眠るセリオ
クララは窓の外の壮大な景色を見つめながらダフネに言った。
「土の精霊を探しているの。どうしても必要で」
「クララ、何をしようとしているの?」
ダフネはクララがどこかに行ってしまいそうな気がし不安を感じた。
「ダフネ、自然って良いよね、全てが成るようにして成る。でも私たちって不自然の中で生きているように感じるの。絶対的忠誠心って魔法石がないと信じてもらえないのかな?私たちエリアス様に魔力を分けてもらわないと忠誠を誓えないのかな?対価がないと築けない関係って不自然だよ。私の考えは神殿の、神の考えから逸脱しているかもしれない。でも神って正しいの?私はこの目に前に広がる自然に宿る精霊の存在に生かされていると思っている。だから、この世界には精霊が必要で、私はこんな世界にした神様を倒すの。反逆者と言われたらそうかもしれない。でもその為に残りの人生その為に捧げるって決めたの。ごめんね、こんな話して」
クララは初めて本当のことを話した。今話さなければ二度と話せない気がし、ダフネの瞳を見て言った。ダフネの瞳の奥にいる本当のダフネに届くよう祈りを込めてクララは言った。
「クララ、よっぽど私達を信頼しているのね、他の貴族に知られたらあなた捕まるし処刑されるわ」
ダフネは真剣な顔でクララに言った。
「ええ、わかってる。でも私は友達に嘘は言いたく無いの。たとえ裏切られたとしてもいつか私が言ったことを理解してくれると信じてる。なぜなら私は絶対に成し遂げるから」
クララは目を細めダフネに微笑んだ。ダフネの瞳にはクララによりそう精霊が見える。心の奥底が疼く。ダフネは頭ではなく心でクララが言った事を理解した。
「クララ、信じる、クララを信じるよ。だってあなた命かけてるから、それほどまでに思ってやることだから」ダフネは涙が溢れてきた。その理由はわからないが、親友が命をかけてしようとしている現実に胸が苦しくなった。「ダフネ、信じてくれてありがとう」クララはダフネを抱きしめた。
「土の精霊はわからないけど、この森の奥に洞窟があって、生命の土と言われる土があるの。それはすぐに行ける場所よ。行ってみる?」
「きて早々行っていいの?場合によっては今夜の食事間に合わないかも」
クララは申し訳なさそうにダフネに言った。
「大丈夫、毎日狩するから!食事はいつでも大丈夫だよ」
ダフネは言った。クララはその言葉に感謝し、早速ダフネに案内してもらい生命の土の洞窟に行った。
その洞窟はゴツゴツとした岩が風と雨に削られ荒々しく尖っている見るからに何かありそうな場所だ。ここで間違いない。
「ダフネ行ってくる、先に戻ってて」
クララは洞窟に入って行った。
ピチャン、と水の滴る音が聞こえ、足元は少し濡れている。洞窟の入り口は狭く人が一人ギリギリの通れるくらいだが、洞窟の奥にに進むにつれ広くなっていた。
クララはどんどんと先に進んでいくと音のない世界にいた。音のない世界は明るく輝いている。
「お前は私に会いにきたんだな」
目の前に霧のような小さな粒子が集まり人の形になった。声の主はその粒子で出来た人型だ。
「クララと申します。あなたは土の精霊ですか?」
「私はノーミード、ノームは男、私は女、主に森や木々を司る」
クララは土の精霊はノームだけだとおもっていたが、違っていたことに驚いた。ノームはエアリス様の精霊、女のノーミードが居ないといけないんだ。
「あなたを主人と認めます」
ノーミードは言った。
「私はまだ何もお話ししておりませんが、大丈夫でしょうか?」
クララが言うと、
「あなたの周りにいる精霊が教えてくれたのよ」
そう言ってノーミードはクララの額に指を当てた。その時音のない世界に花々が瑞々しく咲き乱れ暖かい風が吹き空から眩い光が差した。
*
「エリアス様!大変なことが!神殿にある神の像の羽が崩れ落ち、地下から物凄い地鳴りが聞こえてきます!」
エリアスが執務室で書類を確認していると執事のフェデルが駆け込んできた。
エリアスはすぐに執務室を出て神殿に急いだ。神殿に入ると神の像の羽が崩れ落ちている。そして地下からは地鳴りの音が聞こえている。
(一体何が起きたのだ?!)
エリアスは神殿の祭壇前に安置されているセリオを見た。セリオは呼吸のない状態でここで発見されたが、その紫の魔法石は光を失っておらずそのまま安置していた。
しかし今セリオの顔は赤みを差し呼吸をしている。エリアスは驚きセリオの両肩を掴み、
「セリオ!セリオ!」
とその名を呼んだ。しかしセリオは目は覚めない。だが、死んだように冷たくなっていた体に温かさもが戻りセリオの精霊の魔法石が輝き出した。
(一体何が……)
不意に聖女の言葉を思い出した。
『炎が見える』
(クララが、彼女が何かをしているのか?)
エリアスの心に熱い感情が湧き上がる。何かを心が感じ、何かを思い出しそうになった。
「エリアス様!炎が、炎と薔薇がこの城を攻撃する姿が見えます!」
城に滞在していた聖女クルスが神殿の異変を感じエリアスの元に現れた。
「炎、、」
エリアスは呟いた。自分が言ったその言葉は頭にこだまする。
「はい、炎に薔薇を背負った後ろ姿が見えました、クララ・タピア」
聖女は言った。
「まさかクララ・タピアは謀反を?」
フェデルが呟いた。
(そんな筈はない。彼女がこの国を壊すなど、私のこの国に危害を加えるなど、信じられない)
エリアスは言葉を失った。




