15・勇者VS英雄
「こんなことが、こんなことがあってたまるか……! 俺は最強だ、絶対王者たる大英雄を––––舐めるなぁッ!!」
グランの持つ剣が蒼焔に包まれる。
勢いよく振られると同時、超高温の濁流がラインメタル大佐を直撃した。
「『イグニール・ブラストウェーブ』!!!」
猛烈な焔の波が押し寄せる。
だが、当の大佐本人はゆっくり前進を開始した。
勇者モードとなった彼に、もはや一端の上級魔法で傷をつけるのは不可能だ。
「君は確かに強い……、しかし所詮は井の中の蛙だ。大海を知らない青二才とは残念ながらレベルが違う」
地を蹴ったラインメタル大佐は、焔の波を一直線に突き破る。
回し蹴りをグランへ浴びせてすぐ、連続で拳を打ちつけた。
「ゴアっ!?」
一発一発が銃弾並みに重く、意識が途切れそうになる。
「君に必要なのは力じゃない、周囲を気遣う大人の態度だ」
「ッ……!! 黙れっ! 俺は強くなければならないんだ! 配慮や遠慮など弱者の妄言に過ぎん!!」
剣を叩き下ろす。
コンクリートすら溶断する一撃だが、ラインメタル大佐は素手で掴み止めてしまう。
「圧倒的な強さと暴力が魅惑的なのは認めよう、だがそれは決して健康に良くない劇薬だ……。ましてそれが国家を凌駕しかねないなら尚更な」
「どう言う意味だ……ッ!」
「言葉のままさ、国家は暴力を独占したがる。対して君はどうだ? 軍隊すら上回る能力で暴れ回り、わがままを貫いている……これじゃあ行き着く結末は1つだ」
互いに距離を取り、向き直る。
激しい息遣いのグランと対象的に、ラインメタル大佐はまったく呼吸を乱さず続けた。
「もし国家と相いれず暴力を愛し続けるなら、君はいずれ全てを失うだろう。妹のカレンくんやパーティーメンバー、そして己の命」
動揺したのか、グランの剣先が僅かに揺れる。
「今の君じゃどうやっても僕やエルドくんには勝てない、もし国の密命でグランくんや関係者の抹殺が決まったなら……逆らう術はないぞ」
「国を救った救世主を……、ミリシアが殺すってのか?」
「国家とは打算で動く集団だ、魔獣王が死んだ今なら––––君は既に用済みと言っていい。グランくんが死んで困る人間は時間を増すごとに減るだろう」
「……ッ!!」
しばらく硬直した大英雄だが、それでも剣は下ろさなかった。
「黙れっ……! 黙れ黙れ黙れッ!! 俺は救世主だ! 勇者に説法垂らされる義理なんぞない!!」
「そうか……、一応親切心だったのだが」
ラインメタル大佐から、金色の魔力が柱のように噴き上がった。
地面にひれ伏しそうになるほどの威圧感が、ビリビリと吹き荒れる。
「口で言ってわからないなら……ぜひ拳で語らおうじゃないか、グランくん」
その場から跳躍した大佐は、弧を描きながらグラン目掛けて突っ込んでいった。
魔力の輝きが夜空を昼のように照らす。
「来い勇者!! 俺は逃げも隠れもしない!! 絶対に屈服などせんッ!!!」
六角形の焔が、何重にも重なっていく。
アサルトライフルの一斉射撃すら防いで見せた、最強の防御魔法だ。
「『イグニール・ヘックスグリッド』!!!」
自身の誇る最強の技で、正面から真っ向勝負。
これがただの人間であれば、突破など決してできないだろう。
ただ今回に限っては、いかんせん相手が悪すぎた……。
「ぬぅんッ!!」
弾道ミサイルのように突っ込んだラインメタル大佐は、『イグニール・ヘックスグリッド』を容易くぶち破った。
四散する焔の欠片、迫った拳が自身の顔にめり込んだ瞬間––––グラン・ポーツマスの意識は吹っ飛んだ。
「まっ、残当だな……」
「でも良い勝負だったッス、個人的にはナイスファイトでした」
『ウム、潔しじゃ』
観戦していたエルド、セリカ、ヴィゾーヴニルは口々にグランの健闘を讃えた。




