4・落ち着かない船旅
やーっとこっちを久しぶりに書けました、不定期更新ですがよろしくお願いします
「いやー、海は良いッスね〜エルドさん」
カモメの声が響き渡る。
周囲を大海原に囲まれ、波音に揉まれながら俺たちは旅客船に乗っていた。
甲板には新大陸へ向かう観光客がいっぱいおり、わきあいあとした和やかなムード。
本当なら俺もそういう気分でいたいのだが......。
『なーんじゃカップルだらけじゃの〜、おまけにこの船とやら、乗り心地最悪すぎぬかえ?』
文句の多いウチのお嬢様ことヴィゾーヴニルが、文句を垂れる。
「お前のためにわざわざ国防省騙してまで新大陸に行くんだが?」
『そこはわかっとるが、どうも海というのは苦手じゃ......。大地に足をつけねば安心して寝られもせん』
「お前いま足どころか体すらねーだろ」
『おぉ、そうじゃった!』
相変わらずマイペースなのじゃロリである。
たぶん、こいつは今まで地に根を張ったユグドラシルの上に住んでたから海に慣れていないのだろう。
しっかし、とんだ強行軍を始めてしまったな......。
アルミナの言葉を思い出す。
『新大陸への定期便がトロイメライから出てるわ、船のチケットと入国用の身分証やパスポートはこっちで用意してあげる。そこから先はあなた達次第よ、頑張って』
なんて彼女は言ってたが、完璧に隠し通せるのは1ヶ月くらいだろうと俺は予想している。
「なぁセリカ、新大陸に着いたらどうする?」
「そうッスねー......、まずは現地の美味しいもの食べましょ! 神器を探すのはそれからでも遅くないですし」
『初っ端から寄り道すなぁっ! おぬし、マジメに探す気あるのか!?』
「もちろんありますよー、でも急いてどうにかなるものじゃないでしょ? ヴィゾーヴニルさんはエルドさんと味覚も共有してるんですし、観光がてらゆっくり行きましょう」
『呑気じゃのー......』
全くだ、初めてトロイメライに行った時もアイス屋をリサーチして女子力見せつけてきたっけ。
ホント変わらないやつ。
「で、この船は新大陸のどこに向かってるんだったか?」
俺の問いに、自前の遠征ノートをめくるセリカ。
「えーっとですね、新大陸のミリシア王国というところッス。なんでも文化的発展がめざましくて、ウチの国と仲がいいです。あと......」
彼女は顔を上げて続けた。
「ジーク・ラインメタル大佐が、駐在武官として派遣されてる国でもあります」
「それはデカいな......、でも」
俺とセリカは、同様のことを思った。
「今回は『連合王国同盟』と、『ルーシー条約機構』を秘密裏に出し抜く形となる。最悪......」
そう、それは最悪の可能性......。
「あのラインメタル大佐を敵に回す可能性すらあるということだ、残念だが頼ることはできない」
「うぁ〜......、あの人出し抜くとかきつそうッスね」
『キツいどころじゃない、女神アルナを殺すよりハードだ」
あの人を倒す方法なんてマジでわからん。
なんたって、あの赤軍がPTRD1941対戦車ライフルを奇襲で撃って返り討ちにあっているのだ。
あれって確か音速の3倍とかいう弾速なのに......。
「まぁ悩んだところでしょうがない、今は船旅を楽しもう」
柵にもたれ掛かったとき、紋章から声が響いた。
『のうエルド、この船に戦闘能力はあるかえ?』
「民間の船だぞ? 海軍の艦とは違うに決まってるだろう。無い」
『いやな......、どうも真下に何かいる気がするのじゃ......』
一瞬魔獣を疑ったが、魔王軍とは同盟国だ。
航路の制海権は確保しているはず、いや......!
「セリカ!! 柵から離れろっ!!」
「えっ!? はっ、はい!!」
俺たちは全速で甲板中央へ走った。
直後、右舷の海面が盛り上がったのだ。
海中から浮上したそれは“船”だった、それも水上艦とはまったく違う特殊なもの。
名を『潜水船』、アルスフィア洋で暴れ回る海賊の母艦だった。




