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【完結済み】外れスキルの不遇魔導士、ゴミ紋章が王国軍ではまさかのチート能力扱いだった〜国営パーティーの魔王攻略記〜  作者: たにどおり@漫画原作
【番外・新大陸編】

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33・旅の終わりと、夢の終点

 

 俺は大の字に倒れながら、大きく息を吐いた。

 さっきまで溢れていたはずの気力を使い尽くしたのか、身体は全く動かない。


 あるのはただ、頬をジンジンと伝う痛みだけだった。


「ここまで計算していたのですか? ……大佐」


 俺の問いに、同じく大の字で倒れるラインメタル大佐は意外そうに、たぶん初めて聞く渇いた笑いと共に口開く。


「はっ……はは、まさか。さすがの僕もこういう決着になるとは思ってなかったよ」


「……でしょうね」


 お互い、今ぶつけ合った拳は間違いなく本気だった。

 殺すつもりだった。


 なのにこうして生きている、つまりその答えは一つだった。


「世界に残っていた最後の神力を……、1滴残らず使い尽くしてしまうとはな」


 最強の勇者対、最強の神殺し。

 本来ありえないぶつかり合いはこの世界を砕き、僅かに残留していた神の力を完全なるゼロにまで消費してしまったのだ。


 大佐の勇者としての力、俺の5属性紋章……この2つが同時に消費期限を迎えた。

 この決戦は、それ故の決着だった。


「締まらないですね……、せっかく貴方を殺すつもりでしたのに」


「僕もだよ、神の力の行使者を消す計画が––––こんな形で成就するとはね……。もし神がいるならさっきまでのセリフを返して欲しいところだ」


 神も神の遺した因子も消え去った世界に、むなしく声が響く。


 勇者でなくなったラインメタル大佐は、上半身を起こしながら視線を横へ向けた。

 城の中庭から、少女2人が駆けてくる。


「だが……おかげで彼女たちが悲しまずには済んだ、これもまぁ……悪くない」


「エルドさあぁ––––ん!!!」


 体を起こした俺へ、涙目になったセリカが抱きついてくる。

 顔を軍服の胸に押し付け、ひたすらに嗚咽を漏らしていた。

 いやっ、泣きすぎだろ……。


「良かった……っ! 今回ばかりは本当に2人共死んじゃうかと……っ!」


「そのはずだったんだけどな、まぁこの通り元気だからあんま泣くなよ。ほれ涙拭け」


 グシャグシャ顔のセリカへ、ハンカチを渡す。


「ずいぶん派手にやりおったもんじゃのぉ……、ワシがいなければセリカのやつ崩落に巻き込まれとったぞ」


 見下ろすヴィゾーヴニルに、立ち上がりながら大佐は答える。


「君が復活したのなら、思う存分やっても問題ないと思ってね」


「呆れた戦闘狂じゃのぉ……っで、おぬしの気は済んだのかえ?」


「あぁ……僕はもう二度と勇者の力を使えない。曲がりなりにも––––この世の勇者を全て殲滅する夢は叶った。これで思い残すことはなにもない」


「そうか……では」


 ヴィゾーヴニルは、ガラスのようにヒビ割れた空を見上げた。

 俺と大佐の戦いで、砕けてしまった世界だ。


「最後の後始末は……ワシがやろう」


 彼女の手には、勇者エルロラが持っていた宝具『インフィニティー・オーブ』が握られていた。

 槍のような先端を上に向け、彼女は精神を鎮める。


「世界樹の管理人は、怠惰な働き者だと言うことをおぬしらに見せてやるっ!」


 あらゆるものを操作できるという、伝説の宝具が輝く。

 ヴィゾーヴニルによって呼応した槍は、手術のピンセットがごとくその修復作業を開始した。


 一振りされるごとにヒビが埋まり、世界が徐々に蒼を取り戻していく。

 これが世界樹の管理者––––古の神獣、ヴィゾーヴニルか。


「よっし、こんなもんかのう」


「終わったのか?」


「目に見える範囲ではな、まぁ当分は大丈夫じゃろう」


 世界崩壊の危機は去った。

 だが––––まだ滅亡の危機は残っている。


「でもどうするんっスか……? この宝具、もし持って帰れたとしても……」


「あぁ、ミハイル連邦との戦争は避けられないだろうな」


 連合王国同盟とルーシー条約機構は、この『インフィニティー・オーブ』を巡って世界大戦を起こそうとしている。

 現に、沖合からは艦砲の撃ち合う音が聞こえてきていた。


 確かにこれを王国が確保すれば、軍事的優勢を確保できるかもしれない。

 けれど俺は––––俺たちを新大陸に送り出してくれた、親愛なる魔王の言葉を思い出す。


「ヴィゾーヴニル、槍を……俺にくれないか?」


 振り向いた彼女は、無言でそれを放ってくる。

 片手でキャッチした俺は、ラインメタル大佐に目で確認した。


「仕事としては別だが……僕自身はもうその神器に興味がない、君の好きにしたまえ」


「ありがとうございます、では––––」


 槍を両手に掴み、横にして持ち上げ––––


「アルミナ、お前との約束……果たさせてもらうぞっ!」


『インフィニティー・オーブ』を、全霊の力で膝へ叩きつけ真っ二つにへし折った。

 輝きを失った宝具は……光の粒子となって空に消えていく。


 永い役目を終え、深い眠りについていった。


「これで……争いの種は消え去った––––もう、2大陣営が争う理由はどこにもない」


「本当に……良かったんじゃな?」


「あぁ」


「そうっか、では––––」


 ヴィゾーヴニルが最後の力を振り絞って、全力全開の拡声魔法を展開する。


「あとはこの事実を––––伝えるのみじゃ」


 魔法陣に向かって、世界に向かって彼女は叫んだ。


『連合王国同盟、およびルーシー条約機構の全構成国家に告ぐ! たったいま神器『インフィニティー・オーブ』は神殺しエルド・フォルティスによってこの世から消え去った! これ以上の争いは一切の国益を生まない! ただちに全戦闘行動を停止せよ!!』


 ヴィゾーヴニルが叫んで数秒後……、沖合で鳴っていた砲声が徐々に止んでいった。


「伝わったんス……かね?」


「連邦側もスペツナズの全滅は悟ったはずだ、手札を失った彼らにこれ以上粘る理由はないだろうからね」


 大佐の言う通り、やがて水平線上に数隻の王国海軍駆逐艦が姿を現した。

 どうやら、あれが俺たちの迎えらしい。


「結局、最後以外は大佐のシナリオに踊らされた旅でしたね……」


「ハッハッハ! そんなことはないよ、正直言うと君たちが新大陸に来るとは思ってなかった」


「えっ、そうなんッスか!?」


「だってそうだろう、極度に奥手な君たちじゃヴィゾーヴニルくんに苛立ったとして、いつ神器の存在を知って新大陸に来るかわかったもんじゃない」


「えっ……じゃあそれって」


 顔をヒクヒクさせるセリカに、ラインメタル大佐は笑って見せた。


「君たちが良き恋仲としてやってくれてる、僕の中で一番低かった可能性をまさに実現していた。ただそれだけだよ」


 顔を熟れたリンゴみたく真っ赤にするセリカ。


 楽しそうに笑うヴィゾーヴニル。


 夢を達成し、どこか満足そうなラインメタル大佐。



 俺とセリカの恋人生活を賭けた新大陸における冒険は、今終わりを迎えた。


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