それぞれの思惑
クララは図書室のいつもの場所に腰をかけセリオを待っていた。思い当たる事は父親のことだった。ウーゴはなぜここに来たのか、、。「カチャ」ドアが開きセリオが現れた。クララは立ち上がりセリオに一礼した。「レオン、掛けなさい」クララはもう一度頭を下げ椅子に腰掛けた。
セリオはクララの目の前の席に腰をかけ、いつものようにテーブルの上に手を置き両手を組んでクララに言った。「城の生活ももう三ヶ月か、、どうだ?慣れたか?」クララは優しく微笑むセリオに戸惑いながらも答えた。「はい、大分慣れました。皆さんとても親切で良くしてくださり、、」セリオはクララの言葉を聞いて頷いた。「良い仲間をもったな」クララはそう言ってもらえて嬉しくなった。「はい!」セリオは嬉しそうに返事をする様子を見、一呼吸入れてからクララに言った。
「レオン、タピア公爵が昨日城に来た。レオンに会いたいと」クララはその言葉を聞き一瞬で顔色が変わった。想像通りウーゴはクララに会いに来た。クララはウーゴの仕打ちを思い出し恐怖を感じた。首が締め付けられたような圧迫感があり息をする事が苦しくなった。しかしセリオに不審がられるとマズイと下を向き顔を隠した。膝の上の両手を握りしめ唇を噛んで必死で平常心を取り戻そうとした。「レオン、我慢しなくて良いし、ここは誰も来れない。」セリオは様子のおかしいクララに声をかけ心配そうに見つめた。クララはセリオの言葉に安心したが体の震えを止められなかった。握りしめていた両手で自分の首元を押さえ短く息を吐き顔を上げセリオに言った。「セリオ様、、私は、、父が、、なぜ私に会いに来たのか、、知りたいと思います。何か言っていませんでしたか、、?」セリオは恐怖に震える姿を見て優しく言った「レオン心配はいらない。公爵はとにかくレオンに会わせてくれの一点張りで、それにリアナ様にも会わせろと無礼な発言もした。もちろんすぐに追い返した。後継者を城に召集することは王家と公爵家の誓約があるから拒否もできなければ、連れ帰ることも不可能だ。ましてや突然城に会いに来ることも」
クララはセリオの言葉を聞き少し安心し首元の手をまた膝の上に置きセリオを見つめ言った。「父が、、ご迷惑をおかけいたしました。リアナ様にも心からお詫び申し上げます。」クララはウーゴが何を考えているのかわからず得体の知れない恐怖を感じた。リアナ様に会わせろなどそのような無礼な発言をするとは、、。ウーゴの不気味な行動と想像もできない思惑が恐ろしく、公爵家当主として品性の無いその行動が恥ずかしく涙が滲んだ。信頼できる人達を騙すような行為を強要したウーゴに、それを拒否出来なかった自分自身が情けなく恥ずかしくこのまま消えたいと思った。クララは奥歯を噛み締めセリオに頭を下げた。
「レオン、いつか、お前が抱えている事を話してくれ。力になりたいと思っている」セリオはそう言って微笑んだ。その言葉を聞きクララはより一層罪悪感で一杯になった。(私は既に皆さんを騙しているんです!!)クララは涙を堪えセリオに頭を下げ図書室を出て行った。
「で、レオンの様子を見てどう思われます?」
セリオは誰もいない図書室の脚立の上に向かって言った。「フフフ、またバレてた?」リアナは姿を現した。「今日あの子は私の方を見なかった。突然父親が現れた事で迷惑をかけたと思っていたのかな、、。」 リアナは足を組み首を傾け、こめかみに人差し指を当てレオンの事を考えた。
「あの男、ウーゴ・タピア、又思い出しても腹が立ちますな。礼儀知らずな当主で、エントランスの騎士にレオンを連れてこいと命令していまして。王家の騎士に、、ですよ」セリオは首を左右に振り呆れた様子でリアナに言った。
「すぐに戻すからレオンを連れて帰りたいと言うなど、、やはりタピア公爵家は、怪しい。何かを隠しているように思える。レオンは何かを強要されている?」リアナはそう言いながら先程悲しそうな顔で図書室から出て行ったレオンの姿を思い出した。
「ま、私は年甲斐もなく腹が立ちましてな、断ったら今度はリアナ様に会いたいなどと、会いたければ私を倒して行きなさいと凄んだら慌てて帰って行きましたわ、ハハハ」セリオは愉快そうに笑っている。「なぜ私に会いたいと言ったのかわからないが恐らくたいした用事はないはず。それよりもあの子、あんなに震えて、、ウーゴ・タピアがまた現れたらセリオあの子を頼む。」リアナはセリオに言った。「リアナ様,私たちはいつのまにかあの子の味方になってしまったようですね」セリオはそう言って笑いながら図書室を出て行った。リアナはその言葉を聞いて呟いた。「初めから味方だよ」
ウーゴは公爵領に戻り憤慨していた。「クララのやつ私が会いに行ったにも関わらず姿も現さず、代わりにセリオ様が現れ追い帰された!!それにレオンの将来の伴侶となるリアナ様にも会えなかった!」ウーゴは上着を脱ぎ捨てそれを踏みにじった。「あなた、そんなに怒らないでくださいませ,レオンが驚いているではありませんか。」マカレナは自分の後ろに立ち眉間に皺を寄せているレオンを見た。「レオン、すまないなクララを連れ帰れなかった。計画ではお前とすり替え城に行かせる予定だったのに」ウーゴは拳を握りしめしかめっ面をしているレオンの肩に手を置いた。「いいえ、お父様、お父様が悪いのではありません。姉上がお父様と私の邪魔をしたのです。姉上には必ずその代償を払って貰いますから」レオンはそう言ってウーゴに微笑んだ。「まあ、レオンは本当に優しい子ですわ。城にゆくために必死でダイエットした努力は必ず報われます。リアナ様はそんなレオンに必ず恋をするでしょう」マカレナはレオンを抱きしめた。「ああ、そうだ何も収穫が無かった訳では無い。クララと入れ替わるチャンスがある事がわかった。冬にタピア家の馬車を城に用意するようにと連絡があった。どこかに出かけるらしい。今年か、来年から定かではないがその時がチャンスだ」ウーゴはニヤリと笑った。「お父様、その時は私もご一緒して宜しいでしょうか?一刻も早く入れ替わりたく思います」レオンはウーゴの手を握りしめた。「ああ、勿論だとも、一緒に行こう。それまでにもっと魔力を上げておくんだぞ」二人の様子を見つめながらマカレナは息子の恋が上手くいくことを願った。あの日以来全てが思うままに進んでいる。義姉の死さえも。




