緊張している。一年前のあの失敗を思い出すと少し怖くなった。
城のエントランスでセリオと合流し皆で森に向かった。
「今日緊張するね」ダフネがベージュのローブを羽織りながら話しかけてきた。「うん、緊張する」クララも答えた。「今日誰からだろう?」カルロスが靴の紐を締め直しながら言った。「うーんわかんない」グロリアは長い髪を結びながら言った。「ま、頑張るしかないよね!」ダフネが言った。三人は口を揃え「うん!」と言って四人が集まりお互いにの手を握り「頑張ろう!」と気合いを入れた。
「リアナ様がいらっしゃった、整列!」セリオが号令を掛け四人は整列し頭を下げた。
「皆さん、今日は皆さんの頑張りの成果を見たいと思っています。よろしくお願いしますね」リアナは白いローブのリボンを結び直し四人に言った。「ハイ!」四人は返事をし、セリオに名を呼ばれるのを待った。「では、グロリア」セリオはグロリアを指名した。「はい!」グロリアは水色のローブを風に揺らしながら草原の真ん中まで歩き遠くに置いてある鉄でできた縦横三メートルほどの大きな正方形の標的を見つめ集中した。
グロリアは大きく息を吸い両手を天高くあげ呪文を唱えた「トレンテ!」すると水龍が現れ標的目掛けて一気に突き進み大きな口を開け標的を飲み込んだ。その瞬間四角い鉄の塊は元の形がわからなくなるほど変形し草原に転がった。見事な魔法にクララは思わず拍手をした。カルロスもダフネもつられて拍手をしてグロリアを迎えた。グロリアは少し照れくさそうに笑いながら戻ってきた。「思ったより上手くいってよかった!」セリオは「グロリア、素晴らしかったよ、言うことはないな」グロリアを誉めた。リアナも頷いている。グロリアはホッとした表情で「リアナ様のお陰で成長できました!ありがとうございます!」と言って微笑んで、三人に言った「次はあなた達よ!」三人は頷いた。
「次はカルロス!」カルロスはグリーンのローブのリボンを結び直し草原の中央に立った。カルロスは呼吸を整え先ほどのグロリアと同じ四角い鉄の塊を見て呪文を唱えた。「トルメンタ!」風が旋回しながらまるで矢のように標的に向かって突き進みそのまま鉄の塊を突き破った。四角の鉄の塊は真ん中に大きな穴が開きその穴から美しい空が見えた。
またもクララは拍手をしカルロスを称えた。グロリアもダフネも大きな拍手をカルロスに送り、カルロスは頭を掻きながら戻ってきた。「まあまあ,,だな!」カルロスは照れくさそうに言った。「まあまあ?凄いよカルロス、、あの鉄の塊に大穴を開けるとは、、」クララが言った。「カルロス、見事だ!なかなか精度も高く驚いたな、、」セリオはカルロスを誉めた。リアナも頷いて同意した。「リアナ様に言われた持久力を意識したおかげです。ありがとうございました」カルロスが照れ臭そうに頭をかきながらリアナに言った。「努力が報われましたね。素晴らしいです」リアナは大きく頷きカルロスに微笑んだ。




