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薔薇と炎の物語  麗しの皇帝様、、私、訳あって男のフリしてますが可愛いリボンが大好きです。  作者: ねここ
第一章

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神殿


クララは神殿に入った。静寂な空間が心の小波を穏やかに導いてくれる気がした。

 図書室を出てずっと泣き続ける私をみてカルメラがここに連れてきてくれた。涙を拭き今日の事を考えながら歩いていた私は神殿の前に着くまで気が付かなかった。それほどまで心が追い詰められていた。けれどカルメラの優しさが一筋の光となって心に届いた。ありがとうカルメラ。


 クララは最前列に腰をかけ祭壇にある真白な大理石で作った美しい女神像に向かって両手を組み頭を下げた。誰もいない空間で最初に浮かんだのは母の事だった。

 火事の最中に母は私を産み息絶えた。私は母の顔を知らない。肖像画もあの火事で燃えてしまったと聞いた。なぜ火事になったのか?タピア公爵家は炎を扱う家系、炎に助けられることはあっても炎に殺されることはありえない。そんな小さな疑問から母親は本当に火事で死んだのかと父親のウーゴに聞いた。父は私の疑問を聞き烈火の如く怒りだし、タピア家が火事になったのは母が精霊を蔑ろにしその天罰を受け死んだのだと、タピア家の恥だと言いながら私の髪を掴み二度とその話をするなと顔を近づけ凄んだ。恐怖のあまり返事できずにいるとウーゴは鞭を手にした。打たれる恐怖と痛みで喉が締め付けられながらも「わかり、、ました」と返事をするとウーゴは納得したのか冷たい視線を向け「二度とくだらない質問をするな」と鞭を私に投げつけ部屋を出て行った。

 あの日から私が何か失敗する度に精霊に愛されない女から生まれたお前はタピア家の恥だと言い、お前も同じ目に合いたくなければ俺のいうことを聞けと言い続けた。


 義母のマカレナもウーゴと共に幼い私に言った。クララ、お前は精霊に愛されない女の娘。レオンは精霊に見放されたタピア家を救う大切な息子、レオンの役に立たなければタピア家から追い出す。

 マカレナは私の実母と腹違いの妹。レオンはウーゴとマカレナの子供だ。

 母のことになると異常に反応する父と義母をみてだんだんと母は殺されたのではと考えるようになった。心の片隅に母を手をかけたのはこの二人じゃ無いのかと疑う気持ちが常にある。

 妻が不慮の事故で亡くなって一月もたたぬ間にマカレナと結婚した父。生まれたばかりの私に母親が必要だからと言う理由だったが、マカレナは私の面倒を一切見なかったと乳母が教えてくれた。本当は、元々二人は母を裏切っていたのではないかと、邪魔な母と私諸共消し去りたかったのでは無いかと疑ってしまう。

 火事の最中炎の中で産声を上げた私は焼け死ぬこともなく、その炎はまるで私を守るように燃えていたと乳母がこっそり教えてくれた。この乳母の母親もその母親も代々タピア家の乳母として支えてくれておりその言葉も信頼できる。炎は一体誰から私を守ってくれていたのか。 

 

 母が亡くなっても精霊の魔法石の光は消えなかった。その理由はマカレナがいるからだと聞いた。だからレオンが正当な後継者だと言った所以だ。

 

 それならそれでよかったのにレオンの魔力が上がらず私が身代わりになりここにいる。不安で仕方がない。イフリートの主人になり、攻撃魔法を使うほど好戦的、、もしくは常に戦う事を考えていると疑われた。そのうえ薔薇の魔法まで使う。、、嘘をついて身代わりになってここにいる私は誰が見ても反逆者の要素があるように見える。

 


「私は反逆者ではありません。魔法の力なんて要りません、私の願いは穏やかに生きることです。どうかこれ以上試練を与えないで下さい。」クララは祭壇に向かって呟いた。祈りを捧げていると次第に心が落ち着いて来た。神殿の中は物音ひとつせずとても静かだ。クララは顔を上げ周りを見た。透明色の水晶と大理石で出来た神殿は天井が高く開放的に感じた。この城もそう、すべての建物の天井が高く開放的な作りだ。

 ナバス帝国のこの城は十八歳を過ぎたら出入りすることが出来る。いわゆる成人、大人として認められたら社交界に出ることができ、城でのパーティや舞踏会の招待状が届くのだ。だけど、公爵家の後継者は別。十四歳になったら城に入る。


 ああ、私は年齢さえ嘘をついているんだ。みんなよりも二つも年上なのに、一番情けない、、。


 クララは立ち上がり祭壇の前で揺れる大きな蝋燭の光を見た。これも炎、、、。同じ炎なら人を穏やかな気持ちにさせる炎を扱えたら良いのに、、。クララは祭壇に頭を下げ、出入り口に向かった。ランプと蝋燭の柔らかい光が神殿の中を照らしている。

 クララはゆっくりと通路を歩き時々立ち止まって神殿の中に広がる柔らかい光を見ていた。ふと背後に違和感を感じ後ろを振り返った。特に何もない。気のせいかと前を向こうとした瞬間黒い影が目の端に映った。驚きもう一度振り返ると祭壇の女神像が真黒に変色し禍々しオーラを放っている。クララは目を見開き後退りをした。恐ろしいほど禍々しさを感じる!クララはパニックになりながら周りを見回した。特に変わりはない。女神像だけがおかしいの?手に汗を握りながらもう一度女神像を見る。すると元通り白く美しい女神像が見える。え?さっきのはなんだったの?クララは目を擦ってもう一度女神像を確認したが白く美しい女神像のままだ。

 ああ、私、本当に疲れているのね、、。女神様が黒くなるなどありえないわ。クララは深く深呼吸をし、女神像に頭を下げ神殿を出た。


 外に出るとカルメラが待っていた。「カルメラ、ありがとうございます。気分が落ち着きました。」クララは笑顔を浮かべカルメラに言った。「少しでもお役に立てたなら嬉しいです。さあレオン様お腹がお空きでしょう?ご案内いたします」カルメラもクララに微笑み少し照れ隠しするような様子ですぐに歩き出した。クララはそんなカルメラに好感を持った。

 神殿は薔薇の庭園の近くにあった。クララの部屋からは見えない。カルメラは城の中央エントランスから入らず南の塔の一階の突き当たりにある通用口から城に入った。そのまま裏階段を上がり、クララは部屋に戻った。


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