この感情は
「なな、何を仰いますか?!リアナ様に危害を加えるなどあり得ません!!絶対に!!!わ,私ももし リアナ様のお立場でしたら間違いなくそう思うと、レオンは怪しいと思うと思います。でも、私は全員が私を疑っても、私は私の信念を裏切る事はありません!!」
全身の血の気が引いた。無防備な心臓に鋭い剣を突き刺さされたような凍えるような痛みを感じた。その痛みは全ての熱を奪い身体が小刻みに震え出した。
疑われても仕方がないと半ば諦めかけていたが実際リアナ様から直接言われると心底つらい。ずっと堪えてきた思いが溢れてきた。何をしても疑われている事はわかっている。実際レオンのふりをしてここにいることさえも許されないし反逆と言われたらそうだ。
でもリアナ様の命を狙い、ミラネス王家に反逆するなどありえない。けれどそれを証明する手段がないのも事実だ。悔しいし,悲しい。リアナ様にも信じてもらえない事実はあまりに寂しい。溢れる感情は涙にかわった。
「も、申し訳ありません、」クララは立ち上がりリアナに一礼して立ち去ろうとした。「レオン,待って」リアナは咄嗟に立ち上がりクララの腕を掴んだ。突然腕を掴まれ驚いたクララはリアナを見つめた。リアナ様、、力が強い?
「薔薇の誓い、、」リアナが言った。「薔薇の誓い、、ですか?」クララが聞き返した。リアナはクララの腕を掴んだまま言った。「そう、薔薇の誓い、ミラネスとタピアの誓い、、ルカスとフランシスカの誓い、、」クララは涙を拭いながら声を震わせリアナに言った。「わ、私の事を信じていただける手段が薔薇の誓いであれば誓います、、。い、今すぐにでも!!」クララはリアナを真っ直ぐに見つめた。二人は見つめ合った。
その言葉を聞きリアナは微笑みながら言った。「どっちの誓い?」クララは戸惑った。薔薇の誓いって種類があるの?「よくわかりませんが、、どっちもです!」その言葉を聞いたリアナは声を出さず笑っている。「クスクスッ」リアナは掴んでいた腕を離した。口元に手を当て楽しそうに笑うリアナは輝くように美しい。クララは突然笑い出したリアナに見惚れた。
リアナ様が笑っている、、、。その笑顔を見るだけで凍りついた心臓に血が通う。リアナ様はなぜ笑っているのかしら?薔薇の誓いには様々な種類があるの?何もかもわからない。「あの、内容がわかりませんので勢いで言ってしまいましたが、、何か問題でも、、」クララは楽しそうに笑うリアナをみて緊張が解れてきた。
レオンの表情が柔らかくなった。目の前にいるレオンの緊張が解れたのを見て少しホッとした。レオンを泣かせるつもりはなかった。彼がここに来てもう一ヶ月近いが、一向にレオンの事が掴めずつい心にも無い事を言ってしまった。本当は、精霊の主人になっているレオンの魂は誰よりも清らかだと私は知っている。だからレオンの純粋な涙を見て心動かされ薔薇の誓いの話をした。王家とタピア公爵家が誓う薔薇の誓い、そして、、。目の前にいるレオンの両手を握り言った。「問題、、、そう、問題はその内容をレオンが知らないと言うこと、どうせ誓うなら内容を知って誓ってもらわないと、、」そう言って顔を近づけ目を細めた。
「リアナ様?!わ、、わかりました。私は勉強不足で大切な内容も知らずに失礼なことを言ってしまいました。、、、でも、、誓いがなくとも、、私はリアナ様を裏切る事はありません。あ、でも、、裏切っているのかもしれません、、でも、、絶対に裏切りません、、」クララは間近にあるリアナの顔を見てその近さにパニックになった。それに手を、、手を握られている。
恥ずかしい!!もう訳がわからないしこんな間近で見つめられると頭の中が沸騰して死にそう!緊張と恥ずかしさと信じて欲しい気持ちが混ざり合い自分がレオンの替え玉だと言うことを思い出し後ろめたい気持ちを言わずにいられなくなった。
リアナは掴んでいる両手をキュっと握りさらに近づいた。クララはリアナの息遣いがわかるほどの距離感に頭の中が真っ白になった。「、、、もう少し私に慣れてくれると嬉しいな」耳元でリアナが言った。クララはその言葉を聞き我にかえるとリアナはパッと消えた。
クララは息ができないほど胸が苦しくなりその場にしゃがみ込んだ。頭に血が上り心臓が暴れ出したように鼓動が激しく何も考えられなくなった。その後どうやって部屋まで帰ったのか全く覚えていない。
その夜クララはリアナのことばかり考えていた。リアナ様は私を信じてくれている?なんとなくそう感じている。その理由はわからない。クララは掴まれた腕を,握られた両手を見つめた。リアナ様、、意外に力が強くて驚いた。リアナ様は私よりも背が高い。すらっとした長い手足。まるで女神様の様だわ。あの美しいリアナ様に手を握られるなど一生の思い出になりそう。それに耳元で言われた言葉、、、。クララはリアナに言われた言葉を思い出し体が熱くなった。あー!おかしくなりそう!!ソファーに腰をかけ紅茶を飲んでいたクララは徐に立ち上がりベットに飛び込んだ。そのままうつ伏せになり両足をバタバタとし枕を抱きしめた。
突然ベットに飛び込んでいった様子を見たカルメラはレオンの具合が悪いのかと思い心配をした。大丈夫ですか?と声をかけようとしたがどうも様子が違う。何か、、良い事があった?いつも悲しそうに俯いているレオンの顔が喜びに輝いている。恥ずかしそうに顔を赤くし枕を抱きしめる姿を見てカルメラは一人にしてあげようと思いそっと部屋を出た。
クララは枕を抱きしめながらずっとリアナの事を考えていた。
十四歳のリアナ様は女神様の様に美しい。四年後は十八歳で成人だわ。大人になったリアナ様はきっとさらに輝きを増し社交界に出たら大変な騒ぎになりそう。
リアナ様は皇女様だから将来お婿さんをむかえるのかしら?好きな方と結婚できると良いけれど。リアナ様が好きになる方って、結婚する方ってどんな男性なんだろう?クララはリアナの結婚を考えて胸が痛んだ。切ない。なんだろうこの気持ちは、、、。
結婚か、、。私の母もそうだったけれど王族や貴族は政略結婚なのかもしれない。貴族に生まれたら仕方がないことだけど、でもカルロスやグロリアを見ていると自由に恋愛をしているし、幸せそうにみえる。恋愛,誰かを好きになるってどんな気持ちなんだろう、、一度でいいから恋をしたい。でも、、私には無縁の話。今は男として、レオンとして生きている。そして本当の私、クララはこの世にいないはずの人間だから、、。




