精霊王
エリアスの愛の誓いによって神殿の地下に続くドアも、名前を書いた階段も全て、ロサブランカの薔薇の蔓に破壊され、音のない世界のドアが剥き出しになっていた。エリアスはそのドアを開け中に入った。音のない世界は光に満ち溢れ小鳥が囀る美しい楽園に変わっていた。
これが精霊王の心の世界。美しく、音に溢れる有機的な世界。
「私の息子、エリアス、ようやくお前に会えた」
エリアス達の目の前に現れたのはエリアスに似た美しい顔、どこか中性的で、白く長い髪は絹糸のように輝いており、まとうそのオーラは柔らかく穏やか、けれど圧倒的な威厳を感じさせる精霊の王だ。
初めて姿をみる精霊王はエリアスをみて微笑み言った。
「エリアス、永遠と思われる神が定めたこの歪なループを終わらせる時が来た」
精霊王はそう言ってエリアスに虹色に輝く精霊王の魔法石を差し出した。エリアスはそれを受け取り言った。
「精霊王、私はまた愛する人を忘れ、絶望させて死なせてしまいました。私の生きる意味がその瞬間から無くなり、また会えるのならこの神のループを選びたいとさえ思い、いや、私はセリオの魔法が無ければ神のループを選んでいました。だけど、愛する人をまたこの手に抱きしめる事ができた今、ようやく終わらせる覚悟ができました」
エリアスはそう言って隣に立っているクララの手を握った。精霊王はクララを見つめ言った。
「クララ、君にも私の血が、神の血が混ざっている。あのルカスとフランシスカの末裔がお前で、ようやくあの二人の想いが報われたのだな」
クララは不思議な気持ちになった。夢であった精霊王が目に前にいる。この世界は精霊王の心の世界だと聞いた。まだ実体は封印されたまま。けれどその封印の力が弱くなり意識が解放されたのかも知れない。
「ありがとうございます。夢で、精霊王は私にヒントを教えてくださいました。そのお陰でエリアス様に思い出してもらえました。そしてようやくここに来れました」
クララは精霊王に頭を下げ答えた。精霊王はクララを優しい瞳で見つめ言った。
「今から神との誓約を破棄し、新しい世界をエリアスは作らなければならない、今からが大変な時だ。でもクララが、お前達がエリアスを支えるてくれると信じている。誓約などなくてもお前達はお互いに信頼していると」
その言葉を聞きカルロスが言った。
「はい!精霊王、私たちはエリアス様をずっと支えて参ります。誓約などいりません!」
その言葉にクララも、グロリアもダフネも頷いた。
「ありがとう」
エリアスは皆に方を振り返り万感の思いを込め言った。
「精霊王よ。私は何をしたら良いんだ?」
エリアスは聞いた。
「簡単さ、この世界で崇められている神殿全てを壊し、この私を封印する水晶を破壊し、ミスティルテインをこの大地に突き刺し、先ほど渡した魔法石を使い私を召喚してくれ、そしたら私を縛り付ける神から解放され新しい神の元で精霊王として生きられる。神は一人じゃない。人間と同じさ。良い神もいれば邪な神もいる。ここは後者だ。エリアスお前は半分神の血が入っている。私は神には逆らえない。なぜなら神は精霊を生み出したのだから。神の血を持っているお前にしか私を解放出来ないんだ。その前にエリアスよ。ようやくこの呪われたナバスの真実を話す時が来たんだ。」
精霊王は語り出した。




