ウーゴ・タピア
カルメラはレオンが眠った事を確認し、セリオの執務室へ向かった。
「レオンの様子はどうだ?」セリオはいつものようにカルメラに聞いた。カルメラは表向きはレオンのメイドだが、実際は監視役を担っている。カルメラは城のエントランスでウーゴ・タピア公爵の姿をみたレオンが過呼吸になった事、部屋に戻り震えながら「家族が怖い」と言った事を報告した。「自分の父親の姿を見て過呼吸になった?家族が怖い?」セリオは呟いた。カルメラはさらに話を続けた。「レオン様はソファーの上で膝を抱え落ち着きない様子でした。それに家族がこの部屋に来たらと不安がっておりました。ですのでこの部屋に入る事家族であっても入ることは出来ませんとお伝えするとホッとした様子でいらっしゃいましたが,それでも少しすると挙動不審と申しましょうか?終始落ち着きない様子でいらっしゃいました。」
カルメラは怖がるレオンの姿を思い出し胸が痛んだ。(過呼吸になる程父親が怖いなどどんな生活を送ってきたのだろう?)
「そうか、、、。その他変わったことはあるか?」セリオは指先でこめかみを軽く押さえ何か考えているような様子でカルメラに聞いた。「はい、あとは相変わらず入浴や着替えはお一人でなさいます。レオン様はほとんどの事をご自分でなさいます。それもさも当たり前のような素振りで、ここにいらっしゃる前からそうされていたのではないかと思うほど、、。それに、、」カルメラは少し言い淀んだ。「カルメラ、隠さず話しなさい。王家にとって、リアナ様にとって大切な事だ」セリオは躊躇するカルメラに言った。カルメラは重ねた手を少し握り言った。「レオン様は眠っている時、、時々、、お父様お許しください、これ以上打たないで、、、と寝言を言いながら涙を流しております。それに何度もこんな事をしたくないと、、。」カルメラはレオンが家族に邪魔者扱いされていたのではないかと疑っている。しかし一介のメイドが憶測でそのような事を言って良いのかわからず躊躇したのだ。
「まさかレオンは家族に虐待されていたのか?、、こんな事をしたくないとは、、一体、、」セリオはカルメラを見た。カルメラもその意味がわからない。「セリオ様、引き続きレオン様を注意深く監視致します。、、あの、レオン様は大丈夫でしょうか?」カルメラは遠慮がちにセリオに聞いた。「?大丈夫とは何のことだ?」セリオはカルメラに聞いた。……「レオン様は心優しいお方だと感じています。だから、、タピア公爵様に、、」「カルメラ心配しなくて良い、ウーゴ・タピア公爵は帰ってもらった。レオンが会う事もない。引き続き頼むぞ」セリオはその言葉を聞いてホッとした様子のカルメラを見て何とも言えない気持ちになった。(監視役のはずがレオンの心配をしている。でも確かにレオンは純粋な人間だと私にも分かる。もう少し様子を見守ろう。)
「セリオ、レオンはなぜ家族が怖いと言った?」カルメラが部屋を出たあと姿を消していたリアナが姿を現しセリオに聞いた。セリオは腕を組み少し間を置き話し始めた。「状況から判断しますと、おそらくレオンはタピア公爵家で大切にされていなかった、自分のことを自分でしなければならない状況にあり、ウーゴから虐待を受けていた可能性が高いと思います。」リアナはレオンの不安定に揺れる瞳を思い出した。(全く自分に自信が持てない様子、高い魔力を持ちながらも不安そうに俯くあの姿、どんな生活を送っていたのか?過呼吸になる程父親を恐れ震える等普通じゃない。)リアナは腕を組み部屋の中を歩き出した。
「セリオ、レオンには姉がいたと聞いた。いつ死んだ?なぜ死んだのか知ってる?」リアナは窓際に移動しライトアップされている庭園を見つめセリオに聞いた。「確か二つ上の姉がいてレオンがここに来る少し前に死んだとだけ聞きました。」セリオは少し違和感を感じている。(確か姉はその当時当主だったルシアナ・タピアとウーゴの子供、レオンは後妻でルシアナの異母姉妹の妹マカレナとウーゴの子供。ウーゴはレオンを次期当主として厳しく育てたのか?)
「ますます謎が深まりますね」セリオはため息をはいた。リアナは庭園を見つめながらレオンが寝言で言った言葉を思い出していた。「もう打たないで。こんな事したく無い。」
(レオンは何を隠しているのだろう?まさか、、。いや、確信が持てない疑問は口に出すべきじゃ無い。ただわかる事はレオンは決して私を裏切る人間では無い。それだけはわかる。精霊に愛され、澄んだ魔法を使え、一生懸命に信じて欲しいと涙ぐむあの姿を疑う事は出来ない。それよりもレオンが抱えている問題を知り、解決してあげたいと私もセリオも、、カルメラも思い始めている。)リアナはセリオの方に振り返り聞いた。
「ところでウーゴ・タピアは一体何をしに突然ここに来た?」リアナはウーゴの不可解な行動に疑問を感じた。「レオンを一度連れて帰りたいと言いましてな、非常識にも程がある。王家との誓約上それは出来ないと言ったのですがレオンは私の息子ですからと訳のわからぬ理屈を述べましてエントランスで大騒ぎしていたのを見かねて凄んで追い返しました。、、はぁ、。あの男が当主となってからタピア家の評判は悪いのです。」セリオはあの男がレオンの父親だと思うとレオンがかわいそうに思える。しかも虐待疑惑まである。「あ、それに、、リアナ様にも会わせろと口走りましてな、無礼にも程がある!」セリオは眉間に皺を寄せ言った。リアナは少し間を置きセリオに言った。「セリオ、なぜ私に会いたいと言ったのか気になるが、それ以上に気になるのはセリオが珍しく感情的になっている。セリオ、レオンが可哀想に思える?」リアナはセリオの心境の変化を感じ微笑んだ。「ええ、私の大切な生徒ですから守りたいと思うのは当たり前の感情です。でも、、まだ百パーセント信じているわけではありませんが、、」セリオはそう言って又ため息をはいた。
「セリオ、ため息を吐くと周りが幸せになるらしい。私は幸せになれるかな?」リアナは又窓の外を見つめ言った。「リアナ様、フランシスカの薔薇が咲いたのです。幸せになれると信じましょう」セリオも窓の外に広がる薔薇の庭園を見つめ言った。




