第326話 カオス・エクスプロージョン
赤と水色のない混じったような超魔法が、広間を破壊しながらヒューモラス目掛けて激流のように流れ込んだ。
「勇者でもないお前たちに、この私が負けるなどという不幸があってはならないのです!!」
バッと構えたヒューモラスは、発生させていた黒い瘴気を一箇所に集めた。
魔法陣が浮かび上がり、彼は無詠唱で魔法を発動させる。
「全属性反射魔法『ネメシスの鏡』!!」
合体魔法が激流のように突っ込む。
だが、ヒューモラスの作った障壁は凄まじい威力のそれを正面から受け止めてしまっていた。
「くっそ......! やっぱ出たか」
「想定内でしょエルミナ、だったらやることは一つじゃない」
「えぇ、そうね!」
2人の髪がさらに逆立ち、魔力が高まった。
「「ゴリ押すッ!!!」」
ドンドンとパワーを強めていく『カオス・エクスプロージョン』に押されながら、天界神官ヒューモラスは叫んだ。
「なぜ世界の理に逆らおうとするのですッ!! アルナ様がいてこそこの世界のシステムは成り立っている! 短絡的な思考は全てを不幸にするとなぜわからんのです!!」
「それがクソくらえって言ってんのよ! 魔族を信仰稼ぎの悪役にしか思ってないアンタたちに、いつまでも付き合うなんて思うなッ!」
魔法の威力を高めながら、アルミナも口開く。
「ヒューモラス、わたしはあなたの行動をずっと監視していた」
氷のような水色の瞳を向けながら、彼女は続ける。
「ミハイル連邦と不可侵条約を結んだのも、魔族のためなんかじゃない。ホムンクルス製造工場を造りたかったからでしょう?」
思わずたじろぐヒューモラス。
自身への監視など、全く考えていなかったようだ。
「『ニューゲート』の座標を固定させるために、ホムンクルス製造は必須だった。だからこそあなたは水面下で冒険者クロム・グリーンフィールドを使って基礎実験を行い、工場で量産した。違う?」
「全てはアルナ様が全世界の神になるため! それが天界神官として課せられた私の使命だからこそ行ったのです!! 世界の仕組みを守るために働いてなにが悪い!」
口調を荒らげ、反論とも言えない戯言を吐く姿はあまりにも醜かった。
「図星みたいね、やっぱりあなたは最初から魔族のことなんて欠片も考えてなかった。最高幹部という称号も......わたしたちを騙すためのもの」
ドンドンと威力の上がる魔法に、ヒューモラスはジリジリと押され始めた。
「世界も理も関係ない! わたしはこの大事な妹――――エルミナと今度こそ魔族が威厳を持てる国を創る!!」
「戯言をッ......!! アルナ様に逆らって魔族が生き残れると思わないことですねェ!」
「心配はないわ、天界神官であるあなたも、天使であるリーリスも......女神であるアルナも今日をもって倒される! 勇者と魔王、蒼玉によって!」
「ふざけた......! こと......、をぉッ!!」
ニヤリと笑うアルミナ。
とうとう目前まで押し迫る魔法。
ヒューモラスは魂が枯れんばかりに叫んだ。
「アルナ様が死ねば......! この大陸で人間や魔族に紋章は二度と宿らなくなる! 魔法が使えない世代が生まれ、魔法文明が滅ぶのですぞ!!」
「それでもわたしたちは生きる、人間も魔族も自由意志の生き物。自らの力で――――女神に頼らずとも生きていける!」
アルミナとエルミナは、魔法を発動しながらお互いの頬がくっつくほどに近づいた。
「「これが魔族と人間の答えだッ!!!」」
数倍にまで跳ね上がった出力の『カオス・エクスプロージョン』が、ヒューモラスを一気に呑み込んだ。
不死属性の体が消滅してゆく。
外に飛び出した彼は、最期にニューゲートの奥に広がる街を見た。
そびえる摩天楼、"東京"という開拓された魔法のない社会はこれからこの大陸が辿る一種の通過点のような気がした。
「美しい......」
一言だけ呟いたヒューモラスは、直後に欠片も残さず消え去った。
ユグドラシルの外壁に空いた巨大な穴を見つめながら、2人の吸血鬼は崩れ落ちる。
「おわったー!」
大の字に寝っ転がるエルミナ。
一方のアルミナは、にこやかな笑顔で親指を立てるステアーとシグに――――――
「ありがと」
微笑みながら同じアクションを返した。




