薔薇の精霊
「お母様、私は城にゆきたい」レオンはベットの上で食事を貪りながら母親のマカレナに言った。「レオン、なぜ城に行きたいの?」マカレナは堕落した生活をする息子を咎めることもせずひたすら食べたいものを食べさせ、甘やかせている。巨漢になりなかなか自分から動こうとしなくなった愛息が城に行きたいと言った。動きたくないと言って部屋から出ようとしなかったレオンが城に行きたいと言うだなんて!マカレナは息子の前向きな発言に瞳を潤ませ、その油ぎった髪を優しく撫でながら聞いた。
「お母様、私はリアナ皇女に会いたい」レオンは胸のポケットから新聞の切り抜きを出しマカレナに見せながら言った。「まあ、レオン、皇女様を好きになったの?!」レオンは油ぎった顔を崩し肉の重みで細くなった瞳をさらに細くし恥ずかしそうにニタリと笑った。その様子をみたマカレナは驚きと共に息子の初恋を喜んだ。先日十四歳になったミラネス王家の跡取りが発表された。美しい皇女でその姿を新聞でみた貴族たちはこぞって皇女のお披露目を喜び、我さきにとお祝いの品を城に届けていると聞いた。
もしレオンが皇女の夫になったら、、マカレナは邪な考えを持ち始めた。今、タピアの後継者としてクララがレオンの身代わりとして行っているが、それをうまく利用出来ないか、、、。「レオン、お母様に任せなさい。でもね、リアナ皇女様に会いたいならまずダイエットしなきゃ、、頑張れる?」マカレナはレオンの頬にキスをしながら聞いた。「お母様、出来るよ、リアナ皇女に会いたい、早く会わないと他の男に取られちゃうから!!」レオンは泣きべそをかきながらマカレナに言った。「ではお母様と一緒に頑張りましょう」マカレナはそう言いながらレオンを城に行かせる方法を考えることにした。
翌朝クララは早朝に目覚めた。なぜか昨日庭園で見た薔薇を眺めたくなり早朝の庭園に向かった。城の中央にある大きな道を横切り、少し歩くと薔薇の庭園に入った。辺りに薔薇の香りが漂い気分が華やかになる気がした。「確かこの辺り、、」クララは昨日リボンが飛ばされた場所に行き、真紅の花弁に花芯が白の薔薇を探したが、見つからない。「どこにいるのかな、、」クララは独り言を言いながら薔薇を探すと「ここにいる」と声がした。クララは誰かがいるのかと思いキョロキョロ辺りを見回すが誰もいない。「気のせいか、、」クララはふとブーツの紐が解けていることに気がつき、かがんで結び直した。それから立ち上がり顔を上げると真白なドレスに真紅の髪、緑の瞳をした女性が目の前に立っていた。
突然現れた女性に驚きクララは後退りをし、声を出さないように口元に手を当てながら見つめるとその女性はクララに対しドレスを持ち上げた。「あなたが私の主人です」その女性が言った。クララは意味がわからず「あの、、どなたでしょうか、、?」とその女性に聞いた。その女性はにっこりと微笑み言った。「薔薇の精霊。あなたは昨日タピアの当主として薔薇の契約をいたしました。覚えていませんか?」クララは全く身に覚えがなく戸惑った。「いえ、あの、全く、、身に覚えがありません、、人違いではありませんか?」クララは薔薇の精霊を見つめ言った。「ルカスの薔薇にタピアの血が混ざり、フランシスカの薔薇が時を経て咲きました。薔薇の精霊はあなたを主人に選びました。五百年前からの約束」薔薇の精霊が言った。「ルカスの薔薇?フランシスカの薔薇?血?、、あ、昨日のあの薔薇ですか?真紅の花弁に白の花心、、」クララは思い出した。棘が刺さりその血が薔薇の上に落ちた。
「そうです。あのルカスの薔薇はフランシスカの薔薇に変わった。あなたの血を持ってフランシスカの意思が受け継がれ、あなたは薔薇の精霊を召喚できるようになりました。ずっとあなたを待っていました。」薔薇の精霊は言った。
「何が何だかわかりません、、確かに私はタピア家の者です。ですが後継者ではありませんし、母が亡くなり、薔薇の契約についてなにも学んでおりません。選んでくださって光栄ですが、私はなにひとつ自分の意思で動くことができないのです、、。ごめんなさい他を当たって下さい。」クララは素直に今の現状を薔薇の精霊に言った。
「あははは!」突然薔薇の精霊が笑い出した「こんなに笑ったのは五百年ぶりです。クララよ、間違いなく私の主人はクララです。私に会いたかったら名前を呼んで下さい。名前はロサブランカ」薔薇の精霊はそう言って目の前から消えた。ロサブランカがいた場所には一輪の薔薇が落ちていた。白い花弁に真紅の花心。クララはその薔薇を拾い上げ見つめた。昨日と真逆にかわっている、、。薔薇の契約、、王家とタピアの契約だと聞いている。内容は、、わからない。薔薇の精霊と契約が出来たと言うことは、王家との契約が出来たと言うことなのか、またはそこから初めて王家と契約が結べるのか全くわからない。それに、、あの薔薇の精霊ロサブランカは私をクララと呼んだ、、。




