あの子は何者?
セリオはクララの目の前の椅子に腰をかけた。「レオン、今日みんなの魔法を見てどう思った?」セリオはテーブルの上に手を置き指を組みながらクララに微笑み聞いた。その微笑みを見たクララは怒られると思っていただけに安心をし肩の力が抜けた。
「皆さんの魔法はとても美しく見ていて幸せを感じました。」クララも微笑みながらセリオに答えた。「それで、自分の魔法をどう思った?」セリオは続けて質問をした。クララは自分の魔法を思い出し眉間に皺を寄せた。
「自分の魔法、、最小限の魔法を唱えたはずなのに、、全くコントロール出来ていない上に、、知らない魔法まで、、魔法を怖く感じています。」クララは俯きながら言った。その様子を見ながらセリオは間髪入れず聞いた。「それだけ?」クララは顔をあげてセリオを見た。それだけとは?
セリオの顔から微笑みは消え、探るような瞳でクララを見つめている。
その様子を見てクララの全身に緊張が走った。「セリオ様、それだけとは、、」クララは嫌な予感がし言葉に詰まった。手のひらにじんわりと汗が滲む。
セリオはフゥーと息を吐き立ち上がりテーブルを挟んだままクララの方に上半身だけズイッと近寄り言った。「おかしいと思わないか?魔法はその人間の精神を表す、カルロスも、グロリアも,ダフネも攻撃魔法じゃなかった。しかしレオン、君はなぜ攻撃魔法を使ったんだ?」クララはその言葉に衝撃を受けた。
タピア家で魔法を初めて見せた時、漆黒の夜に暖かい光で庭園を灯す魔法を使った。しかしウーゴはクララに言った。「そんな子供騙しの魔法は見たくない、お前がどれだけ攻撃出来るか見せろ」それ以来魔法を見せるイコール攻撃魔法だったのだ。しかしきっと他の三人は違ったのだ。家族に魔法を見せてと言われた時にみせるその魔法は心の通った暖かいホッとするような魔法なのだ。
そんなことまで見られていたんだ、、。私が躊躇なく攻撃魔法を使った事、私が常に戦う事を考えていると思われたのだ。「誤解です!!私は決して戦いを好んでいる訳ではありません!」クララは慌てて否定をした。「レオン、人の心は分からないんだ。だけどその行動に心の片鱗が現れる。フランシスカ・タピア。彼女の死を無駄にするな。もう話は終わった。戻りなさい」セリオは顔を真っ赤にし泣き出しそうな顔をしているレオンの肩に手を置き退出を促した。クララは言い訳もさせてもらえない事がわかった。もう完全にセリオ様は私を疑っている。悔しい。クララは両手を握りしめ奥歯をグッと噛みセリオに頭を下げて図書室を後にした。
「で、リアナ様はどう思われる?」レオンが去り静かな図書室でセリオは脚立の上を見つめ言った。「ハハハ、バレてた?セリオには敵わない、、。」リアナが姿を現した。セリオは脚立の上で足を組み長い髪を無造作にかき上げるリアナを見ながら言った。「リアナ様は今日のレオンを見てどう思いましたか?」リアナは顔の前にサラサラと落ちてくる髪を片手でかき上げていたが、ふいに手を止め思い出したかのように言った。「あの子はいつのまにか薔薇の精霊ロサブランカから祝福を受けていた。そして信じられない事に庭園の薔薇の色が逆転していたのを見た。五百年間変わらず咲き続けていた皇帝の愛を表していた薔薇、真紅色の花弁に皇帝の心を現した白色の花芯が特徴のルカスの薔薇が、、白い花弁にフランシスカの心を現す真紅色の花芯、フランシスカの薔薇にかわっていた。フランシスカの薔薇は五百年の間一度も咲く事がなかった。それなのになぜ突然咲いたのか?、レオンはあのロサブランカに主人だと認められた事も偶然に思えない」
薔薇の精霊からの祝福。だからレオンは薔薇の魔法が使えたのだ。リアナの言葉を聞いたセリオはレオンが薔薇の魔法が使えた理由に納得した。
リアナは話を続けた。「おそらくレオンは無意識に契約をし交わした。薔薇の精霊は私の他にレオンを認めた。それにあのフランシスカの薔薇。だけどレオンは男、、彼女の血を引くタピアの人間に反応したのか?、、そもそもレオンは何者?高い魔力に不安定な精神」リアナは間を置いて言った。「それにあの子の瞳の奥は恐怖と悲しみしか見えない。イフリート、ロサブランカ、あの選ばれし者の預言書、フランシスカの薔薇。わからない事だらけ。だけど、通常とは違う流れを感じる。」
クララが図書室を出るとカルメラが待っていた。薄暗い廊下に立っているカルメラを見てホッとして泣きそうになった。だけど今ここで泣くわけにはいかない。「待っててくれてありがとう。部屋に帰ります。」クララは俯きながらカルメラに言った。「はい、では、、ご案内いたします」カルメラは歩き出した。クララは両手を握りしめ先ほどの事を考えながらカルメラの後をついて行った。セリオ様は私を疑っている。でも疑われても言い訳もできない。なぜなら私はレオンではない。レオンの代わりにレオンのフリをしたこの世に存在しないクララだから。歩きながら涙で前が見えなくなって来た。涙が溢れてしまう。せめて部屋まで我慢しようと思っていたのに。無言で涙を拭いながらカルメラの後をついて歩いているとカルメラがクララに声をかけた。「こちらへ」クララは顔を上げると目の前に美しい神殿があった。「ここは?」クララは涙を拭きながらカルメラに聞いた。「レオン様、今ここには誰もおりません。中に入ってゆっくりなさって下さい」カルメラは真白な扉に手をかけレオンに言った「どうぞ」クララは導かれるようにその神殿の中に入って行った。




